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風船屋へGO!

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風船屋へGO!

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第3章

 ぽちゃり。
 人気番組「温泉へGO!」の敏腕プロデューサーのマーガレットが、女湯と男湯の露天風呂に、卵をいっぱいに盛った籠を沈める。
 音々には「温泉卵を作る」と説明していたが、実は、お湯を飲むと巨大化する色とりどりのひよこが生まれる、かわいくも凶悪なアイテム……のはずだった。
「ここへ来るたび、必ず何か事件が起っている! そんなスリリングな風船屋へようこそ〜」
 春先に風船屋で開催されたオーディションがきっかけで、メインキャスターに抜擢されたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、生番組の開始を告げる。恋人のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)を従え、その扇情的な美しい肢体をバスタイル1枚で隠しつつ強調しているセレンフィリティが、カメラに向かってポーズを決めているのは男湯の露天風呂。奥の方でゆったりと湯につかっているコリマを残して、アリクトと匡壱はあわてて逃げ出したが、セレンフィリティもマーガレットも、全く気にしていない。
「久しぶりの風船屋さんです、随分、懐かしいですねー」
 そんなことを言いながら、ちゃぷちゃぷとお湯をかき混ぜた途端。
 ぴよっ!
「あらら、ひよこが1匹泳いできました」
 と言っている間に、2匹、3匹と増えたのが、ごくごくと温泉の湯を飲んで、もこもこと大きくなって……、
「これは……巨大ひよこ! 巨大ひよこの出現です!」
「やったっ! かわいいモンスターで視聴率アップ!」
 大喜びのマーガレットの前を、巨大ひよこの群れが、とっとこ駆けていった……ところまではよかったのだが。
「な、なんだ? あんなものは知らないぞ?」
 しゅるるっ!
 湯から飛び出して、マーガレットに飛びかかったのは、スライム状のモンスターだった。
「何か嫌な予感をしていたけど、まさか、モンスターが温泉に現れるとはね……」
 しょーがない、と心の中で呟いたセレアナが、【雷術】を放つ。
 スライムがへにょりと崩れて、ほっとしたのもつかの間、湯から、再び細長く伸びた触手が、セレンフィリティのタオルを奪う!
「イヤーン……なーんちゃって!」
 はらりと落ちたタオルの下は、こんなこともあろうかと用意してきたメタリックブルーのビキニのノンストラップバージョン。
「こうなったら、某探検隊でいくわよ! 平和な温泉郷に突如現れた謎の生物! 温泉郷の伝説のモンスターか?」
 セレンフィリティは、カメラの位置を意識しつつ、スライムを【氷術】で倒したが、新たな触手が、マーガレットと番組スタッフたちに襲いかかった。
「うわあ、テレビカメラ、回っちゃってる……」
「ここでの戦闘は、アトラクションのひとつだと答えて、誤魔化すしかないですね」
 騒ぎに駆け付けた北都、クナイと、リアトリス、ベアトリス、メアトリス、スプリングロンド・ヨシュア(すぷりんぐろんど・よしゅあ)が見たのは、スライムに寄生されて、暴れまくるマーガレットとスタッフたち。正気を失って、しゃーっ! と、触手攻撃を繰り出してくるが、ごく普通のシャツとパンツ姿が、スライム触手に締め付けられている姿は、温泉の湯気でしっとりと湿っていることもあって、妙に色っぽい。
 あの触手が、北都に巻き付いたら……と、少しだけ妄想を抱いたクナイだったが、直ぐに切り替えて、【禁漁区】を形成した。
「女将さん達が、頑張って育てた風船屋が壊れたら大変! どうにかして守らなきゃ。モンスターが出ているなら退治しないとね。アトリとアリアとお義父さんの3人で、力をあわせて風船屋を守るんだから」
 と、リアトリス。
「アリスとアリアと一緒に踊った思い出の舞台! 絶対に守らなきゃ!」
 と、ベアトリス。
「久しぶりの風船屋、なんかワクワクしちゃう♪ 事件が起きてるみたいだけど、アリスとアトリとお義父さんが一緒だから、どんな強敵も楽勝だね♪」
 と、メアトリス。
 リアトリス、ベアトリス、メアトリスの3人は、フラメンコを踊りながら、迫り来る攻撃を避け、囮になったスプリングロンドが、寄生されたスタッフの周辺を走り回りながら痺れ粉をまき、お湯が入った桶をくわえて、【ブラインドスナイプス】で攻撃しながら、お湯をかける。
 リアトリスは、【超感覚】、【ドラゴンアーツ】、【鬼神力】で自分を強化。ベアトリスの【雷術】、メアトリスの【パワーブレス】で援護されながら、スイートピースライサーで、【ヒプノシス】と【レジェンドストライク】を組み合わせ技で攻撃し、スタッフを眠らせた。
 【行動予測】で触手をかわした北都は、水を撥ねる音で察知した背後からのさらなる攻撃を、【超感覚】で上げた素早さで避け、遠距離では弓による攻撃を、接近戦では【百獣拳】で全ての触手を弾いた。
 帯がほどけたり、着物が破れたりして、ちらりと見えてしまいそうになる肌は、カメラが映す前に、クナイが【風術】で風呂の湯や桶を飛ばして遮る。それでもしつこく迫るカメラは、巨大ひよこの方に興味を向けさせた。
「弱点は首の後ろ! そこを攻撃すれば、寄生された人を助けられるわよ!」
 【光術】でマーガレットに寄生していたスライムを倒したセレアナのアドバイスを受けて、北都、リアトリス、ベアトリス、メアトリスが、スタッフたちの首筋に一撃ずつお見舞いする。
 宿主からはがれ、力を失ったスライムを【火術】で焼却したセレンフィリティは、カメラに向かって、にっこりと笑った。
「いかがでした? 巨大ひよこのもふもふタイムと、謎の生物ショー、お楽しみいただけましたでしょうか。風船屋の日替わりのアトラクションは、お客様を、決して退屈させません! それでは、ニュースと天気予報を挟んで、1時間後にまたお会いしましょう!」
 スライムの残骸を、踊りながらデッキブラシで掃除する3人のフラメンコと、スプリングロンドが、モップの先だけ両前足で器用に押さえて掃除をする様子、そして、騒ぎの中でも、泰然自若としてお湯に浸かり続けているコリマ……を見たテレビの前の視聴者たちは、皆、「あれは演出だったんだ」と納得したのだった。

 ようやく落ち着きを取り戻した男湯で、気を失ったスタッフとマーガレットを、メアトリスが【ヒール】で治療し、クナイが運ぶ。
 すっきりと片付いた男湯を、リアトリスが【超感覚】と【殺気看破】、スプリングロンドが【超感覚】を使い、ベアトリスが何かおかしなものが残っていないかと、シャワーのあたりを調べてみると……、
「あるじ〜、我が主はどこであるか〜?」
 深紅と漆黒の色をした蜘蛛型のギフトスワファル・ラーメ(すわふぁる・らーめ)が、甚五郎を探していた。
「むぅ……困ったのである。目覚めてみれば主がいない。しかし此処は風呂場か? ふとした拍子に、温泉内に落ち、そこで孵化してしまったらしいな」
 スプリングロンドは、スワファルを甚五郎の元へ連れて行ってやろう、と約束して、安心させた。