First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last
リアクション
看病
「モーニングタイムの波は終わったみたいですわね」
ふぅと息を吐いてユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)はそうもらす。瑛菜が倒れたと聞いたユーリカやそのパートナーの仲間たちは、看病で忙しいだろうというミナホの代わり、手伝いとしてそれぞれ得意なことで宿業務を行なっていた。
ユーリカの担当は調理だった。食堂に食べに来る宿泊客の注文を受けて作る。基本的には厨房で働いている村人の手伝いとしてだが、手際の良さからどちらが主か分からないような仕事ぶりだった。
「あれはアルティアちゃんですわね」
食堂の先の廊下を箒を持って歩いているアルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)を見つけてユーリカは言う。アルティアもまたユーリカと同じように宿業務を行なっていた。担当は清掃だ。
「アルティアちゃんの方は順調ですの?」
仕事も一段落したこともありユーリカは村人に断りを入れてアルティアのもとに行く。
「今やれるところは全て終わらせたのでございます」
ユーリカの質問にアルティアはそう答える。新しく出来た建物であり手軽にできるといった形での清掃をする所はあまりない。
「そうですの。あたしも一段落がついたところですわ」
「新しく出来た所で少し大変でございますね」
アルティアの言葉にユーリカは頷くところがあった。ノウハウ的なものがなく、行動が手探りな状態なのだ。マニュアル的なものは一応あるが、それも穴が多い。そういったものは日々の中で洗練されていくものであるから仕方ないのだろうが。
「二人ともここにいたのであるか」
二人が話しているのを見つけ話しかけてくるのはイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)だ。イグナもまた事務的な面で宿業務の手伝いを行なっていた。
「どうかしたのでございますか?」
少し困っている様子のイグナにアルティアはそう聞く。
「近遠がどこにいるか知らないか? 探しているが見つからないのだよ」
「近遠ちゃんなら野盗達のところですわ」
逃げ出した野盗ではなく村に残っている野盗。そこにユーリカ達のパートナーである非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)はいるとユーリカは言う。
「野盗? どうしてそのような所に」
ユーリカの答えにイグナはどうしてと首をかしげる。
「ミナホさんの代わりなのでございます」
普段は野盗達の様子をミナホは見に行っていた。その代わりと、また逃げ出した野盗についての話を仲間であるはずの残った野盗に聞きに行っていたのだ。
「野盗達を見に……か。村長業務を大変であるな」
イグナはそう感想をもらす。
「小さな村とはいえ、そこまでは村長の仕事ではないと思うのでございます」
単純にミナホの人柄的なものだろうとアルティアは補足した。
「では、野盗のボス達が逃げ出すことは聞いていなかったんですか?」
残った野盗たちに話を聞いていた近遠はそう返す。
「朝いなくなって俺たちも驚いてるんだ」
野盗の言葉に近遠は少し考えこむ。嘘を付いている様子はなくだとすれば残った野盗たちは見捨てられたことになるんだろうかと思う。
「せっかく雇入れの話も入ってきてこれからって時に……」
どうしてわざわざ逃げ出すようなことをするのかと野盗の一人は言う。雇入れの話自体は野盗のボスも乗り気だったのにと。
(乗り気だった……? それならこのタイミングで逃げ出す意味は……?)
どうやら単純に野盗のボスは逃げたわけでも残された野盗達が見捨てられただけなわけでもないと近遠は思った。
「さ、瑛菜ちゃん。このゴボウ茶を飲んで水分をとって」
朦朧としてはいるが一時的に起きた瑛菜にレオーナ・ニムラヴス(れおーな・にむらゔす)はそう言ってゴボウ茶を渡す。いつもは暴走気味なレオーナだが、女の子の危機に比較的まともに看病にあたっていた。
「ミナホ様も一旦休憩されてください。瑛菜様はレオーナ様とわたくしで看病しますので」
そうミナホに伝えるのはレオーナのパートナーであるクレア・ラントレット(くれあ・らんとれっと)だ。レオーナと同じく瑛菜の看病を行なっていた。
「でも……」
クレアの言葉にミナホは少しためらう様子を見せる。
「少なくともご飯はきちんと食べられてください。ミナホ様まで倒れられたら大変です」
「そう……ですね」
感情的な部分でひっかかりをミナホは覚えていたが、それは自分の未熟さからくるものだと分かっていた。
「瑛菜ちゃん、飲めないんだったら私が口移しで……」
普段は本気でいいそうなセリフをレオーナは冗談めかして言う。言いながら飲めないんだったら他の水分摂取方法を考えないとと思いながら。
「馬鹿……それくらい自分で飲めるよ」
そうレオーナに返して瑛菜は起き上がってゴボウ茶を受け取り飲んでいく。
「ですが、思ったより瑛菜様は大丈夫そうですね」
瑛菜とレオーナのやり取りを見ながらクレアはそう言う。
「そうならいいんですが……」
今は目をさましているが、ずっと意識を失っていた様子を知るミナホは安心できない。
「ありがと。美味しかったよアテナ」
そう言って瑛菜はレオーナに飲み終わったものを渡す。そうしてそのままベッドに横になって眠りはじめた。
「「「…………………………」」」
あまりのことにその場にいる瑛菜以外の三人は無言。
「どどどどどどどどどうしようクレア! ミナホちゃん! 瑛菜ちゃんが死んじゃう!」
「お、落ち着いてくださいレオーナさん。ち、ちょっと見間違えただけですよ」
「でも、瑛菜ちゃんがアテナちゃんを見間違えるなんて……」
それはひどく悲しいことだとレオーナは言う。
「それだけ朦朧としているんでしょう。それにきっと瑛菜様はずっとアテナ様のことを心配して……」
クレアの言葉にレオーナもミナホも早く治ってほしいと願った。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
Next Last