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二ルミナスの休日

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二ルミナスの休日

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家族風呂

 どうしてこうなったんだろうと黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は自分の周りで繰り広げられる光景に思う。
「家族風呂なのでのびのび出来るのは良いのですが……竜斗さんと一緒に入るのは少し恥ずかしいです。でも日頃お世話になってますし……」
 そう言って竜斗の背中を流そうとするユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)
「温泉といえば酒に酒まんじゅうだな。湯に浸かりながらの日本酒はやっぱり最高だぜ」
 そう言って温泉に入りながらセレン・ヴァーミリオン(せれん・ゔぁーみりおん)は日本酒を少しずつ飲んでいる。
「温泉って初めてでとてもワクワクします。うーん……でもメガネが曇ってよく見えないです。とってもやっぱり見えないですし……」
 黒崎 麗(くろさき・れい)はそうしてメガネを取るか取らないか迷っている。
 場所は家族風呂。当然全員ほぼ裸な状況だ。
(本当にどうしてこうなったんだ)
 竜斗としては気のしれた仲間内で家族風呂でゆっくりしようと思っていただけだ。そのために家族風呂の予約をしてみんなで入ろうと誘った。竜斗が唯一誤算だったのは……というよりすっかり忘れ去っていたことは自分以外全て女だったということだろう。
(麗は娘(?)だしまだ何とかなるけど、セレンは男勝りだし……でも出るとこ出てるっつーか……。ユリナは……恋人だけど、だからこそできる限り気にしないようにしよう、うん)
 そんな風に自分を落ち着けようと竜斗はする。リラックスするはずの温泉で自分は何をしてるんだろうと思う。
「お父さんが言ってましたけど風呂あがりはコーヒー牛乳かフルーツ牛乳なんですよね。楽しみです」
 結局メガネは取ることにしたのか、温泉に浸かった麗はとなりで酒を飲んでいるセレンにそう話しかける。
(眼鏡なかったら何も見えないんじゃ……てことはからかってくれってフリだな?)
 ふむふむとセレンはいたずらな笑みを浮かべる。
「麗。フルーツ牛乳は風呂あがりじゃなくても温泉はいってる間に飲んでも美味しいんだぞ)
「え? そうなんですか? うーん、でもフルーツ牛乳は今持ってきてないんですよね」
「大丈夫大丈夫ちゃんとオレが用意してるから」
 そう言ってセレンは用意していた甘酒を麗に渡す。
「うわー、ありがとうございます。……って、あれ? 全然牛乳っぽくないんですね」
 目の見えない麗は疑わず甘酒を飲む。
「そりゃ、フルーツ牛乳だからな」
「うーん……なんだか頭がふらふらして来ました。これがのぼせるということなんでしょうか」
 と、どう見ても甘酒でよった様子の麗。
「はうぅ……自分でもはっきり分かるくらい顔が暑いです。……でもこ、恋人なら一緒にお風呂に入るのは普通ですよね! だから頑張ります!」
 そんな麗とセレンのやり取りに気づいた様子もなくユリナは竜斗の背中を恥ずかしながら洗う。一生懸命なのかいろいろ危ない部分に接触があるのだがユリナはそれに気づく様子はない。
(あれ……温泉つかってないのにのぼせて……)
「? 竜斗さん……?……って、り、竜斗さんどうしたんですか!?」
 ユリナの慌てた声を最後に竜斗は意識を手放した。


「となりはなんだか騒がしいの」
 隣の家族風呂の喧騒に大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)はそう言う。そこまで壁が薄いわけではないはずだが隣――竜斗たち――の騒ぎは響いていた。
「これくらいの騒ぎならそう気にならないであります」
 そう返すのは大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)だ。騒ぎが気にならないと言うよりも一緒に来たコーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)のことが気になって仕方ないと言ったふうだ。
「湯を上がったらわしは一眠りするからの。コーディリアと二人でデートにいったらどうかの」
 そんな剛太郎の様子を見抜いているのか藤右衛門はそう言う。
「……そうでありますな。誘ってみるであります」
 本当はコーディリアと一緒に混浴できたらと思ってたりするが藤右衛門がいる手前それは難しい。
「しかし、いい湯じゃの。やはり温泉というものは良い物じゃ」
「自分としてはもう少し温めがいいでありますが……怪我などにはよく効いてるようであります」
 仕事での疲労による肩や首のコリ、腰痛、地味に痛いケガなどに効いてる感じがすると剛太郎は言う。
「そうじゃのう。わしも最近は肩と腰と膝が痛かったからの。よく効いてるの」
 そう言って藤右衛門は極自然に温泉の湯を飲む。
「……飲んでも大丈夫なのでありますか?」
「注意書きに飲んではダメとはなかったし大丈夫じゃないかの」
 そんな感じで二人は温泉で疲れを癒した。

 二人が家族風呂を出た後。
「意志薄弱を治す温泉……私の引っ込み思案も――」
 ――治らないでしょうか。そう口にする前に恥ずかしそうにコーディリアは湯に沈む。
 周りには誰もいないが、それを口にだすのは恥ずかしかった。
(……そういえばこの湯にさっきまで剛太郎様が……)
 そこまで考えた所でコーディリアはブンブンと頭を振る。美容・健康・意志薄弱に効くという温泉は自分にとって望んだものだ。できるだけ長く浸かっていたいのにそのまま考え続ければもう入っていられなそうだった。
(三つ全部なんて言いませんから……意志薄弱を治す効果だけでもありますように……)
 そうコーディリアは願い温泉に深く浸かった。


「あ、そこのあなた。温泉上がり? あたしも今上がったところなんだけど」
 温泉施設の入口付近。そこで立っている男を見つけてミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)は声をかける。目的はもちろん男遊びだ。
「自分……でありますか?」
「そそ。あなたあなた。もしよかったら――」
「――剛太郎様! お、お待たせいたしました」
 ミネッティの言葉にかぶせるようにコーディリアは男――剛太郎――に声をかけ、腕を組む。
「なーんだ……女連れか。残念」
 ミネッティはそう言ってもう剛太郎に興味をなくしたように次の男を探す。
「コ、コーディリア? どうしたでありますか?」
 いつになく積極的なコーディリアに剛太郎は戸惑いの声を上げる。
「少しだけ、頑張ってみました」
 そう言ってコーディリアは剛太郎の腕にもう少し強く抱きつく。心臓はばくばくでいつ破裂するかと心配なくらいだ。
(温泉の効果でしょうか……願わくばもう少しだけこの勇気が長続きしますように……)
 せめてこのデートが終わるまで。そう願いながらコーディリアは剛太郎とともに夜の村へと歩いて行った。


「あ、男発見……ねぇ――」
 ミネッティは家族風呂からちょうど出てきた男を見つけて声を上げようとする。

「……不覚だ。気を失うとは」
「竜斗さん? まだ調子悪いようなら麗ちゃんを背負うの変わりましょうか?」
「ユリ、それくらい男に任せな」
「……麗が酔っ払って倒れたのはセレンのせいだからな。反省しろよ」
「女に当てられてのぼせた奴に言われても説得力ないな」

「――何あれ? ハーレム?」
 男一人に女三人が家族風呂から出ていくのを見送りながらミネッティは呟く。
「ってか見つけた若い男全員女連れってどういうことなのよ」
 まず第一に若い男が少ない。それで見つけた男はすべて女と一緒に行動していた。
「美容効果のある温泉は堪能したし名目上の目的は達したけど……」
 選り好みしなければちょっとした男遊びくらいはできるだろうと思ってただけにミネッティのフラストレーションは溜まっていた。
「お、次の男発見。……松葉杖ついてるってことはけが人かな」
 できれば健康的な方がいいが選択肢は少ないとミネッティは突撃する。
「ねぇ、あなたもこの宿に泊まってるの? あたしもなんだけど、遊びに来たのに一人で寂しいの。今晩暇じゃない?」
 常套句を口にしてミネッティは松葉杖の男に話しかける。
「ふん……逆ナンか」
「む……冷静な返し。もしかして遊び慣れてる?」
 だとしたら思ったよりも楽しめるかもとミネッティは思う。
「それなりにな。……といっても女遊びなんて最後にしたのいつだ?」
 松葉杖の男はそう言って少し考えこむ。
「そんなことどうでもいいじゃない。久しぶりって言うなら存分に楽しみましょうよ」
「悪いが、見ての通りけが人だ。ご期待に添えるかどうかは微妙だぞ?」
「それはそれでやりようあるわよ。最悪話すだけでもいいし」
 ユリナやコーディリアあたりが聞いていたら卒倒しそうな会話を二人は気負いなく続ける。
「物好きな女だ……まぁ、一人も飽きてきたところだ。好きにしろ」
「やった。じゃ、今日はよろしくね。……ところでなんて呼べばいいの?」
「ユーグだ。……ああ、そうだ。思い出した」
「思い出したって?」
「最後に女遊びをしたのがいつかだ」
「ふーん、いつ?」
 特に興味はないがミネッティは部屋に行くまでの話の種に聞く。
「ふん。内緒だ」
 そうユーグは答える。
(野盗の……それもボスとかお頭なんて呼ばれてからしてないなんて言えないな)
 それは別に野盗であることを言えないわけでなく、女遊びをしない野盗なんてらしくないから。