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リアクション
マデリエネ・クリストフェルション(までりえね・くりすとふぇるしょん) 雪 汐月(すすぎ・しづく)
竜族に伝わる長い裾の衣服である竜の長袍をまとったドラゴニュートのマデリエネ・クリストフェルションは、自分からアンベール男爵に面談を求めて、指示された時間に男爵の部屋を訪れた。
専門店を営むほどの煙草好きの彼女にしてはめずらしく、煙管、パイプその他の喫煙用具を一切持たず、ただ話をするためだけにソファーに腰かけている。
「それで私にお話とはなんでしょうか。マデリエネさん」
マデリエネとテーブルを挟んでまむかいに座ったアンベール男爵の隣の席には、黒いドレスの女がいる。
屋敷内のどこに行くにも男爵が連れている、まったく口を開かない妙齢の謎めいた美女だ。
「我がここに呼ばれたのは、殺人事件の被害者、デュヴィーン男爵と家具職人のアーヴィンが我が店の客だからだろう。それはたしかに事実だが、我はあの2人はなにも関係がないぞ。
こうして我が呼ばれたことにパートナーの汐月が心に衝撃を受けておる。
我は汐月が心配だ」
「事件と無関係ならば、この真実の館におこしになるまでもなかったこと。
わざわざ招待におうじてくださったのは、あなたなりのお考えがあってのことでしょう。
しかし、まぁ、あなたが帰りたいというのならば、私にそれをとめる権利はありません。
どうぞ、館をでていってくださって結構です。
執事かメイドに一言、伝えていってくだされば挨拶は無用です。
もしかして、私にこれを直接、伝えるためだけに館にいらしたのですか、だとしたら、大変、失礼しました。
それでは、また」
男爵は、マデリエネに退出をうながすように、座ったまま会釈をした。
「いやいや我のほうこそまわりくどい言い方をしてしまったようだのう。
汐月は心配だ。
そして、我は、我のような、事件とたいして関係がないとわかっているものまで集めたこの館で、表むきの用件とは別の、なにかが行われようとしているかもしれぬのが、気になる。
そなたは、なにをしようとしておる。
事件の関係者を集められるだけ集めて、なにものからか守るつもりか。
はたまた、皆殺しにでもするのかのう。
そなたは、ほんとうにアンベール男爵なのかのう」
短い沈黙の間、マデリエネと男爵は見つめあう。マデリエネは、男爵の目の奥に、この状況を愉しんでいる色をみた気がした。
「私はアンベールです。御安心ください」
「そなたがアンベール男爵でなければ、安心できぬなにかがここにはあるのかのう」
マデリエネは待ったが、男爵はそれ以上はこたえず、立ち上がって頭をさげ、女を連れて退席した。