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御空 天泣(みそら・てんきゅう) ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち) 



「事件の核心に気づいた時点で、男爵からの反撃にもっと警戒しておくべきだった。
僕はパートナーのラヴィーナとアンベール男爵に話をしにいきました。

独自に捜査した末、僕がたどりついた事件の真実は、マジェスティックの裏社会の顔役であるアンベール男爵が、ロンドン博物館の不用になった美術品を買い取り、それに家具職人のアーヴィンに細工を施させ、内部に、麻薬などを仕込んだうえでオークションにだしたりして販売している、というものでした。

マジェの博物館の展示品は、ほとんどがよく出来たレプリカですから、経年劣化で痛んだり、破損したりすれば新品と交換します。
男爵はそのシステムを利用して、お役御免になった展示品を入手していました。

デュヴィーン館長は男爵のビジネスを知っていながら、彼のたくらみを手伝い私腹をこやしていた。
アーヴィンもです。

薬物の一部は、これもまたアンベール男爵が裏で支配しているハーブ園の植物を原料にして製造されていました。
そして、違法薬物付きのレプリカの美術品は、パラミタだけでなく、地球にも輸出され、アンベール男爵の組織に莫大な利益をもたらした」


「天ちゃんは、男の人と話すのが苦手なんだ。
館にきたはいいけど、やっぱり、ムハはどっかに消えちゃうし、天ちゃんと一緒に男爵の部屋へ行って、ボクが男爵に天ちゃんの推理を披露したんだよ。
ボクは天ちゃんのパートナーのラヴィーナ・スミェールチ」


「犯人はね、キミ。アンベール男爵だよね。
素敵なビジネスを展開したキミたちは、あがりの額が大きくなるにつれて、関係が悪化していった。
そうして、面倒になってきたキミは、引き金をひいたんだ」

「私が館長と職人を殺した、と」

「もちろん、自分でやりはしないよね。
部下に命じて、邪魔になった2人を殺害させ、ついでに証拠も隠滅させた。
それから、実行犯のそいつらもまた別の部下たちに始末させて、動物園の動物のエサにしちゃったんだよ。
違うかな」

「証拠もなくそんなことを言っていると名誉棄損で訴えられますよ」

「キミがボクらを訴えるわけ。
ボクらが邪魔なら、キミのこれまでのやり方からして、脅すとか殺すんじゃないの」


ボクはおもしろ半分でつい余計ことを言っちゃったんだよね」

「僕もまさか男爵が直接、暴行したりするとは考えていませんでした。
だから、まず、捜査で手に入れたデーターを示し、推理を話して、彼の反応をみるつもりだったのです。
ラヴィーナは、僕らに入手した証拠品を男爵にみせました。
以前はロンドン博物館に展示されていた、かってのフランス皇帝のかぎ煙草入れです。
レプリカですが、中が二重底になっています。
それを僕らは、この真実の館の隠し倉庫でみつけました。」


「これ、この館でみつけちゃった。
ヤードへ持ってゆく前に男爵に相談しなきゃ、と思って。
キミがボクらにくれるって言うなら、ボクもネットや蚤の市で売ってみようかな。
おまけも入っているし、いい値がつくかも」


「ボクが言い終わらないうちに、ボクの手の平の上でかぎ煙草入れが粉々に砕けたんだ」

「かぎ煙草入れが壊れた音をきいて、僕はとっさにラヴィーナをかばって前にでました。
そうしたら、みえないなにかに服が切り裂かれ、ほんの一瞬で、僕の腕、胸、腹、首、顔のあちこちから血が流れだしたのです。
男爵がなんの武器を使ったのか、わかりませんが、かなりの痛みがありました。
複数のカマイタチに同時に襲われたような不思議な感じです。
僕は、傷のダメージで、ラヴィーナにおおいかぶさったまま、動けなくなり、このまま殺される、と思いました」


「ボクは天ちゃんの体の下で、天ちゃんがバラバラにされて、動物のエサにされちゃうって、さすがにアセったよ。
でも、男爵はそれ以上は襲ってこなかったんだ」


「僕たちが部屋に入った時から、男爵の横にいた黒いドレスの女性が助けてくれました。
ずっと、男爵の隣にいて、黙って無表情で座っていた彼女が、僕に襲いかかった男爵に体当たりして、跳ね飛ばしてくれたんです。
男爵はそのまま部屋をでました。
彼女は自分の服が汚れるのも気にせずに、僕を抱き起し、僕とラヴィーナをこの屋根裏部屋に案内してくれました。それで僕らはここいる人たちに手当してもらって、こうしてるんです」


「あの女の人は、ボクにも天ちゃんにもなんにも話さなかったから、よくわかんないんだ。
きれいな人だったけど、妙に存在感がなくて、人間っぽくなかったかな。
ボクらを連れてきてくれたあと、また1人でどっかへいっちゃったから、男爵に襲われてないといいけど」