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リアクション
御空 天泣(みそら・てんきゅう) ラヴィーナ・スミェールチ(らびーな・すみぇーるち) 日下部 社(くさかべ・やしろ) 五月葉 終夏(さつきば・おりが)
御空天泣とラヴィーナ・スミェールチが、月葉終夏、日下部社、オリバーと話し終えた後、オリバーは、ぐったりとしている天泣に顔を近づけた。
「大丈夫か。
なぁ、おまえは事件のだいたいがわかっているんだろ。
キャロルがどうなったか知らないか。
博物館のデュヴィーン館長の娘のキャロルだ。
あいつは、自分の父親がしていたことの決着をつけにあの夜、動物園へ行ったんだ。
けど、それから、どうなったのかわからない。
俺は、あいつが、アンベールの仲間たちに殺された。殺された、と思っている。
俺はオリバー。
家具職人のアーヴィンの息子で、キャロルの恋人だ。
俺も、動物園へ行った。でも、キャロルを助けられなかったんだ」
過去のつらい経験のせいで男性と話すのが苦手な天泣は、オリバーからつい顔をそむけてしまった。
「おい。俺をみろ。俺の話をきけよ」
「オリバーくん。落ち着いて。天泣くんは、ケガしてるだから」
天泣を激しくゆさぶるオリバーの肩をうしろからおさえ、終夏がとめる。
「待ってよ。ボクも天ちゃんもがんばって捜査したんだ。
わかってることはお話しするから、ね、いいでしょう。
天ちゃんは傷が痛むみたいだから、かわりにボクがこたえるね」
天泣とオリバーの間に入ってきたラヴィーナが、場の空気をゆるめるようににっこり笑った。
童顔で年齢よりもずっと若くみえるラヴィーナは、まるで10代かそれより下の少年のようだ。
「あのね。ボクらはキャロルさんについては、きいたことないよ。
デュヴィーン館長に娘さんがいるなんて、オリバーくんに言われて、いま、はじめて知ったんだ。
ほんとだよ。」
かわいらしく首を傾げるラヴィーナをオリバーはにらみつける。
「キャロルは父親の裏の仕事に深入りしてなかってことか」
「ボクらは、事件の関係者さんにも聞き込みしたりしたけれど、誰もキャロルさんの話はしなかったよ。
信じて」
目線を床に落とすと、オリバーは天泣から離れる。
オリバーがさがったので、ラヴィーナと終夏がむきあう形になった。
終夏もまた、感じた疑問をラヴィーナにたずねた。
「私、さっきの話をきいていて思ったんだけど、あなたたちが男爵に襲われた時、イヤな音がしなかった」
「音ってなんの音。どんな音」
「楽器のような、機械の動作音のような、人の声にもきこえる音。
一瞬だけど、すごく高い耳鳴りみたいな感じ。
男爵の使ったみえない武器は、そんな音がしていたんじゃないかな、と思って」
「うーん。ボクにはわかんないかな。
ちょっと待ってね。そういえば、かぎ煙草入れが割れた時に、キーンっていうか、ギン! っていう痛そうな音をきいた気がする。
でも、自信ないな」
「僕も聞いた気がする。体を切られた時にカン高い鋭い音が耳元でしたような」
天泣もこたえる。
2人の返事をきき、終夏はもう一度、あの音を耳の奥によみがえらせた。
陶器を、衣服を、人をまばたきする間もなく切り裂くみえない力。
天泣くんは襲われて、大けがをした。
動物園では、
「もし、もしだよ。動物園で男爵がその音をさせていたとしたら、彼はあの夜、なにをしていたのかな」
誰もこたえない。