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逃げ惑う罪人はテンプルナイツ

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逃げ惑う罪人はテンプルナイツ

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第8章 思惑

「おい、大丈夫か?」
「はい……ありがとうございます……」
 マリアはふらつく頭を押さえながら、なんとかシリウスの顔をとらえることが出来た。
 気がつけば、契約者達が何人もその場所に駆けつけていた。

「マリアさん、どうして指輪なんて盗んで逃げ出したりしたの?」
 シャノンの問いかけにマリアは黙り込む。
「グランツ教のテンプルナイツの中には、パラミタの人間を洗脳、殺してまでもその存在を知らしめようとする人が居るのですわ」
「え、どうして……ここに?! だって、あなた地球に帰ってたんじゃ――」
 ゆっくりと歩み寄ってくるローズフランの姿に、まるで幽霊でもみたかのような顔をした。
 ローズフランは1つ深いため息をつく。
「『グランツ教』に恩返しするといって意気揚々と出て行った誰かさんの様子を見に来たのよ」

「う……」
 マリアは顔を赤くしながらそっぽを向いた。
 なんとかローズフランが驚くような答えを返してやりたい、そう思ったマリアは頭の中で言葉を選ぶ。
「君は無自覚でもきっと、何かするべき事が決まったんじゃないかな」
 サビクの言葉を聞いて、と数時間前、詩穂からのテレパシーを思い出した。
(真実を。公にする……)
 なぜ、指輪を持ち出したのか……その理由もそこにあったのだった。
 サビクはまだ答えの出せていないマリアに言葉を続けた。
「まあ、言うなら神の国は人の心の中にある……君の心の中はどうだろうね」
 その言葉の意味をよく考える。
 パラミタのみんなを守る。そもそも、グランツ教に入ったのは、それが理由だった。
 しかし、気がつけばマリアはグランツ教に使われ、そして何人かの信者とパラミタの人達が死んでしまった。
 それが、今の紛れもない事実だった。
 なら、今はグランツ教を止めることが、マリアのやるべきことだった。

「命を救ってくれたグランツ教の闇を……いえ、パラミタの人達をグランツ教の闇から守りたい!!」
 マリアは目をきりっとさせ、ローズフランを睨むようにしていった。
「ぷっ……ハハハハハハハハッ、マリアはやっぱりバカですわ。大馬鹿ですわ」
 だが、ローズフランはそれを大きく笑った。
 しかし、少し笑うとすぐにまじめな表情を取り戻した。
「お嬢さん方? 水を差すようで悪いんだけどどんな関係なのかな」
 エースは首に手を当てて、不思議そうに聞く。
 答えたのはローズフランだった。
「マリアは私と契約した、不出来なパートナーですわ」
「しばらく合ってなかったのかい?」
「ええ、昔はグランツ教に反感を覚えていた私と猛反発しまして、あのときは面白かったのですわ。マリアったら、『フランなんてきらいー』だなんて子供みたいなことを言って――」
「言ってないです!!」
 マリアが慌てて、フランを睨み付ける。
「まっ、貴方と喧嘩したことは水に流してあげますわ。とりあえずここを脱出しますわよ。グランツ教を滅ぼすのはそれからですわ」
「ありが――って、別に滅ぼそうとか私は考えてないですからね!?」
「そういうことにしといてあげますわ」
「むー」
 ローズフランは笑顔で、マリアはどこかふくれっ面で怒る。

「感動の再会ごっこは終わったかね」
「!」
 突然の声に全員が振り返る。
 そこには何十人ものテンプルナイツ達を引き連れて、グロッグ司祭がにやりとして立っていた。
 助けに来てくれた契約者達はほとんど、他のテンプルナイツやマリアを襲う者達を押さえるために分散しており、こちらの人ではほとんど居なかった。
 指輪をつかって戦うという方法も思いついたのだが、根本的に今のマリアには戦う気力がほとんど残っていなかった。
「……逃げますわよ」
 マリアは頷くと、その場の全員が振り返り奧へと走り出した。

「ふん、どうせこの先は逃げ道が無いんだ。ゆっくりと捕まえてやる。おい、追え!!」 
 グロッグ司祭はテンプルナイツと賞金稼ぎ達に追尾させる。