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逃げ惑う罪人はテンプルナイツ

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逃げ惑う罪人はテンプルナイツ

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第5章 確実に近づいていく
「へ〜、地下水道を抜けたところに地下遺跡ってこういう事だったんですね」
 コンクリート作りの壁が突然ぼろぼろレンガ通りに変わったことに、シャノン・エルクストン(しゃのん・えるくすとん)は感嘆を漏らしていた。
「すぐに崩れそう……あまり、下手に触らない方が良いですわ」
 ローズフランはボロボロのレンガ壁を眺めて言った。
「こっちに穴があるよ!!」
 レンガの壁にぽっくりと空いた穴を見つけ、カル・カルカー(かる・かるかー)は声を上げた。
 すでに誰かがこの中に入ったらしい後もあった。ただ、その穴は下に向かって伸びていることから地下に向かっているらしかった。
 どうしたものかと、その場にいる全員が一度顔を見合わせる。
 しかし、そんな一同をよそに先に入っていったのはローズフランだった。

「しっかし、ローズフランはどうして賞金稼ぎをしているの?」
「生活費のためですわ……それ以外にあるかしら?」
「うっ……」
 カルはなんとかしてローズフランと会話を続けようとしたが、奥手な正確もあってなのか、なかなかうまくいかなかった。
 ならばと、次の質問を投げかけようとカルが意気込んだときだった。
 目の前を先導してくれていた夏侯 惇(かこう・とん)が突然立ち止まった。
「そこに隠れているのは誰だ」
「え?」
 突然、惇の放った言葉にカルは目を疑った。何度惇が見る先は真っ暗で何も居ないように見えた。
 しかし、いまの惇は”ダークビジョン”をつけている。それで見えているのだろう。
 つまりは暗闇の先に何かが潜んでいるらしい。
 惇は光術を何者かがいるらしい所へと放った。

「見つかってしまいましたね……」
「すまんのぉ。これでも見つからないように”隠形の術”を強くしておったんじゃが」
 長い間、ばれなかった隠形の術だったが、何度もつかっているためにボロがでてしまったのだと、辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は内心で思いながらも、ファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)に頭を下げる。
「また、お前達か」
 低い声でグレゴワール・ド・ギー(ぐれごわーる・どぎー)は言う。
 兜の向こうからは睨むような圧迫感を刹那達は感じていた。しかし、ファンドラは全く表情1つ変えず、それどころか笑って見せた。
「別に今回はどうとするわけではありませんよ。ただ刹那さんの本来の仕事のお手伝いで来ただけですので」
「……殺気をだしておきながら良く言うのですわね」
 ローズフランは拳銃2丁をファンドラに向けて構える。
 しかし、それをジョン・オーク(じょん・おーく)が手で押さえた。
「いけませんよ。かわいい人。そうでなくても、こんなむさ苦しい場所には似合わない。厄介事とは私達の領分です」
「……どうするつもりなのかしら?」

「ま、おまえはその辺でぼーっとみてろってことさ」
 ドリル・ホール(どりる・ほーる)は機関銃を取り出した。
「先ほども言いましたが、今回は仕事で来ています。だから……」
 ファンドラは目を細め、腰を低くするとローズフラン達に対して攻撃態勢をとった。
「今回は本気で行きますよ」
 槍を構えてそのまま、ローズフランへとファンドラは突進していく。
「させるかよっ!!」
 突進するファンドラの手前に、ドリルが放った”火術”による火が飛んでくる。
 ファンドラはそれを華麗にかわしなおも突進してくる。
「ちっ、ちょこまかとうごきやがる!」
 再びドリルは”火術”を使おうと試みる。が、銃声音と共にドリルの肩に激しい痛みが襲いかかり、思わずしゃがみ込んだ。

「命中……次ノターゲットを補足開始」
 刹那達の背後で、スナイパーライフルをイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)は構えていた。
 ドリルを行動不能にしたことなどを喜ぶ素振りを見せることもなく、ただ無表情でスコープをのぞき込んでいる。
「物騒なものを構えていますね?」
「……!」
 横から聞こえてくる声に、イブは慌ててスコープから目を離し、ライフルを声の主に向けた。
 ライフルを向けられたジョンはにこやかに笑みを浮かべると、ライトブレードでライフルの先端を切り裂いた。
 カルは”指揮”で、惇の見た情報を判断、的確にジョンとドリルに指示をしていたのだった。
「スナイパーライフル損傷……次ノ行動ヲ判断……」
 イブは正確にジョンの太刀筋を頭の中で計算していく。
 その隙を狙ってシャノンの稲妻”天のいかづち”がイブへと降り注いだ。
「……スミマセン、マスター……行動……フ……能」
 静かにイブは倒れた。
「助かりましたよ」

「いえ、そんなことよりあの小さな人を!!」
「小さな人……あの人ですか、居ない?」
 ジョンは先ほどまで近くに居たはずである刹那を完全に見失っていた。
 直後、ファンドラ達の方から鉄がぶつかり合う金属音が鳴り響いた。
 それだけではなく、さらに離れたところからカルの”氷術”までも2013/7/15 (Mon) 1:53がファンドラを襲う。
「ぼ、僕だってやるときゃがんばるんだ!」
 さすがにグレゴワールとカルを相手にするのはファンドラにとって良い状況ではなかった。
「やりますね……」
 ファンドラは肩を揺らし、息を切らしながら、目の前にたたずむグレゴワールを見た。
 グレゴワールは息を切らすこともなく、ただ見下ろすようにこちらを見ていた。
 ならばと、ファンドラは後ろへ手を回した。それをグレゴワールは見逃さなかった。
「シャノン殿!!!」
「わかった!」
 グレゴワールが何かをシャノンに合図した途端、周りに”毒虫の群れ”が地下遺跡を飛び出した。
「に、逃げ――撤退!!」
 慌ててカル達はローズフランを守るようにして後ろに下がる。
 その直後だった、シャノンは大声で叫んだ。
「みんなしゃがんで!!」
「え、あ。わ、わあああああっ!?」
 カルは目の前に飛んでくる大きな火の玉を慌ててしゃがんで避ける。
 火の玉は、毒虫の群れを巻き込み刹那の方へと向かっていく。

「なんじゃとっ!?」
 思わず刹那は驚きの声をあげる。だが、その頃にはすでに毒虫は半数近くが燃え切ってしまう。
 燃え切った、隙間をグレゴワールは全力で走るとファンドラの首元に剣を突き当てた。
「このような奇術、既に見飽きたわ! 疾く去るが良い!」
「くっ……」

「痛っ……まんまとやられたのじゃ……こうなったらもう一度……」
 先ほどの火の玉に思わず、壁際に下がっていた刹那はゆっくりと体制を戻す。
 そして、ポケットに手を突っ込み”痺れ粉”を取り出そうとしたときだった。
 その手はカルの”サイコキネシス”によってはじき飛ばされた。
「そこまでだよ!!」
「ぬ……やるのぉ」

「僕だってやるときはがんばるんだよ!!」
「それ……同じ台詞をさきもきいたぜ……」
 ファンドラに受けた傷を抱えながらも、ドリルは的確に突っ込んだ。

「くっ、今日の所は仕方ありません。あなた達に譲りましょう……行きますよ」
 ファンドラはそのまま、ローズフラン達の横を通り過ぎていく。
 それを刹那達も追いかけていった。

「大丈夫ですの?」
 ローズフランは傷を受けているドリルを心配そうに見ていた。
 ぶっきらぼうであったはずの彼女が、心配そうな表情を浮かべることがまた斬新で、その場にいた人全員が驚いた。
「お、おお。このぐらいたいしたことないぜ!」
「マリアさんはまだ先なんですね……」
 シャノンは通路の奧を見ながらつぶやいた。
「急がなければ、マリアの命も危ういですわね……」
「……命?」
「……」
 カルが聞くとローズフランは思わず黙り込んだ。
 
 ローズフランは戸惑っていた。現にマリアを助けるために何人か動いてくれていることに。
 そして、今この人達に情報を与えても良いのか。
(懸賞金稼ぎとして伝えられること……)
「あの指輪には実は、まだ誰も知らない力があるの……強化能力」
「強化能力です……か?」
 いまいちよく分からないと、首を傾げながらシャノンは聞き返すとローズフランは軽く頷いた。
「ええ、どうしてマリアはこんな奥まで1人で進めたと思いますの?」
「……そうか、やっと見えた。それが指輪によって強化能力を得たマリアなのだな」
 惇の答えにローズフランはその通りだと強く頷いた。
「つまり、このまま力を使い続ければマリアは……ここから抜け出せることなく死にますわ」
 その言葉に誰もが息を詰まらせた。

    §

「で、その確率は本物なのですね」
 ローズフラン達に退けられ、地下水道の出口を目指す中、ファンドラはイブに聞き直した。
「アノ指輪ハ、使ウ人ノ命ヲ削リマス。ソースノ正確度78%」
「ふむ、その代わり力を得ておるからマリアは1人で平気なのじゃな」
「マタアノサキに巨大スライムノ巣アリ。コレニヨリマリアノ死亡確率98.5%」
「……ふっ。そうか。つまりは何もしなくても死ぬということか」
 ファンドラはこみ上げてくる笑みを押さえ、その後に予想される最悪の結果を喜んでいた。