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リアクション
「ところでイルミンスールを騒がしている正体不明の魔術師について知っている事はありませんか? 些細な事でも構いませんからお願いします」
舞花は最も聞こうと思っていた質問をした。
「あ、何か凄いのがいるって奴だね。もしかしてみんなが関わってるの? すごーい!! 仲間内で解決した人はどんな人なんだろうって話しててさ!!」
ウララはテンション高く騒ぎ始めた。
「ウララ」
ヨシノははしたないウララに静かに注意をする。
「あ、はい。気にはなっているけど、ほらあたし達調薬が主だから。詳しい事は調べてないかな。あ、必要だったら調べてみるよ? ね、会長」
ウララは、ヨシノに目でたしなめられ大人しくしてからさらなる協力を申し出ようと会長にお伺いをたてる。
「そうですね。分かり次第、そちらにお知らせします」
ヨシノはあっさりと許可を出す。
「事情は聞いているとは思うが、現在その魔術師との対決準備で危機回避装置の解除に手間取っている。良ければ力を貸して貰えないか」
甚五郎はこの機会にと現在手こずっている作業についても協力を頼む。
「構いませんよ。後で人を向かわせますね」
これまたあっさりとヨシノは快諾するのだった。人が良いのか他に思惑があるのか穏和な笑みからは誰も読み取れない。
「ポチ、どうですか?」
フレンディスはポチの助に作業の案配を訊ねた。
「ふふん、全部とりまとめて入力したのですよ!」
ポチの助は胸を張って答えた。しっかりとフレンディスの役に立っていると実感している事は明らか。
「お疲れ様です。もう少しだけお願いしますね」
フレンディスはにこにこ笑ってポチの助を労い、もう少しだけ頑張って貰う事に。
なぜなら、ヨシノから聞き出したいレシピは他にもあるからだ。
それを聞くのは別の人達。
「一段落したところでこのレシピに記されている薬を作り出す方法は無いでしょうか」
ロアは遺跡で発見したレシピを取り出し、ヨシノに手渡した。
「もしかしてあの遺跡から出て来たものですか?」
ヨシノは一通りレシピを確認した後、正体について訊ねた。
「そうです。その内容は調薬に詳しいのでしたら分かると思いますが」
ロアは静かにうなずいた。
「はい。魔力を失わせる魔法薬ですね。遺跡で起きた事は聞いています。これが作られた経緯も」
ヨシノはロアの思った通りあっという間にレシピの内容を見抜いた。
「それでこのレシピで必要な物のほとんどが現在手に入らない物なのですが、現存する物で応用できないでしょうか」
ロアはどうにか出来ないか必死に訊ねる。なぜなら上手く利用すればグラキエスの助けに使えるのではと考えているからだ。
「調薬を主な活動としているならばオリジナル素材を作っているんじゃないさねよ?」
マリナレーゼも調薬という事で話しに加わった。
「……確かに研究していますが、これに必要なのは、発見が難しい貴重な物や現在には存在していないオリジナル素材と思われる物ばかり。作製手順も難しく危険」
ヨシノは言いにくそうに思った事を口にした。
「……会長、代用出来る物あるでしょ。ほら、今試行錯誤中で難しいて嘆いてる素材」
ウララがロア達の力になりたいと話しに加わった。
「確かにそうですが、たとえ代用が出来たとしても効果はオリジナルよりは落ちますよ。それでは意味が無いのでしょう?」
ヨシノはじっと静かな目でロアを見つめた。ロア達の詳細な事情は知らないが、何となく必要である事は悟っていた。
「そうですね。オリジナルにも劣らぬ効果を発揮する物が必要です」
ロアは静かに答えた。中途半端な物が出来ても困る。必ず役に立つと保証された物が必要なのだ。
「……そうですか」
ヨシノは何か心当たりがあるのか考え込み始めた。
「もかしかして心当たりがあるのか? あるのなら話してくれないか」
グラキエスがヨシノの様子から何かあると察知し、食いついた。
「お願い出来ませんか。私達にとって必要な物なのです」
『説得』を持つロアも必死に頼み込む。
「……私達の団体は人として守るべきものを守る事に気を付けて出来る限り外れないようにしています。それは人を守りますが、無茶で生まれる薬は出来にくいです。優先すべき事が違いますから。もちろん、私達の団体の中でも今回の鎮痛剤を必要とする者のような人はいますが、多くはありません」
ヨシノは急に自分達の団体について話し始めた。あまり答えを言わずに済むように遠回りしているかのように。
「……会長」
ヨシノが言おうとしている事を知っているウララは心配の目でヨシノを見つめている。
「……あまり勧めたくはないのですが、彼らなら探求会なら作り出せると思います。彼らは私達と違い調薬に対して容赦なく追求していますし腕も良いですから。もちろん私達の所にも腕が良い者はいますが。もしかしたらこのレシピに載っている本物を作る事が出来るかも知れませんし、出来なくとも作り出す代用品はかなりの効果を発揮すると思います」
ヨシノはロアの真剣な双眸を見つめながら心当たりを話した。
「……そうですか」
「もし彼らに頼んだら快く引き受けてくれるだろうか」
何事かを考えるロアに代わってグラキエスが探求会について訊ねた。
「おそらく喜んでするはずです。調薬の追求が主ですが、人のために調薬はしているみたいですから。善悪関係なくですが」
ヨシノは複雑な表情でグラキエスに答えた。
「あの人達、無茶な事をしても自分達は研究者とかだから当然って思ってるからなぁ」
ウララもヨシノと同じ表情だった。
「そうですか。つまり希望はあるという事ですね」
ロアは念を押した。
「……はい。もちろん、私達に出来る事がありましたら惜しみなく力を貸しますよ」
「あたし達も何とか出来ないかやってみるよ」
ヨシノとウララはこれまた協力を申し出た。
「ありがとうございます」
ロアは丁寧に礼を言った。まだ希望はあった。それがロアにとっては何より嬉しい事であった。
「……よかった」
グラキエスにとっても喜ばしい事。自分に希望がある事よりも本日ゴルガイスとロアが楽しめたから。
「……大変さね。良かったら個人的にも力を貸したいさねよ?」
マリナレーゼはこれまでの実績を生かし商売人として力を貸したいと思っていた。
「個人的にですか?」
ヨシノはまさかの申し出に聞き返した。
「そうさね。同じ薬学の知識を有する者として調薬の開発や発展や情報収集のための手伝いのために資金援助や相談役になりたいと思うさね。話を聞く限り随分大変のようだから」
マリナレーゼの真の目的は台詞後半である。
「……それはありがたいですが」
ヨシノは申し訳なさそうに言葉を濁らせる。
そこに
「ご心配はありません。マリナさんはとても頼りになります。それに私達もいます。ポチ、マスター」
人助けだとフレンディスが話しに登場。
「仕方が無いですね。ご主人様のためでしたらこの優秀なるハイテク情報忍犬たるこの僕の力を下等生物のために使うのですよ」
仕事を終え豆柴に戻ったポチの助がツン気味に賛同。
「……まぁ、構わねぇけど」
ベルクも反対しない。なぜならこちらにとっても有益だからだ。
「とういう事さね」
マリナレーゼは笑みを浮かべながら言った。
「ありがとうございます」
ヨシノは嬉しく思いながらマリナレーゼの申し出を受け入れた。
話が終わるなり、皆バーベキューやお菓子にお茶を楽しみ賑やかに時間を過ごした。
夜。海の家【避暑の家 蒼水】閉店後の店内。
「今日はありがとう、ティーお姉ちゃん。会計係、お疲れ様」
ユウキはミスティの肩をマッサージしていた。
「そちらも調理担当で休む暇も無いくらい忙しかったみたいね。お疲れ様」
ミスティはリラックスしながらユウキを労った。
「どう? この辺かな?」
ユウキはレジでこりこりのミスティの肩をほぐしていく。
「うん、そこかな……気持ちいいよ。ありがとう」
ミスティは嬉しそうに礼を言った。
「うん。今日はとても楽しかったね」
「そうね。悲しそうな顔をしたお客さんもいたけど」
ユウキとミスティは楽しそうに今日を振り返っていた。ミスティの言う悲しそうな客とは散々奢らされた双子の事である。
「そうだね。あ、ティーお姉ちゃん、星が綺麗だよ」
ふとユウキは手を止め、窓から見える星空が気になり視線を向けた。
「そうね……海の家が成功してよかったね」
ミスティもそちらに目を向け、ぽつりと言葉を洩らした。
「違うよ。大成功だよ。だって僕も楽しかったし、ほら」
ユウキは否定するなり笑顔で窓から見える両親を指さした。
「あぁ」
ミスティは納得の声を上げた。後ろ姿だが分かる。とても幸せなんだと。
「パパとママもとても幸せそうだから。ティーお姉ちゃんもだよね?」
ユウキは嬉しそうに言った。子供にとって両親が幸せそうなのは嬉しいもの。
「……そうね」
訊ねるユウキにミスティは軽く笑みを浮かべた。
ユウキは再び止まっていた手を動かし、ミスティの肩のマッサージを再開した。
その頃、屋外、星空の下。
「今日はおつかれさまレティ♪」
と言って高級ワインを入れたワイングラスを砂の上に座るレティシアに手渡した。
「お疲れですぅ」
ワイングラスを受け取ったレティシアは隣に座ったリアトリスと乾杯をした。
「ありがとうですぅ。今日は素敵な夏の思い出になったですよ」
乾杯を終えたレティシアは少し喉を潤した後、改めて礼を言った。
「それは僕もだよ」
リアトリスもワインを飲みながら言った。
「……すごい城ですねぇ」
レティシアはふと立派な砂の城に目が行き、表情をゆるめた。
「そうだね。星空の下に建つ砂の城をこうして眺めるのもいいよね」
リアトリスは感慨深くつぶやいた。家族で過ごした今日一日の事を思い出していた。
「それも隣にいるのが大切な人だと最高ですぅ」
レティシアはそう言って愛する夫に笑いかけた。
「僕もだよ、レティ」
リアトリスもまた微笑みで返した。
二人は寄り添い、幸せな時間をのんびりと過ごした。
この後、魔法中毒者の元研究所に潜んでいた危機回避装置は調薬親愛会の協力によって何とか全て解除する事が出来たという。それでもなお今回得た情報をまとめたり収集は続けられていた。
双子は相変わらずいつも通りの悪戯ぶりで迷惑や面白さや楽しさを振りまいているが、情報収集の手伝いは忘れずにしたという。ちなみにゴーレム化の魔法薬は改良を加え何とか完成させて助手が必要な時に使用しているという。
一方、調薬友愛会の方は、鎮痛剤を無事に完成させ事なきを得ていた。そして協力を申し出た事案については違える事無く協力していた。
砂の城はしばらくの間、海の名物となっていた。
ちなみにザカコは学校に帰還後、
「校長も校長ですよ。あの双子を放って置くのはいけませんよ」
エリザベートに一言申し立てていた。
「ん〜、放ってないですよ。みんなに任せただけですぅ」
エリザベートは我関せずな答えであった。
「大ババ様の雷が落ちてるですよ〜、またあの二人ですぅ」
エリザベートは校長室の外から聞こえる説教の声と文句を口にする双子の声を聞きながらのんびりとしていた。
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担当マスターより
▼担当マスター
夜月天音
▼マスターコメント
参加者の皆様お疲れ様でした。そしてありがとうございました。
皆様のおかげで海の平和は守られ、調薬友愛会もとても助かり、正体不明の魔術師との対決準備が進みました。
そして、例の如く双子の元気良さには底がなさそうですが、これからもよろしくお願いします。
最後に少しでも夏や海を感じて頂ければ幸いです。