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夏の雅に薔薇を添えて

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夏の雅に薔薇を添えて

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第2章 遊園とプールと決闘と





そして午前の便が全て到着し、訪れた客がチェックインを終えきった。
「雅」はとても活気づいており、夜になって縁日等が始まるまでの間、人々はそれぞれの時を過ごす。
薔薇学の出張店ももちろん人気があるのだが、喫茶に併設した遊園地とプールのアトラクションもかなりの大盛況だ。
水着姿のまま泳いだり遊園地のアトラクションを楽しむ事ができるのも魅力の1つだろう。


「イングリットちゃん! お空の遊園地なんて私初めてだよー!」
「流石のわたくしも、これは初めての経験ですわ」
「えへへ〜、一緒だね! それじゃ、いーっぱい楽しもうね♪」
「そうですわね」


天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)
この雅に誘った。 それはもちろん、たくさん楽しむためである。
だが、イングリットは分かっていなかったのだ。 ここでたくさん楽しむという事を。


一方、イングリットと同じ運命にある者がいた………キロスだ。


「んで、勝負ってことは……」
「はい! 今日こそ、どちらの剣の腕が上か、決闘ですっ!」
「は、ははは……はぁー」


水着に大剣装備という謎使用のアルテミスに向き合う同じく剣を装備したキロス。


「この広い会場ならいくらでも勝負できますっ! まずはあれです!」





勝負1【ジェットコースター】





「遊園地! まずはやっぱりこれだよね、イングリットちゃん!
「そうですわね。 それはいいのですけれど……」


結奈とイングリットがコースターの先頭に乗り、そのすぐ後ろには何故か仁王立ちのアルテミス。
最後尾にはキロスがいた。


「先にコースターから落ちた方の負けですよーっ!」
「ああ! 落ちても知らねーからな!」
「臨むところですっ!」
「≪何でこの方達は平気な顔で立っているのかしら……?≫」


ジェットコースターは、遊園地部分の敷地を大きく回りながら少しずつ上昇する。
遊園地の中心には世界樹をモチーフにしたオブジェがあり、レールの周りも背の高い樹が目を楽しませる。


「スゴイ景色ー! 来てよかったよ〜!」
「結奈が楽しそうなのは、わたくしも大変嬉しいのですけれど……」


彼女の後ろでは妙な剣技音が何度も鳴っていた。


「ちょ、アルテミス! 足下狙うなんて卑怯だぞ!」
「す、すみません! ちょっと手元が狂ってしまって……」


そして目の前からレールが消える。


「≪ゆ、結奈に間違って剣が当たりませんように、ですわーーーー!!!!≫」


心の中で別な意味で悲鳴を上げながらイングリットは、結奈と共に落下していった。





勝負2【コーヒーカップ】





「ふぅー! 楽しかった〜! 次は……イングリットちゃん、コーヒーカップ行こ!」
「ふぅ、引き分けですかー。 次は……キロスさん、コーヒーカップで勝負ですっ!」


「ああ、やっぱりこうなるの(ですわね)か……」


今度は先に目を回した方が負けというルール、時間は3分。
最初から全力で回すアルテミスに、キロスも負けじと回す。
2人の入ったコーヒーカップは開始30秒もせずに最高速度に達した。


「どんな状況でも耐えうるのが真の騎士ですっ」
「こんな状況あってたまるかぁぁぁーーー!!!」
「あっ、イングリットちゃん。 あそこの人達面白そうな事してるよ?」
「へっ? 結奈、まさか……」


「私達も負けられないよね♪」
「結、ぬぁぁー!? きゃぁぁぁぁーーーー!!!???」





勝負3【スプラッシュ・ガーデン】





「次は何だ?」
「はい! 薄霧の洞窟を抜けた先に待つ美しき華の園。 だそうですっ」
「面白そー! ねっ!」
「ええ、そうですわ……って、何時の間に意気投合してるのかしら!?」





4人を乗せた舟は、薄霧が包み隠した洞窟へと彼女らを導く。
真っ暗の世界、突如吹き上げる水しぶきにオリュンポスの騎士は、宿敵であるはずの
騎士に思わずしがみつく。 奇妙な胸の高鳴りは大きさを増したような気がした。


そして目の前に光が差し込めば、そこに広がる大きな空。
目の前に空が広がるという事は、そこに待つのはただの空間。


「いやっーーほーーー!!!!!」


1人の幼く見える少女の叫びともに下へと落ちる舟。
水面にそれがたどり着いたとき、跳ね上がった水は虹を生み、浮かべられた薔薇の花びらたちが彼女達を祝福する。
こうして、また1つ。 小さな大冒険に幕が降ろされるのだった………。





「きれい………ですわ……ね」





               ◇ ◇ ◇





「私達、次はゴーカートに乗るから……ここでお別れだね」
「一緒に行きたいところですけど、私達決闘が残ってますから、お別れですっ」
「お互い大変だろうが、頑張れよ」
「そちらこそ、ですわ」


こうして結奈達とアルテミス達はここから別行動をすることになった。


「中々決着がつかないですねー」
「まてまて、後半は完全に遊んでただろうが?」


2人は目が合うとこぼれたように笑いあう。


「あー、にしてもアルテミス、お前との決闘はいっつも楽しんだけどな。
 あーゆーの。 どう思うよ?」
「ああいうの、とはなんですか?」


キロスの目線の先には冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)
プールの浅瀬で泉 美緒(いずみ・みお)の水泳の練習をしていた。


「わ、わたくし…大丈夫かしら……?」
「何を言ってるの美緒。 私がいるから大丈夫ですわよ」


浮き輪を付けさらに支えられながら必死に浮かぶ美緒。
恥ずかしげに頬を染めた彼女を、小夜子は妖艶な瞳で見つめていた。


「前にやった練習を思い出して。 少しずつでも、美緒なら出来ますわ。
 ……ああ、美緒ったら………可愛いわね〜………」





「それとかあれ」
「あっ、杜守様!」





「海くん、こ、こっちです〜」
「ああ」


プールからあがった杜守 柚(ともり・ゆず)の声に高円寺 海(こうえんじ・かい)が答えた。


「どうした? なんだかいつもと違うな」
「へっ? そ、そうですか!?」
「ああ。 顔も赤いし、そんなに恥ずかしがったりして」
「そ、それは……だって、海くんとお付き合いを始めてからので、デート、ですし……」


柚の照れた上目づかいに、流石の海も考えてることが伝わったようだ。


「なっ!? そんな恥ずかしがったら、お、俺も……照れるだろ」
「ご、ごめんなさい! 恋人同士になったんだなって思ったら、すごく嬉しくて照れくさくなってしまって」
「水着、似合ってるぞ。 可愛いからお、驚いた」
「……えっ?」
「俺もこれは恥ずかしいが……恋人、なら、こういうこと言ってもいいだろ? 今日は、楽しもうぜ!」
「は、はいっ!!!」


2人はそっと手を繋ぐ。


普段クールな海を、誰よりも見てきた柚。 そんな海が照れながらも自分の姿を褒めてくれた。
それがとても嬉しくて。


だからいつもより、手を握る力が少しだけ強くなる。
それは相手も同じ事。 そうして、2人の想いは少しずつ。 少しずつ。 深まりあっていく……





「はわー…………」
「あれがリア充ってやつだ」
「何だか、すごいですねー…………幸せだってオーラを感じますっ」
「だな。 あのまさに恋してます、って感じが許せねぇ。 何で俺にはそういうのが無いんだよ!」
「あのー、キロスさん? 恋……ってどんな感じなんですか?」


何故かそれを言った時、胸がまた高鳴った気がした。


「そうだなー、なんつーか胸の奥が苦しくなったり、その人のこと考えるだけでドキドキ出来る、ってのか?
 あいつらなんて意中の相手の一緒にいるんだ。 多分触れ合っただけで心臓の鼓動でも早くなるんじゃねぇの?」


「≪私、キロスさんの事を考えると…すごくこう、胸がドキドキして、苦しくなって……でもでも!
  私にとってキロスさんはライバルの存在! ならこの気持ちは、やっぱりライバル心っ!?≫」


だが、そう思ってキロスの顔を見た時、確かに彼女には聞こえたのだ。





『トクン』





三度の自身の高鳴りが。





「ん? どうした、アルテミス?」
「あ、あの……キロスさん………?」
「何だよ?」
「その、こ、恋って言うのは…………す、すす、好きな人を見つめると、
 胸が高鳴ったり、しますでしょうか……?」
「まぁ普通、そんな風になったら恋なんだろうな」





その恋人達の姿は、彼女にきっかけを与えた。


その騎士の言葉は、彼女の世界を変えた。


彼女の自覚は、彼への想いを一気に深めていった。





「はわ、はわわ………わーーーーー!!!!!」
「うおぉ!? いきなりなんだ…ってどこ行くんだよ? アルテミスー!」





「≪キロスさんと居ると、すごく楽しくて、胸が苦しくなって……
  見つめるとドキドキして……は、ハデス様、わた、わたし……恋してしまってましたぁぁ〜〜〜!!」≫」





「ったく…………呼んどいて勝手にどっか行きやがって。 夜の花火の話でもしようと思ったのによ」