薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

夏の雅に薔薇を添えて

リアクション公開中!

夏の雅に薔薇を添えて

リアクション



第6章 盆に踊りて縁に親しむ1





夜になり、雅にも明かりが灯り始める。
遊園地の明かり等はなくなったものの、あちこちに吊るされた提灯の
明かりが淡く優しく訪れた人々を楽しませる。


そして響き渡る売り子の声。


『雅』のもうひとつの姿である夏祭りが始まった。


昼間でも多くの人がいたが、この夏祭りを目的に夜になって施設を訪れるという人々も多くいた。
柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)もそのうちの一人である。 彼はこの祭りに
遠藤寿子(えんどう・ひさこ)アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)を連れて来ていた。


「へぇー、結構盛り上がってるみたいじゃねぇか。 薔薇学はやることが派手なもんだ」
「これは…夏の夜空の下、あちこちに浴衣の男女! こんなに人が多いなんて〜はうぅぅ……」
「おいおい、誰も何もしてこねぇよ。 もっと肩の力に抜いて楽しもうや。 なぁアイリ?」
「そうですね。 私のいた世界ではとても考えられないようなこの賑やかさ……
 こんな光景を見られて、とても嬉しいです。 早速ここのパトロールを!」
「だからお前もそういうの一旦忘れろって!?」
「あっ、あの観覧車……新しい同人誌のロボットのイメージが降りてきたー!」
「お前ら結局そうなのな……まぁいいか。 取り敢えず見て回ろうや」


同人だパトロールだと、普段通りで全く祭りを楽しむという感じではなかったが
それでも楽しい時間であることに変わりはなかった。 恭也の顔にも笑みが浮かぶ。


「おっ、たこ焼きだってよ。 行こうぜ」


恭也達が向かったのはたこ焼き屋。
定番のたこ焼きからロシアンルーレット焼きに秋刀魚焼き等、個性豊かなメニューが揃っていた。
彼の後ろからメニューを覗き込む2人。


「色々あるね、迷っちゃうなー」
「寿子、何でも好きなの頼んでいいぞ? もちろんアイリもな」
「いいんですか?」
「なに、せっかくのお祭りだ。これ位奢るさ」
「それじゃ〜……」





「全部下さ〜い!」





「おい、全部って奢りだからってお前な!?」
「ん? どうしたのおじさん?」
「って……あれ?」


そこにいたのは花火柄の浴衣を着た結奈だった。
片手でメニューを指差し、もう片方の手はしっかりと別の手を握っている。


「ゆ、結奈? あの、わたくしまだたい焼きを食べ終えてないのだけれど………」
「大丈夫イングリットちゃん、たこ焼き食べながらでもたい焼きは食べれるよ♪」
「いや、そういう問題では……」


そしてたくさんのたこ焼きをどういう訳かバランスよく持ちながら、
結奈は新たな食品を探し求め縁日の光に消えていった。


恭也的には、おじさん扱いされたことが若干不満に残ったが、
結奈に連れていかれるイングリットは、嬉しそうに。 楽しそうに笑っていた。
振り回されているように見えるが、気づけばそれが楽しく感じているのだろう。


「ねぇ、買ってくれるんでしょ! 早く買ってよー」
「はいはい、分かった分かった」


自分も同じかも知れないと、彼は思った。


「てかたこ焼き屋で秋刀魚って……季節とか色々違くねぇか?」





               ◇ ◇ ◇





「ふっ〜、ふっ〜……はい翔くん、あーん」
「理知、流石にそれは恥ずかしいかもしれな……」
「あーーん」
「り、理知?」
「あーーーーーーーん」
「あ、あーーん」


パクッ


「美味しい?」
「あ、ああ」
「ふふ、照れてる翔くん可愛いよ」
「なっ! 余計照れるだろ?」
「えへへ、ゴメンね」


こちらは唐揚げを食べている辻永夫妻。


屋台の食べ物の香りに釣られて、ついつい寄っては食べていた。
熱い物を食べる時は、当然息を吹きかけて冷ますのが一般的である。
しかしそれを好き放題見られる場所で、好きな人にやられては、どうしたって顔が赤くなるものである。


翔はテレテレ、理知はデレデレ。 まさに新婚さん(雅へ)いらっしゃいの甘々ムードだ。
照れながらもしっかり手は繋いでいるんだから間違いない。


「あっ、あっちに焼きトウモロコシなんかもあるよ?」
「トウモロコシか。 俺結構好きなんだ」
「そうだったんだー! じゃ、たーべよ?」
「ああ!」


こうして焼けたトウモロコシよりも甘い時間が過ぎていく……





               ◇ ◇ ◇





「さ〜て、遅れた分取り返すわよ!」
「もう結構取り戻してる気もするけどね」


昼間温泉で疲れを癒し、夜の縁日に繰り出した2人の女性。
それぞれが雅な浴衣を身にまとっている。


普段はツインテールの髪を改めて結い上げたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
団扇片手に美しくたたずむセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)


セレンの希望で年中水着が基本の2人だったが、
その浴衣に身を包んだ姿はセレンの可愛らしさ、セレアナの艶やかさをそれぞれ際立たせた。
そんな2人にとって余計なもの……それはセレンの装備しているホットドック3本だった。


「さー次は何食べてやろうかしら?」
「まずそのホットドック食べなさいよ」


折角の美人が台無しではあるが、セレンの楽しそうな様子にセレアナは肩をすくめながらも
その時間を嬉しく感じていた。


「≪デートって感じじゃなくなったけどね…≫」
「ちょっとセレアナ! 早くいくわよー?」
「分かってるわよ」


雅の情報を聞きつけた2人は、無理やり休暇を作ってここにデートに来ていた。
だが遊びに来た以上は、遊び尽くしてやろうという勢いでセレンが縁日や屋台を制覇していく。
結奈とイングリットの行動も相まって、屋台をやっていた人々は追加の食材を作るのに忙殺されそうなほどであった。


「うん、大体食べつくしたかしら?」
「そうね」
「じゃー次はあれ!」
「金魚すくい?」





「いらっしゃい」
「おじさんポイ2つー」
「はいよ」
「ありがと。 はいセレアナ」
「どうも」
「じゃこのポイで何匹取れるか勝負ね」





こうして始まった金魚すくい対決。





「おりゃおりゃおりゃおりゃおりゃーーー!!!!!!」


セレンはポイを一瞬水につけたかと思うと、次の瞬間には自分の皿に金魚を入れていく。
順調なペースだったセレンだが、途中ポイが破けてしまう。 結果は12匹。


「今回はまぁまぁね。 さ、そっちは……ってなんですとー!?」





セレンがセレアナの皿を見ると、大型の4匹の出目金が泳いでいた。





「ぬぁぁぁーーー!!! うちの『ポイ破り四天王』がぁぁぁぁ〜〜〜!??」
「私のポイはこれで破れたから、私の負けになるのかしら?」


そう言ったセレアナには負けたなどという感情は一切感じられなかった。
むしろポイは破れなかったが、勝負に敗れた気がしてきたセレン。


「やったわね〜〜〜……次のゲームで勝負よ!」


こうしてセレンとセレアナの縁日珍道中は続いていく。