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おもちゃに無理やり意思を持たせたらこうなった。

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おもちゃに無理やり意思を持たせたらこうなった。
おもちゃに無理やり意思を持たせたらこうなった。 おもちゃに無理やり意思を持たせたらこうなった。

リアクション



その6


 原因は不明だ。
 が、各コーナーで、戦闘が再開していた。

 
 男の子向けコーナーではラジコンが再び飛び回り、女の子向けコーナーでは着せ替え人形たちが再び立ち上がる。
 ボードゲームたちは笑い声を上げ、イコプラたちも立ち上がっている。

「くそ、どうなってるんだ!」
 通路を走っている酒杜 陽一(さかもり・よういち)はまたしても激しくなった音を聞いて言った。


「助けてくれー!」


 
 そんな陽一の耳に声が聞こえ、陽一は声のした方へと向かう。
「酒杜様!」
「美緒さん!」
 声のする場所、男子更衣室の前には泉 美緒(いずみ・みお)、そしてラナ・リゼット(らな・りぜっと)が来ていた。
「ここか!?」
「はい、ここから聞こえています!」
 陽一は急いでドアを開く。
 そこには白衣姿の三人の男と……作業服姿の男の姿があった。四人は巨大な蜘蛛の巣のようなものに巻きつけられている。
「も、もしかして、工場長か?」
 作業服の男に話しかける。
「そうだ。私がこの工場の工場長だ」
 彼は胸を前に突き出そうとする。そこには『工場長』と書いてあり、名前が記されてあった。
「はあっ!」
 美緒とラナが蜘蛛の巣のようなものを切り落とした。工場長たちは蜘蛛の巣から逃れる。
「工場長! 無事だったんですね!」
 工場長が解放されると、更衣室の扉が開き、数人が入ってきた。衣草 椋(きぬぐさ・りょう)が工場長を見るなり叫んだ。工場長も「椋くん」と声を上げる。
「こうりょうちょー、ごふじれすか!」(工場長、ご無事ですか!)
「お怪我は?」
 緒方 コタロー(おがた・こたろう)緒方 樹(おがた・いつき)も駆けつけていた。
「美緒、ラナ」
「セレン様、セレアナ様」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は美緒たちと挨拶を交わす。
「さて、と。あなたたちがこの騒ぎの元凶?」
「どういたしましょうか」
 セレンたちと共に入ってきた綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ) が男たちを見下ろす。
「……なんか見覚えがあると思ったら、確か、海で会ったよな、あんたら」
 陽一が白衣の男たちに話しかけた。
「確かにそうだな……タコの実験のときか」
「ああ、タコさんを巨大化してた人たちですね!」
 美緒が思い出して声を上げる。
「まさかとは思うが、また変な実験をしてるんじゃないだろうな」
「バカな、実験なものか」
 白衣の男の右側が言った。
「ちゃんと数度の試験を得て行ったことなのです。自分たちにも予想外なのですよ」
 左側が続きを口にした。
「……なにをしたんだ?」
 陽一が声音を抑えて聞く。
「機昌石をおもちゃに入れて、自立稼動させようと」
「とんでもないことしてくれたな!」
 真ん中の男が口にして、陽一は倒れこみそうになった。
「似たような案件でいろんな事故が起こってんのくらい知ってるでしょう!?」
 セレアナが叫ぶ。
「実験では上手く行ってたのだよ……六割くらい」
「四割も失敗してるのっ!?」
 さゆみが声を上げた。
「まあ待て。彼らにこの件をお願いしたのは私の責任でもある」
 工場長が口を開いた。
「クリスマスが近いからね……なにかこう、胸が躍るようなことをしたかったんだ。子供たちの夢を叶えてあげられるような、そんなことを」
「工場長……」
 椋が工場長の肩を支えて言う。
「それと新しい機械を受注したくて、もしなにかあったら保険が出るから」
「工場長あんた最悪だよ!」
 椋が工場長を突き放す。
「……で、なにがコアなんだ。機昌石を入れた人形はなんなんだ?」
 白衣の男たちに聞いた。
「『ミリタリーシリーズ−アメリカ軍特殊部隊隊長−』」
「『フル装備モデル』」
「『限定版』」
 三人はリズムよく口にした。
「なんてものを実験台にしたんだよ!」
 陽一は泣きそうになった。
「かっこいいじゃないですか」
「いや確かにそうかもしれないけど!」
 もうなにから突っ込んでいいのやら。
「その、特殊部隊隊長とやら、どこにいるんだ!?」
 息を大きく吐いてから、陽一は改めて問いただす。
「この工場の全体が、影響を受けている」
 白衣の男たちの真ん中は、少し見回すように言った。
「コアとなった人形のエネルギーを、なんらかの形で施設全体に循環させているんだ。そのようなことができる施設は、この工場内では一箇所しかない」
「なるほど」
 椋が口にした。
「よひてんけんしつれすね!」(予備電源室ですね)
 コタローが叫んだ。
「おもちゃひゃんはそとからちからをうけとっていたれす! だとしたら、そこにかかんかえられないれす!」(おもちゃさんは外から力を受け取っていたです。だとしたら、そこしか考えられないです!)
「すごいなコタロー。名推理だ」
 樹がコタローの頭を撫でた。
「そうだ」
 そして、椋の推理に男は頷く。
「そこからなら他の人形にエネルギーを送ることも可能だ。すなわち、コアはそこにいる」
 白衣の男が、言い切った。
「きゃあああああ!」
 そこで誰かが叫ぶ。振り返ると、そこには巨大な蜘蛛のおもちゃがうごめいていた。
「気をつけろ、糸を吐くぞそのおもちゃ」
 白衣の男が言うと、蜘蛛のおもちゃは糸を吐き出した。セレンが【雷術】で糸を切ろうとするが、腕に絡まって身動きが取れなくなる。
「陽一さん! 早く予備電源室へ!」
 さゆみが陽一の肩に手を置いて、言う。
「ここは任せて! このバカでかい蜘蛛を退治したらいくから!」
 セレンはなんとか腕以外を防御しながら叫んだ。
「わかった」
 陽一は立ち上がる。
「先に行くぞ!」
 陽一と椋、コタローを抱えた樹が部屋を飛び出した。
「げっ!」
 部屋を出て、通路を進むと、目の前に男の子向けコーナーから飛び出たと思われる、戦車やヘリコプターのラジコンなどが並んでいた。
 陽一たちが足を止めると、それらは武器を彼らへと向ける。
「うおおおおおおっ!」
 そんな彼らの前に誰かが飛び出てきた。戦車やらヘリやらの攻撃を、その巨体が全て受け止める。
「ここは自分が抑えるであります! さあ、早く!」
 大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)だ。彼の後ろに隠れるように、コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)鮎川 望美(あゆかわ・のぞみ)も並ぶ。
「ここは私たちが!」
「早く! コアが見つかったんでしょ!?」
「すまない!」
 三人に見送られ、陽一たちはルートを変える。
「また!?」
 その途中には、モデルガンなどが浮いていて攻撃を仕掛けてきた。すんでで避け、壁に隠れる。
「ここは、あたしらが!」
「助太刀いたします」
 そこに現れたのは高崎 トメ(たかさき・とめ)高崎 シメ(たかさき・しめ)
「あれはボクたちが抑えるよ! 早くコアを!」
 そして、高崎 朋美(たかさき・ともみ)だ。


 走って角を抜けると、大人向けのおもちゃコーナーではイコプラが大暴れしているのが見えた。それに応戦している人たちもまだいる。
 それらの後方の部隊が、こちらに気付いた。壁を壊して数対がこちらに向かってくる。
「くそ、こうなったら……」
 椋は足を止めて振り返った。
「椋さん!?」
 陽一が走りながら振り返る。
「予備電源室へ! 俺が食い止める! ……行くぜ、俺のイコプラ!」
 椋はイコプラを地面へと置く。イコプラは彼の声にこたえるように大きく地面を叩き、咆哮をあげるように体を動かした。
「全段発射!」
「いっけーっ!」
 そんな椋の耳に声が届き、数発のミサイルが向かってくるイコプラへと飛んでゆく。最前線の数機が動かなくなった。
「牡丹さん!」
 そこに立っていたのは佐々布 牡丹(さそう・ぼたん)、そして数対のイコプラと、イコプラの後ろに立つレナリィ・クエーサー(れなりぃ・くえーさー)だ。
「動けるのは五機。あんまり暴れられないですねぇ」
「それでもやりますよ。ここで足止めする」
 椋と牡丹が並び、前を見据える。壊れたイコプラを乗り越え、イコプラ部隊は前進を続けていた。
「壊れたら、また直してくださいね!」
「もちろんです……何度だって、直しますよ!」
 二人はそう言って笑い合い、手を掲げた。
「突撃!」「いけ、俺のイコプラ!」
 二人の声に答え、六体のイコプラは前進した。


『ネージュちゃんは、わたしが守る!』
 日本人形は髪の毛を伸ばし、襲い掛かってきた着せ替え人形を弾き飛ばした。
「人形さん、無理しないで!」
 人形同士の戦いを、離れた位置から見守るネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が叫ぶ。
「おらおらおらーっ! どけどけどけー、であります!」
「早く済ませないと工場が壊滅してしまうわね」
 ネージュたちの近くを再び戦車に乗った吹雪たちが駆け抜けた。ネージュは日本人形を抱えて下がる。




「どうしたの、こんなところに立って」
「決まってるじゃないか」
 風馬 弾(ふうま・だん)は【緑竜殺し】を構えて廊下を歩く人形たちの前に立つ。そんな弾に向かって、エイカ・ハーヴェル(えいか・はーゔぇる)は言った。
「わかった。的になるのね」
「いや武器を構えてまで的にはならないよ!? 今せっかくかっこよく構えてたのに台無しにしないで!」
 一通り突っ込んでからふう、と息を吐いて、
「ここは通さないよ、ってね」
「そうね……ま、時間稼ぎくらいしよっか」
 エイカも軽く息を吐いて向かってくる人形たちを見た。
「行くよーっ!」
 そして、弾が飛び出す。おもちゃの攻撃を避けつつ斬撃を加え、一体ずつ、確実にしとめて行く。
「面倒ね……なら、【ライトニングブラスト】!」
 その最前線に向かって、エイカは電撃を放った。
「ぎゃああああぁぁぁぁっっ!」
「あ、ごみーん」
 その電撃は弾をも巻き込み、人形たちに強い電撃を浴びせて再起不能にさせていた。てへ、とエイカは、小さく舌を出した。





「ここだな」
 陽一は『予備電源室』と書かれた扉の前に立った。
「陽一さん!」
 そんな陽一に駆け寄る影が。陽一が振り返ると、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)ヴァルキリーの集落 アリアクルスイド(う゛ぁるきりーのしゅうらく・ありあくるすいど)遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)がいた。
「ここから妙な気配がするニャー!」
 シュネー・ベルシュタイン(しゅねー・べるしゅたいん)クラウツ・ベルシュタイン(くらうつ・べるしゅたいん)、さらに千返 かつみ(ちがえ・かつみ)千返 ナオ(ちがえ・なお)も合流する。
「これだけ集まれば、大丈夫そうだ」
 陽一はそう言って笑い、ゆっくりと、予備電源室の扉を開いた。
 そこには大型の機械が存在し、ぐおんぐおんと音を立てて動いている。
 その、一番大きな機械の上に、一体の人形が、腕を組んで立ち尽くしていた。
「あれだ!」
 迷彩服で、頭にバンダナ。背中や腰に大量武器を抱えた、実在する軍人というよりかは、ゲームなどのキャラではないかと思うような姿をした男が、き、っと目を開いてこちらを見た。
「ふん、所詮一体の人形じゃない! そんなもの、ボクのイコプラが一捻りにするもんね!」
 アリアクルスイドは前に出て、イコプラを起動させる。
「いっけーっ、ボクのイコプラ!」
「待て!」
 そしてコアの人形に指を向ける。イコプラは人形にまっすぐ飛んでいったが、
「シャラップ!」
 人形は一瞬で機械の上から飛び降り、イコプラの背後に回り込むとなにかをイコプラに貼り付けて飛び去った。貼り付けたものが爆発し、イコプラは空中でバラバラになる。
「ぼ、ボクのイコプラ!」
「だから言ったんだ……こいつ、設定上特殊部隊の隊長だから、手ごわいぞ!」
 陽一はふう、と息を吐いて言う。
「だったら、やることは一つだね!」
「全力で叩き潰す!」
 歌菜と羽純は槍を構える。
「弾幕は任せて!」
「追い込んで見せるニャー!」
 シュネーとクラウツは銃を手にした。
「君たちは前へ。追い込もう!」
「了解です!」
 陽一と、かつみ、ナオは、分散して前へと出た。



 が、案の定というか、特殊部隊の隊長という設定は伊達ではない。
「ぜんぜん弾が当たらないニャー!」
 シュネー、クラウツの弾幕はことごとく避け、
「はあっ……てやっ!」
「歌菜、下がれ!」
 歌菜たちの槍は、サバイバルナイフを取り出してそれで受ける。それどころか受けた衝撃で体を回転させ、ナイフで反撃をするほどの手慣れた動きを見せる。
「やあっ!」
「えーい!」
 かつみたちの銃と剣、スキルやトラップを使った攻撃も、全て回避。トラップはナイフで簡単に解除させられている。
 そして、隙あらば向こうは両手のマシンガンで反撃。威力は本物のマシンガンと大差ない攻撃に、皆は隠れるほかなかった。
「HAHAHAHAHA!」
 笑いながらマシンガンを乱射する人形。為すすべもないその状況に、皆の焦りと疲労だけが、蓄積して行く。
「このままじゃ……」
 陽一が呟いた。
 そんな絶望的な状況の中、バン、と、勢いよく扉が開く。そして、小さな人形たちが、勢いよく中に飛び込んできた。
「なんだ!?」
 羽純が叫ぶと、
「ふふふ……お困りのようだね。しかし、もう大丈夫だ。支援に来た」
 どこから調達したのか軍服(パチモン?)に身を包み、帽子に指を添えて口を開いたのは……九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)だ。
「ロゼさん!?」
 歌菜が叫ぶ。
「そうとも! 我こそ九条先任軍曹! そして、」


『我ら、バッドカンパニー!』



 人形たちが声を合わせた。ロゼの軍隊が復活……ともすれば、数を増していた。
「コアはあそこだ。かかれ、バッドカンパニー!」
『イエス、マム!』
 ロゼの言葉に反応し、軍隊の人形たちは走り出す。銃を交互に撃ち少しずつ前進し、コア人形との距離を詰めていく。
「いいぞ、これなら!」
「なんとかなるかもしれないですね!」
 かつみとナオはその様子を見て言う。
「いえ、ダメよ!」
 が、シュネーはそう叫んだ。
 コア人形は機械の隙間を弾幕を避けながら駆け、バッドカンパニーの最前列の兵の背後に回った。振り返る間もなく人形の首にナイフが突き刺さり、人形は力尽きる。その後も瞬く間に、一人、二人と倒れてゆく。
「向こうのほうが一枚も二枚も上! 援護しないと!」
 シュネーも銃を撃つが、コア人形はバク宙して弾を回避、機械の後ろに回った。それからまた隙間を駆け、バッドカンパニーを一人ずつ、動けなくしてゆく。
「く……どうしたというのだ我が中隊!」
 そのあまりの瞬殺に、ロゼも唇を噛む。
『軍曹殿!』
 そんなロゼに、最後列の兵が振り返った。
『自分たちが、命をかけて足止めいたします。とどめを!』
「なん……だと……」
 ロゼが答えるよりも早く、バッドカンパニーの面々はロゼに敬礼すると、ハンドガンを手に走り出した。
 そして、コア人形が近づき、背後に回ると、
『ロゼ中隊に、栄光あれ!』
 手榴弾を爆発させる。人形は吹き飛び、コア人形もバランスを崩した。
『シット!』
 その後も数度爆発が起き、さらに、バッドカンパニーたちがコア人形を押さえにかかる。数人がかりで取り押さえられ、コア人形も思うように動けなくなっていた。
「貴様ら……貴様らの命がけの行動ッ! 私は敬意を表するッ! 真のバッドカンパニーだ!」
 ロゼは涙を流しながら叫び、
「今だ、周囲に罠を!」
「はい!」
 かつみ、ナオが【大蜘蛛のハンモック】を飛ばす。コア人形に向けて飛ばすのではなく、道を塞ぎ、彼の逃げ場をなくすために。
「【稲妻の札】!」
 そこに涼介が稲妻を落とす。コア人形の少し前に落ちた稲妻を、コア人形は避けるために後ろへ動いた。
「クラウツ、集中砲火!」
「はいニャー!」
 そこをシュネーとクラウツが銃を乱射。逃げようにも、罠によって道が塞がれてコア人形は下がるほかない。
「羽純くん、一緒に!」
「ああ!」
 壁際に追い詰められたコア人形に向かって、羽純、歌菜は並んで駆ける。
「行くよ!」
「ダブル!」
「ラブラブ!」



「「【薔薇一閃】!」」



 二人の間髪入れぬ乱撃が、コア人形を完全に動けなくする。壁に押され、身動きの取れなくなったコア人形が『ノウっ!』と声を出した。
「陽一さん!」
 そして、二人を飛び越えて、陽一が飛び出した。
「とどめだ!」
 彼の【深紅のマフラー】が棒状の形になり、陽一はそれを握り、コア人形の胸元へと向ける。
 連携攻撃によって動けなくなっていたコア人形に、それを回避する術はなく。
 胸部――彼のコアごと、体を貫いていた。
 真っ白な光が広がる。コア人形の断末魔と叫びが、工場内に大きく響き渡って、


 そして、爆発音が轟いた。