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正体不明の魔術師と同化現象

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正体不明の魔術師と同化現象

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 海京。

「遊びに来ただけなのに何でこんな騒ぎに巻き込まれるんだよ」
「……本当に(パパーイに無断で外出してまさかこんな騒ぎに巻き込まれるなんて)」
 たまたま遊びに来た緒方 太壱(おがた・たいち)セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)は事情知らぬまま巻き込まれていた。

 一方、事情を知る二人。
「ここが平行世界なのね。こっちの父さんに会えるかしら。セシルは母さんを見たいんだっけ?」
 平行世界女性は周囲を見回しながら隣の青年に話しかけた。
「あぁ、お袋がどんな感じか興味がある」
 青年は答えながら同じく周囲を見ていた。
 そして、
「おい、イチカ、あれじゃないか?」
 青年は前方にいる一組の男女を発見し、指さした。
「そうかも、行くわよ、セシル!」
「ちょっ、引っ張るなって」
 女性は男女を確認するなり青年の腕を引っ張り駆けて行った。

「大丈夫か、ツェツェ?」
「大丈夫よ。今の体調なら少し無理できるし」
 セシリアは体調を心配する太壱に仕込み杖を抜きながら答えた。
 その時、背後から
「父さん、こんな所にいたのね」
「……腕がいてぇ」
 騒々しい男女の声が降って来た。

 振り向いた太壱とセシリアは
「……父さん? 誰だお前?(何か妙な親しみが)」
「……ん? 貴方は誰?(パパーイにそっくりな人、ね)」
 見知らぬが妙な親しみを持つ相手に疑問を抱いた。

「ありゃ、別人だわ。もしかしてこっちの世界のあたし?」
「みたいだな、というか、普通声をかける前に確認ぐらいはするだろ。本当にお前は……」
 声を掛けた女性と腕をしきりにさする青年は予想外の事に少し戸惑っていた。
「はいはい、肉体言語しか能のない乙女でわるぅございました」
 女性は皮肉屋に何かを言われる前に肩をすくめ、おどけたように謝った。
「こっちの世界という事は平行世界の俺か! 俺は緒方太壱だ」
「……確か男性だったわね。わたしはセシリア、セシリア・ノーバディ、よ」
 相手の様子から正体を悟った太壱とセシリアはそれぞれ名乗った。
 それに伴い
「あたし、林田壱華よ」
「セシル・ドゥだ」
 平行世界の太壱とセシリアも名乗った。
「しっかし、映像に出てきたお袋……じゃねぇ、そっちにいる親父から話は聞いてたけど、性格はかなり豪快そうだな」
 太壱は先程の壱華達のやり取りを思い出し、ケラケラと笑った。
「貴方の名前、奇抜ね、ジョン・ドゥ気取りって所かしら?」
 セシリアは軽く皮肉を。
「そっちも何かおおざっぱな感じがするけど」
「奇抜はそっちもだろ、“Nobody”って、気取ってるじゃないか」
 壱華は肩をすくめ、セシルは皮肉で感想を述べた。
 そして、それぞれの自分と会話を始めた。

「ところでお前等、どういう関係になってるんだ?」
「見て分からない? セシルは幼なじみで、あたしの旦那予定よ!」
 太壱の問いかけに自信満々に答える壱華は
「……またあんな事を言って!」
 ふとセシルの話し声が耳に入るなり駆け出した。
「おい、どうした?」
 太壱は理由が分からぬまま追いかけた。

「もしかしてせしるも、未来を変えに過去に来たの?」
 セシリアはセシルに話しかけた。
「いや、過去のお袋に逢ってみたかっただけだ」
「それじゃ、わたしと一緒だね……タイムパラドックスで消えたいと思ってる?」
 事情が同じであった事にさすが自分と思いながら訊ねるのをやめないセシリア。
「さぁね? ただ、イチカが悲しまないように、子どもは産ませる予定だけ……」
 肩をすくめるセシル。
 その時、
「どごぁ!」
 太壱と話していたはずの壱華の強烈な蹴りがセシルに命中。
「わぁ、平行世界のタイチもワイルドー」
 突然の乱入に驚きのセシリア。
「あんたねぇ、先が短いからって種だけ残すつもりだったりする? あたしはね、生まれてくる子どもに血の繋がった父親を見せたいのよ! 弱気な事言ったらぶっ飛ばすから!」
 壱華は腰に両手を当て怒りに満ちた熱い言葉を投げかける。さすが肉体言語派乙女。
「いやいや、もうぶっ飛ばしてるだろ」
 太壱がぼそりとツッコミを入れた。
「イチカ、ぶっ飛ばす前に言えよ! テメーはそんな事してるからおれ以外嫁の貰い手ねぇんだよ! だからおれが貰ってやるって言ってる間に何とかしろよ!」
 打たれ強いセシルは回復早くいつものように腹が立ったら蹴っ飛ばす壱華の癖に文句を垂れた。
「またそんな事を……あんたがこっちのセシルねぇ。へぇ、けっこう可愛いじゃない(というか、胸負けてるかも)」
 壱華は知能派の幼馴染みをねめ付けた後、セシリアを見てちょっぴり溜息。
「……イチカちゃんよね、今何が起きているか知っている?」
 セシリアが改めて今の状況について訊ねた。
「そうそう、それでこっちに来たのよ。力を貸すために。実は……」
 壱華は思い出したように事情を告げた。
「んなことが起きてるのか」
「それならわたしも手伝いを」
 事情をようやく知った太壱とセシリアは当然協力する事に。
 この後すぐに戦闘となり、セシリアとセシルは『天のいかづち』や『氷術』で次々と敵を撃ち抜いたり凍らせたりと見事な援護をし、太壱と壱華は片っ端から蹴り抜いたり殴り飛ばしたりと片付け続けた。

 無事に分離現象を迎え、風景が元に戻った後。
「もうそろそろ、あたし達もお別れみたいね。そうそう、あなたに言いたかった事があったのよ」
 壱華は何事かを思い出し、悪戯な笑みをセシリアに向けた。
「わたしに?」
 聞き返すセシリア。
「病気を理由にしないでさっさとこっちの世界のあたしに抱かれちゃいなさいって事♪」
 何を言うかと思ったらセシリアにとんでもない事を言い出した。
「へ? だか……だかれ……って、あのそのえっと……」
 とんでも発言にセシリアはしどろもどろに。
「壱華ぁ! テメー何ツェツェに吹き込んでやがる!」
 太壱は顔を赤くして怒るも
「なぁに、そんなに真っ赤になって怒るんならさっさと手を出しなさいよ、あたしみたいに手を出せずにうだうだ考えないでさ。あんた男でしょ」
 カラカラと壱華は太壱をからかい気味に豪快なアドバイス。
「……お前、ホント女か?」
 女子らしくない助言に太壱は溜息をつきた。
「どう見てもセシルの可愛い奥様予定の乙女じゃない」
 壱華は笑顔で自信に満ち溢れさせながら言った。

「……はぁ、イチカの奴……あぁ、ところでそっちはどうなんだ治療は? おれの方は回復の見込みが立ったが」
 セシルは一瞥した壱華に溜息を吐いた後、セシリアに遺伝子疾患の具合を訊ねた。
「わたしの方も治療が始まったところよ」
 セシリアは笑顔で答えた。
 とうとう
「さてと、太壱。あたし達、もうそろそろ行くわね。セシリアさん、あたしも勇気出すから、あなたも勇気出してね」
 壱華は太壱とセシリアに別れの言葉を告げた。
「あぁ、ガンバレよ、壱華……セシル、お前も色々ガンバレ」
「……えぇ、会えて良かったわ」
 太壱とセシリア。
「あぁ、イチカ……じゃねぇ、たいちだっけか? そっちも大変そうだが頑張れ」
 セシルは溜息をつきつつ太壱にエールを送った。
「せしる、わたし生きるために頑張るわ。だから貴男も頑張ってね……色々あるみたいだけど」
 セシリアはワイルドな壱華をちらりと見て苦笑を浮かべた。
「お前が言うなよセシー……心配しなくとも頑張るさ、おれ達もな」
 セシルは壱華の肩を抱き寄せ、そばにいる幸せに顔を向けた。
「えぇ、どんな事でもね」
 壱華は優しい眼差しでセシルを見つめ返していた。
 そして、壱華とセシルは去った。
 セシリアは二人の背中を見送りながら
「わたし、貴方と一緒に生きるコトにするわ、タイチ」
 隣に立つ太壱の手をそっと握った。