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正体不明の魔術師と同化現象

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正体不明の魔術師と同化現象

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 イルミンスールの街。

「魔術師を回収するまで、微力ながらみんなのために頑張るのだ」
 天禰 薫(あまね・かおる)は遺跡に行った者達の力になるために街を歩き回っていた。
「ピキュピキュピ(あそこに誰かいるよ)」
 わたげうさぎロボット わたぼちゃん(わたげうさぎろぼっと・わたぼちゃん)が前方を歩く団体を発見。
 しかも
「見覚えがある後ろ姿だな。もしかしたら……」
 熊楠 孝高(くまぐす・よしたか)が見覚えが有り過ぎる後ろ姿にある予感を抱いた。
「間違い無く平行世界の俺達だろうね。まさかこうも早く出会うとはね」
 熊楠 孝明(くまぐす・よしあき)がのんびりと言った。
 一行はすぐさま接近し、団体に声をかけた。
 声をかけられた団体は振り向き、声の主を確認するなり
「ほわぁ、我なのだ」
「この世界のわたぼだ!」
 平行世界の薫とわたぼちゃんは驚き、
「……こちらの世界の俺か」
「これはまた奇遇だねぇ」
 平行世界の孝高と孝明はまじまじとこちらの自分の観察を始めた。
 もちろん互いの薫が連れていた白もこちゃん達も顔を見合わせていた。
 こうして両世界の薫達は運命的な出会いを楽しむ事になった。

 二つの世界の住人達の対面後。
「そちらもこれを大切にしているのだ?」
「しているのだ」
 薫と平行世界薫は互いに大切にしている首から下げている守り石「誓」を見せ合っていた。
 それが終わると呼び止めただけで挨拶がまだである事に気付き、
「初めましてなのだ」
 薫は平行世界の自分にぺこりと頭を下げた。
「これはご丁寧にどうもなのだ」
 平行世界薫も頭を下げた。
「いえいえこちらこそなのだ」
 頭を下げた相手を見て薫はまたぺこりと頭を下げた。
 そして、平行世界薫がまた頭を下げてお辞儀人形のように互いにお辞儀を繰り返していた。どちらも同じ性格のため終わりの見えないお辞儀合戦がプチ開催。

 薫が連れていた白いもふもふ生物の白もこちゃんは目の前の自分を見上げていた。何せ平行世界の白もこちゃんは、見た目や性格は同じだが薫達よりも随分大きい。
「ちー」
 挨拶のつもりなのか白もこちゃんがいつもの無表情で鳴いた。
 すると
「ちー」
 びっぐ白もこちゃんも鳴き返した。同じく無表情で。
 もふもふな微笑ましい出会いが繰り広げられていた。

「……まさか平行世界の自分と会うとは思わなかった(あの自分に出会うとはな)」
 孝高は薫達を気にしながらも平行世界の自分との出会いを楽しむ。何気に上映会で見た映像での薫へのスキンシップが強めの俺様な自分を思い出したり。
「あぁ。しかし……」
 平行世界孝高は適当にうなずきながら孝高と同じく薫達に視線を向けた。
「言いたい事は分かっている。互いに苦労が絶えないな」
 孝高は溜息を吐きながら言葉を継いだ。薫が天然なのは両世界同じ。つまりは気苦労も同じという事。
「さすが自分だな」
 平行世界孝高はにやりと笑ってうなずいた。

「キュピキュ、ピキュピキュ(よろしく平行世界のわたぼ)」
 わたぼちゃんは平行世界の自分に嬉しそうに挨拶をした。
「よろしく、こちらのわたぼ」
 平行世界わたぼちゃんは人間語で挨拶を返した。違いは話す言語と首に巻いている赤いリボンだけでそれ以外は同じであった。

「まさか平行世界の自分と共闘する事になるとはね。まぁ、よろしく頼むよ」
「あぁ、楽しくなりそうだ」
 孝明は平行世界の自分と挨拶を交わした。どう見て外見と中身も同じだが、平行世界の方だけ良いお父さんだったりする。

 それぞれ挨拶が終わったところで現実へ。
「出来るならゆっくりお話したいけれど、今は戦わなくちゃ」
「不思議で貴重な体験だけど、一緒に頑張ろう」
 薫と平行世界薫は共闘を誓う。
 その時、
「……魔物だ」
「いつの間にか囲まれたようだな」
 『殺気看破』を有する孝高と平行世界孝高は周囲に溢れる魔物の殺気を察知し皆に注意を呼びかける。
 同時に地と空に魔物が溢れあっという間に囲まれた。
「あわわわ、魔物がいっぱいなのだ」
「ふわわわ、囲まれたのだ」
 大慌ての薫と平行世界薫。
「慌てるな、天禰達はわたぼちゃん達と後方から攻撃してろ」
 孝高が手早く薫達に指示をして自分は前衛へ。
「分かったのだ」
 薫はうなずき、平行世界薫とわたぼちゃん達と一緒に後ろに下がる。
 孝高達は薫とわたぼちゃん達が所定の位置に付いた事を確認するなり
「俺達も二人で戦いつつ天禰を守るぞ。そこ重要なのはわかっているよな」
「あぁ。言うまでもない」
 それぞれの薫を守るとうなずき合う。
 その横で
「平行世界の自分と共闘とは、まるで夢の共演だね」
「となれば、俺達二人で敵に饗宴を催してあげよう……」
 孝明と平行世界孝明が仲良く冗談をかましていた。
「……」
 平行世界孝高が不機嫌そうににらむ。
「何? 孝高」
「いや、面白くない。“共演”と“饗宴”をかけてるんだろ」
 息子の険しい視線に気付いた平行世界孝明は訊ねるも平行世界孝高はツッコミを入れた。
「容赦ないつっこみ、見事だ」
 孝高は平行世界の自分の容赦無い指摘を賞賛した。
「面白くない? 別にいいじゃないか、そんな事。本当に冗談が通じない奴だな……チッ」
「こういう時こそ冗談の一つくらい言えてこそだと思うけどね……チッ」
 そう言うなり平行世界孝明と孝明は笑顔のまま舌打ちした。
「……舌打ちかよ」
 孝高は苦笑。
「舌打ちされてもつまらないものはつまらない……付き合い切れん」
 舌打ちを受けた平行世界孝高は言葉通りの様子で流してしまった。
 とにもかくにも前衛の孝高達と孝明達もそれぞれ所定の位置へ。

「……共演、か。巨熊の忍者の共演を始めるか」
「容赦はしない、見切れると思うなよ!」
 孝高と平行世界孝高は群がる魔物達を見やり、瞬時に戦闘準備に入る。
 準備が整うなりダブル孝高は『隠行の術』で交互に消えたり現れたりしながら忍びの短刀などで斬りかかるという魔物を翻弄しつつ攻撃というトリッキーな戦法でいく。
 最後は
「行くぞ」
「あぁ」
 孝高と平行世界孝高は目だけで打ち合わせをするなり獣化し巨熊となり鋭い爪で魔物を容赦なく切り裂く強烈な攻撃を繰り出した。
 その後も二人はそれぞれの薫を狙う敵には容赦の無い攻撃を喰らわせた。特に平行世界孝高は俺様な性格故か薫を狙う敵を容赦無く巨熊の爪で斬っていた。

 一方、息子に舌打ちした両世界の父親。
「俺は上空に行こうかな」
「それなら俺はここで楽しむよ」
 平行世界孝明は『地獄の天使』で翼を生やし滑空し、孝明は地上に残り、それぞれ分担して襲撃する敵をボコりに行く。

 空。

「こちらも随分賑やかだね。これなら賑やかな饗宴を開催出来そうだねぇ」
 宙に行くなり平行世界孝明は群がる飛行系魔物をのんびりと見回した後、『サンダーブラスト』で雷の雨を降らし奇襲し追撃した。

 地上。

「まずは……」
 孝明は手始めにと『インビジブルトラップ』によって魔物を追い込み、
「……何でも最後は派手なのがいいからね」
 仕上げに『ファイアーストーム』で盛大に魔物達を焼き尽くした。
 両孝明に容赦するという言葉は無く魔物をボコボコにしていた。確か平行世界の孝明は良いお父さんのはずがやっている事は全くこちらと区別がつかなかった。

 前衛が奮戦している間、後衛も頑張っていた。
「後方からみんなを援護なのだ」
「頑張るのだ」
 薫が龍牙の大弓を引き、矢を放つと平行世界薫が立て続けに矢を放って連続攻撃のように途切れることなく矢を放ち、急所を外さず次々と射貫き続ける。
 そんな時、
「白もこちゃん達は……」
 ふと白もこちゃん達が気になった薫。
「あそこにいるのだ」
 平行世界薫が龍牙の大弓を引きながら示した先にダブル白もこちゃんがいた。白もこちゃんを上に乗せたびっぐ白もこちゃんが魔物相手に蹴ったり噛んだりで応戦していた。
「ちーちー」
 上に乗る白もこちゃんはびっぐ白もこちゃんが攻撃を仕掛ける度に鳴いていた。
「あっ、白もこちゃんとびっぐ白もこちゃんが敵に襲い掛かっているのだ」
 薫は白もこちゃん達の勇姿にびっくりの声を上げた。
「だから、大丈夫なのだ。我達も負けられないのだ」
「分かった頑張るのだ」
 平行世界薫は矢を放ち、薫もまた矢を放って再び自分達の戦いに集中するのだった。

 その頃、ダブルわたぼちゃんは。
「ピキュッピキュピ!(わたぼと一緒に戦おう!)」
「戦おう! 後方からみんなをお手伝い!」
 わたぼちゃんと平行世界わたぼちゃんは孝高の指示で後方に下がるなりすぐに共闘を決めた。
「ピキュピキュ、ピキュウ(わたぼたちは自分達のライフルでどっかんどっかんしよう)」
「しよう!」
 わたぼちゃん達は簡単に打ち合わせをする。
 そして、
「こっちの世界のわたぼと一緒に戦うの不思議だね」
「キュピキピュ!(不思議!)」
 わたぼちゃん達は互いの顔を見合わせこの不思議に笑い合ってから『レビテート』で宙に浮き、
「ピキュピ!(行くよ!)」
「行くよ!」
 ニルヴァーナライフルを容赦なく発砲し、次々と敵を撃ち抜いていく。
 そして、
「キュピ、ピキュウッピィ!(せっかくだから一緒に必殺技を使おうよ!)」
 わたぼちゃんは戦いながら必殺技について訊ねた。
「必殺技と言ったらあれだね」
 平行世界のわたぼちゃんは笑顔で答えた。同じわたぼちゃんであるため持っている必殺技も同じ。
 わたぼちゃん達はぴとと前肢を合わせて互いに所持していたライフルを発砲し、
「ピキッキュ・ピキューキュ!(グラッツィア・フィナーレ!)」
「グラッツィア・フィナーレ!」
 必殺技名を同時に叫ぶ。ライフルから放たれた攻撃は立ち塞がる魔物は全て殲滅した。
「キュピキュ(倒したね!)」
「やっぱり同じわたぼだね。息がピッタリ!」
 ダブルわたぼちゃんは嬉しそうに勝利を祝った。
 しかし、その祝いの時間はすぐに終了。
「キュピキュ(また来るよ)」
「頑張ろう。一緒なら頑張れる」
 ダブルわたぼちゃんは次々と来る魔物達を倒していった。
 薫達と平行世界薫達による賑やかでもふもふな饗宴は上演から休憩を挟む事無く続き無事に終演を迎える事が出来た。