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××年後の自分へ

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リアクション

「…………未来体験薬が染み込ませているようですが、未来体験と言えば……」
 便箋を前にアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)はいつぞやに未来体験薬の被験者となった事と同時にまだキロス・コンモドゥス(きろす・こんもどぅす)への恋心をライバル心と勘違いしていた頃を思い出し顔が赤くなってしまう。
「……あ、あの時は、あれでしたが、今の私は……キロスさんの恋人」
 ふるりと頭を振って忘れようとしつつ小さな声で恥ずかしそうに現在の状況を洩らした。恋心に気付き、ようやくキロスへの告白を果たして現在は、無事に恋人同士になっていた。
 その時、
「良かったらお菓子やお茶はどうですか? きっと手紙も捗ると思いますよ」
 参加者にお菓子やお茶をもてなし回っているエオリアに声をかけられ
「あ、ありがとうございます」
 アルテミスはお菓子とお茶を振る舞って貰った。

 エオリアが去った後。
「……ふぅ、1年後の自分に書いてみましょう。今はまだ恥ずかしくてキロスさんと手を繋げていませんが」
 お茶を飲んで荒ぶる気持ちを落ち着かせた後、アルテミスは改めて便箋に目を落とし、宛先を考える。恋人となれど中身はアルテミスが恋愛に奥手で恥ずかしがり屋であるためどう振る舞えばいいのか分からずあわあわして手を繋ぐも出来ず、進展が全く無いのだ。
「1年後の私は18歳……手を繋ぐ事が出来て……そ、そして大人のデートを……」
 アルテミスが考える大人のデートをする自分とキロスの未来を想像するアルテミスはペンを持ち、未来体験薬の匂いを嗅ぎながら手紙を書き始めた。

■■■

 1年後、午後の空京。

「キロスさん、お待たせしました♪」
 お洒落をしたアルテミスが弾んだ声で待ち合わせ場所にいる長身の青年に声をかけた。
「来たか。随分、めかしこんだな」
 キロスは頭から足の爪先まで自分のためにお洒落をして来てくれたアルテミスを見た。
「へ、変ですか?」
 アルテミスは何か失敗したのかと不安そうに恐る恐る訊ねた。
「いや、似合ってる」
 キロスは自分の視線が相手を不安にさせたと察するなり笑いを浮かべて恋人を褒めた。
「はい♪」
 アルテミスは頬を染め、花が咲いたように笑顔になった。
 そして、
「行きましょう、キロスさん」
 自然な感じで昔より1年大人のアルテミスはキロスの手を握って歩き始めた。
「あぁ」
 キロスはアルテミスの手をしっかりと握り締め、続いて歩いた。
 仲睦まじい恋人は楽しく街を歩き回り夕方になったら予約していた店でディナーを楽しんだ後、アルテミスとキロスはすぐには別れずに夜の散歩を始めた。

 食後、夜の空京。

「今日は楽しかったです」
「あぁ」
 アルテミスはキロスと腕を組みながら夜景が綺麗とデートスポットになっている場所を仲良く散歩をしていた。
「キロスさん、夜景が綺麗ですよ」
 アルテミスは夜景を指し示しながら言った。
「そうだな。しかし、まさか決闘を吹っ掛けて来るばっかのお前とこうして……」
 夜景に目を向けたキロスはほんの少し昔をくっくっと笑いながら言い始めた。
「キロスさん、そ、それは言わないで下さい。恥ずかしいですから」
 アルテミスは頬を染めて慌ててキロスを遮った。これ以上言われては恥ずかしさに耐えられない。
「懐かしんで一戦やるか?」
 キロスは可愛く恥ずかしがる恋人の様子にからかいをやめない。
「……意地悪です」
 アルテミスは過去を思い出し、恥ずかしさで声が小さくなってしまった。
 さすがにこれ以上はアルテミスが可哀想と思ったのかからかうのをやめて
「冗談だ。お前と恋人になれて幸せだって事だ」
 キロスは笑いつつも真面目な気持ちを言った。
「……私もですよ」
 アルテミスも笑顔で言った。
 それっきり二人は言葉は発さずじっと互いを見つめ合う。キロスの目にはアルテミスが、アルテミスの目にはキロス、と互いの愛しい人が映る。
 そして
「……アルテミス」
 キロスが背の低いアルテミスに合わせてわずかに屈み、
「……キロスさん」
 アルテミスはわずかに顔を上げる。
 このまま二人は口づけを交わすかと思いきや想像する現実のアルテミスが限界の糸がぷっつりと切れてしまい、肝心の場面は途中でおあずけとなってしまった。

■■■

 許容オーバーで想像が続かなくなったアルテミスは現実に戻り
「……わ、私とキロスさんがぁあぁぁあ」
 あまりの恥ずかしさに顔を真っ赤にし声高に叫ぶ。
 そして、
「こ、こんな恥ずかしい手紙、いくら自分宛てだといっても、送ることはできませんーっ!」
 アルテミスは書きかけの手紙を破り捨てて脱兎の如く逃げてしまった。

 アルテミスが破り捨てた手紙は
『1年後の自分へ。

先日、ついにキロスさんとお付き合いできるようになった私ですが、
1年後の私は、どうなっていますか?

まだ、恥ずかしくてキロスさんと手も繋げてない私ですが、1年後の私は、手くらいは繋げるようになっているでしょうか?

あり得ないことですけど、キロスさんとデートして、そのあとに夜景とかを背景に、ロマンチックなシチュエーションで、キスとかしちゃったり……』
 という可愛らしいものであった。