薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

××年後の自分へ

リアクション公開中!

××年後の自分へ
××年後の自分へ ××年後の自分へ

リアクション

「……未来体験薬と言えば……私と団長が……」
 以前に未来体験薬の被験者になった事がある董 蓮華(ただす・れんげ)はその時に見た未来を脳内再生し、顔を真っ赤にしていた。その未来とは愛する金 鋭峰(じん・るいふぉん)と新婚夫婦というもの。
「……匂いを嗅ぐ前からすでに妄想が始まっているな。蓮華」
 蓮華の隣にいるスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)は蓮華のいつもの暴走に呆れ、止めた。
「……ん、あぁ、何?」
 声をかけられ、我に返った蓮華はスティンガーの方に振り返った。
「さっさと用を済ませて森林を舞台にした訓練を始めたいんだが」
 スティンガーは妄想で忘れている自分達の用事を口にした。
 蓮華達は森林でゲリラ戦の訓練に向かう途中に手紙の話を聞きつけた蓮華が進路を変更しここにいるのだ。
「そうね。そう言えばそうだったわ。あぁ、でも何年経っても団長はかっこいいんだろうなぁ。私は軍で頑張ってて出来るなら団長と親密になってて……」
 スティンガーによって用事を思い出すも蓮華の目には鋭峰の姿しか映っていない。
「あれこれ言うのは勝手だが、どれも戦死しなければの話だな」
 スティンガーは容赦無くツッコミを入れると
「もう、縁起でもない事言わないでよ!!!」
 蓮華は口を尖らせ、怒り顔に。蓮華にとって鋭峰の死は考えられる不幸の中で最上位に入るらしい。
「……そうならないために訓練に来たんだろう」
 予想通りの反応にスティンガーはさらりと流してしまう。
「そうよ。さぁ、書いて訓練よ……書く前に……」
 蓮華はようやくペンを手に持ち、書こうとするがすぐにペンをテーブルに置いてしまった。そして、便箋に染み込んでいる匂いと共に想像した世界が色鮮やかになる事を楽しみ始めた。

 残されたスティンガーは
「……あれだと戻って来てもぼんやりしてそうだな」
 薬のせいか普通の暴走以上に暴走している蓮華の様子に軽く溜息をついていたが、
「折角だ。俺も手紙でも書くか。宛先は……」
 手元にある便箋に目を落とし、書く事に決めた。ただし、蓮華とは違い匂いを楽しむつもりはないらしい。
「10年後の誕生日の自分に適当に誕生祝いの言葉でも綴っておくか。生きていれば蓮華達が祝ってくれているだろうが」
 スティンガーはさらさらと便箋に文字を綴り、終わると封筒に入れて手紙書きを早々に終わらせてしまった。
「……時間掛かりそうだな」
 残った時間はひたすら蓮華を待つ事に消費された。

■■■

 数年後。

「……大丈夫かな」
 数年経っても軍人として奮闘する蓮華は難易度の高いに作戦で皆の士気が落ちている事に不安を隠せないでいた。
 その時、国軍総司令として全体の指揮を空中戦艦から執る鋭峰の言葉が響き渡り、皆の士気が一気に高まった。
「……私も生きて帰らないと、頑張りますからね、団長」
 鋭峰の言葉で蓮華は生きて帰ろうという気持ちになると共に鋭峰のために頑張るんだと誰よりも士気が高くなっていた。
 この後、作戦は上手く行き、完了予定よりも数日早く済み蓮華は久しぶりの自宅に帰還した。

 自宅前。

「……手紙とチラシと……小包……誰からかしら」
 蓮華は家に入る前に郵便物の確認を始めた。ありふれた物の中で小さめの小包が異彩を放っており、急いで送り主を確認する。
 そして、
「……って、団長から!? ど、どうして!? と、とにかく、確認しなきゃ!!」
 仰天。すぐさま中身を確認するべく家の中に入った。

 家の中。

「……まずは」
 小包の中身はラッピングされた小さな箱と一枚の封筒だけだった。まずは、確認しやすい封筒から。
 封筒を開けるとシンプルなカードが一枚出て来た。
「……誕生日おめでとう……? 私の誕生日は明日のはずだけど……団長の事だから何か意図があるのかな……きっとそうね」
 カードに書かれている手書きの文を見てさらに蓮華はびっくり。
 その時、
「……ん? チャイム? このタイミング……と言う事は!!」
 来客を告げるチャイムが鳴り響く。あまりに良すぎるタイミングに蓮華の乙女の勘がビビっと来る。
「団長!!!」
 蓮華は急いで玄関へと駆け出した。

 玄関にいたのは
「……元気そうだな、蓮華」
 蓮華の予想通り鋭峰であった。
「はい。団長の顔を見たらさらに元気になりましたよ!!! 何かありましたか?」
 蓮華は嬉しそうな顔で声も音量大で迎えた。
「私的な用で少々な。それ故、私の事も今は名で構わない」
 相変わらず素っ気なさの中に蓮華との親密な関係が滲み出ていたり。
「あ、はい……それで何か用ですか、鋭峰」
 蓮華は慌てて聞き直す。
「実は……私が送った小包の事なのだが」
 鋭峰が話を切り出そうとするが
「そうですよ。すっごく驚きました。でも私の誕生日は……」
 鋭峰に会えて嬉しさに浮かれまくりの蓮華に阻まれてしまう。蓮華としては一日間違って送ったのではと。その事を遠慮気味に口にしようとする。
「それは問題では無い。問題は……」
 今度は鋭峰が蓮華の言葉を遮り、ラッピングされた小さな箱を取り出した。
「!!」
 小包に入っていた物と瓜二つの物にびっくりし訳が分からない蓮華。
「中身だ。箱だけを入れて店側が私が注文しておいた商品を入れ忘れた上に気付いたのがつい先程でな」
 鋭峰はうっかり店員に被害を受けてしまった事情を説明した。
「……それで鋭峰が……でも……忙しい中、わざわざ……申し訳ありません」
 箱を受け取り得心いくが、面倒を掛けてしまった事に激しく頭を下げる蓮華。少しだけ店に任せずに届けに来た事に疑問に思いながらも。
「謝る必要は無い。それより明日は君の誕生日だが、時間はあるか」
 鋭峰は蓮華に頭を上げるように言った。口にはしないが、元々蓮華の顔を見に行く予定だったので。突然明日の予定を訊ね出す。
「えぇ、ありますよ。ですが……」
 頭を上げた蓮華は急いで答えるが、質問の意図が分からずきょとんとする。
「では、明日」
 鋭峰は詳しい事は言わず、さっさと蓮華に背を向けて去った。
「あ、はい。では、明日……」
 蓮華は贈り物をしっかりと持ちながら鋭峰を見送った。

 鋭峰が去った後。
「……って、明日、まさか、まさか、団長と……デート!!!」
 蓮華は鋭峰の別れ際の言葉の意味を知り、顔を真っ赤にする。
「……それに誕生日の贈り物も貰って……小さい箱だけど一体何が」
 蓮華は真っ赤な顔のまま手にある贈り物の中身にようやく興味を向けた。
 この後、蓮華は家に入ってから中身を確認し、嬉しさのあまり言葉を失った。

■■■

 想像から帰還後。
「あぁ、団長に名前呼びされるなんて……やっぱり団長は素敵……」
 現実に戻っても蓮華はぽわんとし、心はまだ遠くに行ったままであった。通常でも団長大好き乙女モード炸裂で十分強い妄想を生む上にそれを強化する薬が加われば、結果は火を見るよりも明らかである。
 つまり
「蓮華」
「……誕生日プレゼントも渡されて……あぁ、団長……」
 スティンガーが声をかけたとしてもうわごとでの返事となる。
「……予想通りか……蓮華」
 スティンガーは時間をおいてからまた声をかけた。
 今度は
「……団長……あっ、スティンガー……って、ここは……あぁ、そうだ……訓練のために……手紙を書かないと」
 届き、蓮華はしっかりと現実に帰還し手紙を書き始めた。
「ようやく、戻って来たか」
 スティンガーは静かに急いで手紙を書く蓮華を見守っていた。
「よし、書けた(頑張るけど、何か無理な気がする)」
 蓮華は書き上げた手紙を見て胸中で弱音的な事をつぶやいていた。
 蓮華が綴った手紙は想像した自分へではなく一週間後の自分に私的な任務を命じるものであった。
 その後、蓮華達は元々の目的に戻った。

 蓮華の担当教官でもあるスティンガーは素質のある蓮華を厳しくも優しく本日のメニューである近接武器での訓練を蓮華の集中力を鍛えるために長期戦の形で指導していた。
「どうした、蓮華。先程の団長を妄想していたパワーはどこ行った?」
 スティンガーは戦いながら蓮華を動揺させ隙が生まれるような事を口走る。
「ちょっと、あれは妄想じゃなくて想像よ!!!」
 団長という単語に反応した蓮華はスティンガーの思った通りの動きをし
「うわぁっ!!」
 あっという間に投げ飛ばされてしまった。
 この後続いて気配の殺し方の訓練もした。

 ちなみに蓮華の手紙は
『スティンガーからなんとしてでも1本とること。
それまでの間に取れてたら、マイご褒美にケーキ食べ放題に行ってよし』
 という難しいものであった。