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リアクション
3.腐海に落ちる者
真面目に潜入しているチームを一つ紹介しよう。
枝々咲 色花(ししざき・しきか)と高天原 天照(たかまがはら・てるよ)の二人組みは、ダンボールで身を隠しながら着々を古城の内部へ進んでいた。
二人は真面目に、そして静かに丁寧に、古城奥へと進んでいく。
丁寧な隠密行動のおかげで、途中で我慢できなくなった探索者や、あるいは最初っから隠れる事に力を入れてない探索者なんかを、二人はいくつも目撃するのだった。
最初に見かけたのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人組みだった。
「どんな拷問を受けようが、俺は何も言わない」
椅子に縛り付けられた変態を前にして、二人は不敵な笑みを浮かべた。
途端、強い光が変態を襲う。
「ぐわああああ」
「さぁ、そろそろ汚物のある場所を教えてくれもいいんじゃない?」
「あんまり強情でも、いい事ないわよ?」
「ぐぅ、い、言わぬ! 俺は暴力には屈しないぞ」
「ふぅん?」
「ぐわあああああ」
今度は暗闇が変態を襲う。
どちらも精神に大きく影響を与えるスキルだ。
身体に傷の残らない地味にいやらしい尋問である。
「別に私達は無理に聞きだそうなんてしてないわよ」
「快く教えて頂戴とお願いしているだけ」
「こ、これを、拷問と、ぎゃああああ」
容赦が無かった。
「はぁっ……はぁっ……俺達は、野望のために、兄弟の杯を交わしたのだ、俺はっ、兄弟を売ったりはしないっ!」
「そうなの?」
「大丈夫、心配しないで、私達はちょっとゴミ掃除に来ただけだから」
「そうね、別にあなた達をどうこうしようって話じゃないのよ」
二人の目的は、この城のどこかに保管されているであろう、テロで使うと公言された大量の使い込んだ男ものの下着である。
これを焼却処分するのが、彼女達の任務だ。テロリストの制圧までは、引き受けていないので、ウソは無い。
「ぎゃあああああ」
そんなわけで、地味にいやらしいが堅実な拷問が続く。
見ているとかなり痛々しいので、色花と天照は早々にその場を離れた。
その後しばらくして、二人の軍人は憔悴しきった変態から目的の場所と古城内部のテロリストが把握している地図を得る事ができた。
続いて二人が目撃した現場は、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)とヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)が、変態テロリストと戦っているところだった。
「オメーらは下着と結婚してもいいって言ってたけど、下着は履かれてこそ下着こんな方法で下着を手に入れて結婚したとして、オメーらは本当に下着を幸せに出来ると思ってるのかぁ!」
思いっきり振りかぶった拳が、テロリストのバケツ頭を強打する。ぐわんぐわん音を立てながらも、テロリストは倒れずに堪えた。
「我々は、パンツを愛でる愛がある!」
テロリストの反撃、全力のアッパーがアキラの顎を捉え、その身体が宙に浮き上がる。しかし、こちらも倒れずなんとか踏みとどまった。
アキラと素手の殴り合いを繰り広げているテロリストは、他のテロリストよりもがっしりした体格をしているように見える。鍛え抜かれた鋼の肉体は、その個人が只者でない事を物語っていた。
一方、アキラはといえば、頬は晴れ上がり、たんこぶがあり、かなり消耗しているようだ。ここでのダメージだと色花と天照は思っていたが、それは大きな勘違いであり、そのダメージの九割はルシェイメア・フローズン(るしぇいめあ・ふろーずん)によるものだ。
出撃前、何かと使い道があるだろうとアキラは彼女に、
「よし、ルーシェ。パンツ脱げ。へぶぁ!?」
とこんな感じで一撃を貰ったのである。
それだけであれば、ここまで体力を削られる事もなかっただろうが、いきなり殴るとは何事かと猛抗議した結果、ヒットポイントが一桁になるまで攻撃を加えられた。
そして、減ったヒットポイントを回復する間もなく潜入してここまでやってきたのである。
その後、いくつかの細かいミスと、負傷による判断の誤りと、ネズミの素晴らしい誘引効果(どうやら、事前に用意した食料をかなりネズミにやられたらしい)によって、現在に至る。
「愛だけで、幸せにできるのか!」
「したり顔で常識を並べる貴様に、俺達の愛は理解できぬ!」
互いの言葉は平行線のまま、二人は殴りあいを続ける。
(いつになったら終わるんでしょう……?)
ベルフラマントに身を包み、ヨンは戦いを傍観していた。
パンツについて熱く語る資格がないので、この戦いに介入できないのだ。
(あ、あれは……)
野生の感か、ヨンはこそこそとこの場を離れていく二つのダンボールを発見した。
(頑張ってください)
ベルフラマントの内側で、離れていくダンボールに向かって手を降った。
こちらは、もうしばしかかりそうだ。
「やめろぉぉぉ、うわぁぁぁぁぁっ!」
悲痛な叫び声を耳にした色花と天照の二人は、そちらの様子を身にいった。
その先で見たのは、筆舌に尽くし難い地獄絵図だった。
まず目につくのは、板の間の中央に置かれたコンテナだ。これからは、異臭が目に見えるほど濃く放たれている。
その直情には、ロープに吊るされたテロリストが一人。ロープは全部で三本あり、二つは乱雑に切られた後のようだ。
ロープに吊るされたテロリストは、泣き叫びながら助命の懇願をしている。
それを取り囲むのは、セフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)とオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)と葛城 沙狗夜(かつらぎ・さくや)の三人だ。
さらに広く視野を持てば、コンテナの周囲に男物の下着を頭から被り倒れるテロリスト達と、彼らの数と一致するバケツも確認できる。
周囲で転がっているテロリストは、自らが履き古した下着によって倒れたようだ。この破壊力は、もはや迷惑事件と言えるレベルではないのかもしれない。とはいえ、彼らは幸せな方である。
なぜなら、何人かは女性もののアンダーを手に握り締めている。三人のお色気作戦にド嵌りして迎撃されたのだ。僅かであっても希望の傍に近づけた彼らは、やはり幸せな方と言っていい。
吊るされた男には、もはや変態としての矜持も、男としてのプライドも残っている様子はなく、ただただ助命の懇願を続けている。
「教える、何でも教える、だから、だから助けてくれっ!」
吊るされた男の真下にあるコンテナには、彼らが履き進化させた下着が詰まっている。オルフィナが輸送中だったものを発見し襲撃、略奪した代物だ。周囲で被せるのに利用されたのも、ここから取り出したものである。
「本当に、全部話すんだな?」
オルフィナに念を押され、吊るされた男はぶんぶんと頭を縦に降った。
既に二人、コンテナに落とされたテロリストは、それから微塵の反応も無い。もう、ダメになってしまったのだ。
「それでは、全て話してもらいましょうか。まずは―――」
セフィーは淡々と質問を行った。
古城の見取り図、兵員の配置、ミサイルの位置、汚物下着の保管場所、エトセトラ、エトセトラ。
「全部話しただろ、もういいだろ、開放してくれっ!」
吊るされた男は懇願を続ける。もはや平静を保っていられる余裕は彼には無いのだ。
「では、開放してさしあげましょう」
沙狗夜の言葉を聴いて、吊るされた男は安堵からのため息と笑みを浮かべ、そのままコンテナの中へと落ちていった。
なんたる非道!
だがしかし、それは新たな災厄の引き金となってしまった。
突然、コンテナがガタガタと揺れだし、隙間から禍々しい光が放たれる。
「なんだ、どうした?」
「一体何が」
「何かはわからないが危険だ、離れろ」
三者はそれぞれ距離を取る。途端、コンテナは内側から破裂した。
最初は楕円形の物体だった。だが、それはぐにぐにと自ら形を変えていき、やがては人型にへと変化した。
「なんだあれは」
誰もアレが何だかわからない。ただ、その身体を構成するのは、汚物であるのは誰の目にも明白だった。
「うわぁぁぁ、助けてくれぇぇ」
悲鳴をあげるのは、周囲で倒れていたパンツを被った変態どもだ。どうやら、死んだ振りでこの場を逃れるつもりだったらしいのだが、何の魔力が、彼らはコンテナから出てきたモンスターに吸い寄せられ―――取り込まれ、同化していった。
「化け物め」
三人その他に影響が無いのは、汚物を装備してはいないからだろう。
一人、また一人と取り込むたびに、汚物の塊はその身体を大きくし、全身がてらてらとぬめりだした。
「女狼達よ、あの化け物を退治するぞ」
沙狗夜の呼びかけに女狼達が集結する。
その一方で、色花と天照はこの場を離れた。
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