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リアクション
1.傭兵は退路を探す
「流石に丸腰で待ってはいないか」
軽い偵察を行ったトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)は、ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)を中心に揃ったテロリスト鎮圧部隊へと帰還した。
「どうだった?」
ハイナの護衛として志願したルカルカ・ルー(るかるか・るー)が尋ねる。
「それなりに戦力を揃えてるみたいだ。従龍騎士崩れとか大荒野の荒くれ者とか、そういうのが巡回してる。あと、どうやって引き込んだのかわからないけど、オークも一緒だった。他にもモンスターがいるかもしれない」
「武力を行使する準備も整えるとは、悪辣極まりないでありんす」
ハイナは憤りを隠すつもりはないようだ。
どう考えても、迷惑かつ変態な集団に、名指しでパンツをよこせなんて言われて冷静ではいられないのだろう。
「テロリストのメンバーはどれぐらいいそう?」
「わからないけど、識別は簡単だと思う」
ルカルカにトマスはそう答える。
「簡単?」
「……ピンク色のビキニアーマーを着た連中が、たぶん、そう」
「ピンク色……」
「すごく目立つよ。数はそんなに多く無いけど、中にはどれぐらいいるかまではわからない。外の連中は、城の中には入れないみたいで門番もそいつらがしてた」
トマスは頭痛を感じながら、見てきたものを説明した。
女性用装備に身を包んだ、わりとガタイのいい男達を相手に、自分はこれから交渉の席を設けにいくのだ。
立場的にはうまくいって欲しいが、個人的にはそんな危険な連中を声の届く距離に置きたいとはあまり思えない。
「傭兵を雇うというのは、兵力が少ない証拠でありんす。派手に暴れて引きずり出してやれば、制圧も容易になるでありんすよ」
ハイナは変態どもを殲滅するのに躍起になっており、トマスの頭痛には気付く様子は無かった。
「かかれぇっ!」
陣頭に立ったハイナの号令を受けて、テロリスト鎮圧作戦が開始された。
今更作戦について説明するまでもないだろうが、一応説明すると、それなりの規模で武力による鎮圧作戦を遂行し、古城からテロリストを引きずり出して内部の警備を手薄にし、本命である潜入部隊の援護をするのが目的である。
二段構えの作戦の最大の理由はテロリストによる破れかぶれのミサイル発射を阻止する事であり、先行潜入部隊に支援が必要なほど、彼らが占拠した古城は打ち捨てられていた割には複雑かつ高度な代物だったのである。
やるべき事は割りと真面目だ。テロリストはミサイルを持ち出しているし、拠点もしっかりあるし、傭兵を雇い入れて防衛を固めてもいる。
ハイナの号令と共に、鎮圧部隊の一団が古城に向かって突撃を開始した。速度はバラバラ、その中でも最前線のさらに前、最高速度で飛び込んでいくのは鳴神 裁(なるかみ・さい)だ。
突風となって近くの敵を吹き飛ばしながら突っ込んでいく裁の口からは、小さな声が漏れていた。
「なってない、なってないわ」
かっと目を見開いた裁は、突風を撒き散らしながら敵陣の真ん中で停止する。
撒き散らされた突風は、周囲の荒くれ者や従龍騎士団くずれの衣服を切り刻み、撒き散らした。
「夢の奴隷が一角、旋風の隼ことアリス=ジャッジメントがいざ参る!」
(あかん、裁さんの要素がスピードしか残っていない。つーか性格はアリスさんのまんまだ)
魔装ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)の装着者である裁は、ユニオンリングを用いてパートナーであるアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)と合体しているのだが、テロリスト達のあまりにも浅いパンツへの愛に、アリスの意識が強く顕現してしまっているようだ。
(駄目だこいつはやくなんとか……できてたらボクはここまで苦労していないのですね)
装着されたドールの目を確認すのは難しいが、その目はハイライトが無くなっていたことだろう。
粛々と己の役割を果たしている黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)に習って、ドールもまた装着者の身体のために力を尽くすしかないのだ。
「むぅ、一番槍を取られたか」
どしんどしんと足音を響かせながら、一団の最前線を走るのはコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)だ。
「遅れるわけにはいかないな」
「ガオオオオオオ(我の久しぶりの出番だ! ハーティオン! なんだかすっごい久しぶりの出番だ!)」
龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が咆哮で応える。いや、むしろ歓喜の雄たけびだろうか。
「ガオオオオオ!(このままフェードアウトかと思ってちょっとドキドキしてたが待っていればいい事あるな! そうか、早速暴れるのだな!)」
「そうだ、大暴れしてやろう」
ハーティオンはドラゴンランダーの意思疎通が可能なのだ。
「ガオオオオオオ!(行くぞ! ハーティオン)」
『竜心合体! ドラゴ・ハーティオン!』
説明を省略しよう、二人は合体した。
飛び出した裁に少し遅れて、ハーティオン達一団も突撃していった。鎮圧部隊の主な面子は、葦原明倫館からかき集められた侍や陰陽師の見習い達で、男女比は女の方が多かった。
作戦らしい作戦もない正面突撃だったが、テロリストの布陣も雇われのごちゃまぜであり、統率が足りないのかあっという間に乱戦になっていった。
その戦いの後方、手ごろな岩に腰を降ろしながらラブ・リトル(らぶ・りとる)は叫んだ。
「なんだって久しぶりの復帰戦でこんなしょーもない変態ワールドカップ上位常連チームみたいな連中の事件に首つっこまなきゃならないのよー!」
リトルの声が届かないぐらいに、主戦場から離れた場所では、神月 摩耶(こうづき・まや)とクリームヒルト・オッフェンバッハ(くりーむひると・おっふぇんばっは)の二人が血溜まりの上に立ってきょとんとした表情をしていた。
「ちょっと―――」
摩耶の左手の人差し指には、ぱんつがひっかかっている。
誰のものではない、さきほど自分が脱いだ、脱ぎたてほやほやの自分のものだ。
ぱんつはもう一つあり、それは血溜まりの血を吸って赤く染まっている。こちらはクリームヒルトが少し前に、やはり自分で脱いだものである。
「刺激が強すぎたみたね」
互いに互いの腰に手を回しながら、ぱちくりと二人は瞬きをしてからそう納得した。
「まだまだほんの序盤だったのに」
残念そうに、摩耶は零す。
この血のプールは全て、彼女達を取り巻いていたテロリストどもの鼻から噴出されたものだ。
艶かしいダンスにふらふらとつり出され、二人のショーに釘付けにするまではいい感じに想定通りだったのだが、彼らは二人が想定した以上に、シャイでウブだったようだ。
噴水のように鼻血を噴出し、次々と倒れていくテロリスト達の様子はちょっと面白かったが、やっぱり色々残念だ。替えの下着も用意してあったというのに!
「汚れちゃったね」
返り血、と呼んでいいのかどうかは知らないが、鼻血によって二人の衣服もところどころ赤く染まっている。見る人が見れば、何やら恐ろしい殺戮があったようにも見えるだろう。
「少し、あそこで休憩しましょ」
クリームヒルトが示すのは、古くなって打ち捨てられた古城だ。テロリストが占拠しているのだ、休むところぐらいはあるだろう。
肩を抱いた二人は躊躇する事もなく、気軽な足取りで古城へと向かっていった。
あとは全くの余談であるが、ここで血の海に沈んでいる連中は、有事の際に内部に伝達を行ったり、外での戦いの指揮を行う大事な人材であった。全くの余談ではあるのだが、大事な人材だった。
その結果、数分で外は大混乱になった。
どれぐらい大混乱かというと―――
「センターパンツは誰かなー!」
調整しきれていないマイクがハウリングを起こすが、誰もそんなの気にしない。即席のステージにかぶりついている連中は、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)によって呼ばれた四十八星華の親衛隊によって呼ばれたアイドル達の煌びやかなダンスでちらちらと見えそうで見えないぱんつに釘付けなのだ。
そしていい感じに集まって団子になったところで、
「そろそろやっちゃってー」
ズドン、と魔人のランプで呼び出された魔人が、一まとめに踏み潰していく。
「これって、もはや駆除ね」
統率が失われた軍隊の掃討は容易いというが、これはもはやそんなレベルではない。
誘引剤に寄ってきたハエを駆除するようなものだ。
かくして外周部のテロリストどもはいい感じに駆逐されていっているのだが、中には結構頑張ってる連中もいる。
オーク部隊、従龍騎士くずれ、大荒野の荒くれものども。
恐らく彼らは、テロリストの目的に賛同したのではなく、単に金かなんかで雇われた連中なのだろう。故に、いざという時は雇い主の判断を待たずに行動する。今がその時なのだ。
「……わっち達はいつから、荒くれ者どもの退治をはじめたでありんすか?」
「さぁ?」
まだ鎮圧作戦が始まって三十分ぐらいのはずだが、既に目的は見失われはじめていた。
主に、テロリスト達の不甲斐なさによって。
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