薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

寝苦しい夏の快眠法

リアクション公開中!

寝苦しい夏の快眠法
寝苦しい夏の快眠法 寝苦しい夏の快眠法

リアクション

「ここ最近無駄に暑すぎて眠れなかった所だったからあの二人にしてはいいもん作るじゃない」
 手に入れた夢札に目を落としながらセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)はくれた顔見知りの双子に感心するも
「だけど、あの二人の事だからしょーもないイタズラするのは間違い無いわね」
 すぐに肩をすくめた。これまでの事からあの双子の行動は推測済みだ。こんな悪戯心を刺激する物をあの二人が放っておく訳が無いから。
「それは間違い無いわね。それでどうするの? 使うのをやめるの?」
 セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)も容易く悪さをする双子の様子を想像しつつ自身の手元にある夢札に目を落とした。
「使うわよ。どんな夢が見られるのか楽しみだし何より快眠効果があるし……ま、警戒しておけば問題無いでしょ」
 これまでの事から対応出来ない事はないためと興味が勝ち、セレンフィリティは夢札使用を決めた。
「そうね」
 セレアナは毎度の通り追随する事に。
 二人はぐっすりと眠った。

 ■■■

「……ん、どこ、ここ?」
 閉じていた目を開けたセレンフィリティは広がる光景に目を忙しくし水晶で出来た城のような建物のテラスの上にいる事を確認した。
「……夢の中みたいね。この建物は海か湖の中に建っているみたいよ」
 セレアナが眼前の果てしなく広がる海か湖を見渡していた。
 その横で
「ちょっと、ちょっと、あたし達なんかドレスみたいな物着てるわよ。もしかしてどこかのお姫様にでもなったのかしら」
 セレンフィリティが自分とセレアナの格好に気付き、驚き込みの弾んだ声で言った。二人は純白のドレスのような衣装を纏っていた。夜空から降り注ぐ月明かりによってドレスの白さはますます輝きを発していた。
「そう言えばそうね」
 セレアナも視線を下に向け、ドレス姿を確認する。
 その間に
「いつまでもここにいるのはつまらないし城内を見て回るわよ」
 セレンフィリティはドレスの裾を翻し、屋内に入っていく。
「セレン(どこにいても変わらないわね)」
 セレアナは胸中でいつもと変わらぬセレンフィリティに溜息を吐きながらいつものように追いかけた。

 城内。

 少一時間うろちょろ見て回った後。
「どこ見ても誰もいないし何も無いわね……何かつまんないわねぇ。綺麗な建物ではあるけど静まりかえっていてどこかひんやりするし」
 セレンフィリティは足を止めて退屈そうに肩をすくめた。城内はあまりにも綺麗で涼しげであるが、静かで人影一つない。悪く言えば風景の変化が無い退屈な城内。
「……そうね(というか、セレンと同じ夢を見た上に振り回されるなんて……夢でも現実でも同じね)」
 伴侶であるセレンフィリティの性格をよく知るセレアナは適当に流し胸中で苦笑するばかり。
「つまんないけど、ここは夢だし、もう少し回ってみようかしら。何かあるかもだし……」
 セレンフィリティはまだ見ていない場所もあるためそこを見に行こうとする。
「……セレン、これ以上うろちょろするのはやめたらどう? 夢の中とはいえ、迷子になって後で慌てるのはセレンなんだから」
 セレアナがいつものように窘めの言葉をかけて
「そんなの……」
 セレンフィリティが何やら答えようとした時、突然城が静かに水没を始めた。
「ちょ、ちょっと、待ってよ!!」
 動き出した城内に周囲を見回してから水浸しになる床を見るなりパニックになるセレンフィリティ。
「逃げる暇は無さそうね」
 冷静なセレアナは水没速度が異常に速い事から脱出する時間がないと割り出すも夢だからと慌てる様子はない。
「セレン、落ち着いて、ここは夢の中、滅多な事にはならないはずよ」
「そ、そうよね。ここはあたし達の夢の中。万が一の事なんて起こるはずなんか無いわよね」
 セレアナの落ち着き払った言葉にセレンフィリティはようやくパニックを大人しくさせた。
 しかし落ち着くのが少し遅かった。
「セレアナ、水よ」
「とうとうこの時が来たみたいね」
 二人は水に飲み込まれてしまった。

 水没後。
「……(こ、呼吸が……って、あれ、出来る……水中なのに苦しく無い)」
 セレンフィリティは水を飲んで溺死すると一瞬慌てるも呼吸可能な事に気付き安堵した。
「……さすが夢ね。全然苦しくないわ」
 セレアナは地上と変わらない感じで声を発した。
 ここで二人は改めて水に満たされた城内を見回し
「……水没したせいなのかしら、景色が様変わりね」
 先程の退屈はどこへやらセレンフィリティは物珍しそうに水の色に染まった城内を見回していた。
「そうね。水没と言っても浅瀬だから月明かりが差し込んで幻想的よ」
 セレアナは頭上から差し込むほのかな明かりに顔を上げた。
「……本当に……綺麗……」
 誘われる形でセレンフィリティも見上げた。
 そして、
「……セレアナ」
「……セレン」
 どちらともなく愛する相手の顔を見合わせ、手を取り合い
「……(この世界にはあたしとセレアナだけ。すごい贅沢ね……いつまでもこうしていたいわ)」
「……(セレンと私だけの世界。悪くないわね)」
 月明かりに照らされながら踊った。この幻想的な世界を独占しているのは自分達だけである贅沢さ。何より最愛の人の瞳に映るのが互いの姿だけである事、夢でも取り合った手に互いの温度を感じる事が幸せだった。
 水中の舞踏会は現実の目覚めが訪れるまで続いた。

 ■■■

 覚醒後。
「いい夢だったわね、セレアナ」
「えぇ、振り回されるのはこっちと同じだったけど」
 セレンフィリティとセレアナは大満足であった。