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リアクション
第十章 そして、手にしたもの 2
……と。
三人が変身し終えた所で、「ギフト」が再び尋ねてきた。
『もうやることは済んだか?』
「ああ。悪いな、待たせて」
そう答えて、ケンリュウガーが、そしてその他の面々も戦闘態勢を取る。
『この人数では手を抜くわけにもいかんか……では、全力で行くぞ!!』
「ギフト」は、そう一声吼えると……次の瞬間、いきなりその姿がかき消えた。
「!?」
次の瞬間、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)が大きく後ずさり。
それと同時に、最初とほぼ同じ場所に「ギフト」が姿を現した。
『受け切るか。少なくとも見かけ倒しではないようだ』
見た限り、「ギフト」に何らかの飛び道具のようなものがあるという感じはしない。
だとすれば……一瞬で間合いを詰めて攻撃を行い、また一瞬で元の位置に戻ってきた……?
「なあ、八重」
ぽつりと、奈津が小声で言う。
「……何?」
「今の……見えたか?」
その問いかけに、八重は正直に答えた。
「……全然」
もし、今狙われたのが自分たちだったら?
防げた自信は、全くない。
「おいおい……そいつは反則だろ」
呆れたようにアキュートが言う。
あんなスピードで動き回られたのでは、攻撃を当てること自体が至難だ。
かといって、こちらが範囲攻撃を多用するスタンスに変えれば、相手は乱戦にして同士討ちを狙ってくるに決まっている。
『どうした、そちらからは来ないのか?』
行った所で、誰が当てられるというのか。
安っぽい挑発ではあるが……だからといって、言われっぱなしにしておくわけにはいかない。
「そんなに言うなら、その挑発乗ってやるぜっ!!」
「神速」を使い、こちらも驚くほどの速さで駆け寄って拳を振るうラルクだったが、「ギフト」の速さはさらにその上を行く。
まるで白銀の風のごとくに駆け抜け――次に狙われたのは、蒼灯 鴉(そうひ・からす)。
殺気感知で狙われていることを察知し、龍鱗化で多少なりと防御力を高めたというのに、かすめただけで弾き飛ばされそうになる。
「ちょっと、バカラス何やってんのよ!?」
後ろで見守るアスカの心配そうな視線に気づいて、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)が声を荒げる。
「うるせぇ! お前も狙われてみろ女悪魔!」
吐き捨てるようにそう答えて、一つ小さく舌打ちをする。
反撃するどころの騒ぎではないし、守りに徹するにしても、今のは単発だから防ぎきれたようなものだ。
「……っ!」
「うわっ!!」
床を蹴り、壁を蹴り崩し、超高速で駆け回りつつ攻撃を繰り出してくる「ギフト」。
その縦横無尽な動きは、まさに先ほど危惧した通りの事態を引き起こしていた。
「くっ……まずは足を止めねば!」
イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)の言葉は確かにその通りなのだが、問題は「誰が」「どうやって」それを成すか、だ。
「俺に任せろ!」
「この朱鷺にお任せを」
声は、二つ同時に上がった。
朱鷺と、そしてケンリュウガーである。
「自信は?」
「十分に。そちらは?」
「同じくだ。いいね、合わせていこうか!」
そう叫んで、ケンリュウガーが破壊のプリズムをかざす。
プリズムを通った光が、彼にさらなる力を与える。
「では、こちらも」
朱鷺は裂神吹雪をふわりと舞わせる。
見た目はただの紙吹雪だが、これも彼女の手にかかれば強力な武器となるのである。
「本当は最後のシメがよかったんだけどな……先鋒、行かせてもらうぜっ!」
いったん「ギフト」が動きを止めた隙を見計らって、ケンリュウガーが走る。
そのスピードは確かに相当のものではあるが、それでも「ギフト」には及ばない。
――そう、そのままなら。
「これならどうだぁっ!!」
ケンリュウガーの隠し球は、アクセルギア。
その効果で、一気に周囲の世界が1/30の速度に減速する。
この速さなら、十二分に追いつけるどころか上回れる!
その使用可能時間はわずかに5秒のみだが、ケンリュウガーの体感時間で言うなら150秒、つまり2分半だ。
『む!?』
自分よりも素早い相手と戦うのは、おそらく初めてなのだろう。
動揺する「ギフト」の攻撃をかわしつつ、その前足を重点的に狙って攻撃を打ち込み、一気に押し込んでいく。
そして、効果時間の限界直前に、渾身の一撃を叩き込んだ。
「ひぃぃっさぁぁぁつ! 猛竜撃ぃぃぃ!!」
『ぐ……っ!!』
吹っ飛ぶ「ギフト」が、急に加速する。
アクセルギアの使用限界が到達し、ケンリュウガーの体感時間が通常に戻ったのだ。
「今です!」
やや離れた所に飛ばされた「ギフト」に、無数の紙飛行機が左右から矢のように突き刺さる。
朱鷺が先ほどの裂神吹雪を紙飛行機に変え、「神威の矢」によって飛ばしたのだ。
『やるな……言うだけのことはある!』
朱鷺が狙ったのは、もちろんケンリュウガーが狙いにくかった後ろ足。
これによって、「ギフト」の主に四肢に十分なダメージが及び、また、再び間合いが確保された状態に戻った。
そこを狙って、まずはジュレールのレールガンの一撃が飛ぶ。
その一撃がうまく脇腹に着弾したのを見て、ジュレールは満足そうに笑った。
「最初であれば避けられていただろうが、やはり効いているな」
そう、この一撃はダメージを与えるためだけのものではなく、相手の動きを確認するための一撃だったのだ。