First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last
リアクション
6 イレイザー戦
咆哮が轟く。
遺跡を揺らすような、いや、実際に遺跡が揺れ鍾乳石を落とすその雄叫びは、今までのモンスターとは全く格が違う。
2番目に倒した『草津』の死に反応したものだが、今イレイザーの前にいるメンバーには、この雄叫びの意味は知らない。
「……っつー……」
ヴェルデ・グラント(う゛ぇるで・ぐらんと)やエリザロッテ・フィアーネ(えりざろって・ふぃあーね)は、耳を塞がなければ危うく鼓膜を破られるところであった。
「でけえ声だな……」
イレイザーを倒す!
そんな意気込みを持ったメンバーは、いの一番にイレイザーのいる遺跡最深部を目指してきた。
そして彼らはダイソウとは違って、イレイザーの規格外の強さを知っている。
3体のモンスターで体力魔力を削られては、イレイザーに大きな後れを取ると思い、汗をかきかき、氷属性のスキルで我慢しながらイレイザーと対峙する。
しかし、彼らとイレイザーの間に立ちはだかる不思議な結界。
イレイザーは結界の向こうで忌々しげに動きつつ、結界には触れようともしない。
何人かは試しに結界を攻撃してみるものの、物理攻撃もスキルも無効化されてイレイザーには届かない。
「なるほどな。おし、それならこっちも事前準備ができるぜ。おいヒマな奴ら! 手伝え!」
ダークサイズが何らかの結界解除の方法を見つけるだろうと踏んで、その時間を利用してヴェルデ主導の仕込みが行われてきた。
嬉々として作業をするヴェルデを、エリザロッテが
「まったく、楽しそうで偉そうで、何よりだわ」
と、チクリと皮肉を言う。
今日のヴェルデには、そんな言葉は通用しない。
彼の態度は絶対的な自信の現れであるが、それには理由がある。
「まぁ、イレイザー戦の先輩としてはよぉ、ここはダイソウトウにアドバイスアーンド手助けをしてやるのが、情けってもんだろ?」
ヴェルデは【匠のシャベル】にもたれてニヤニヤ笑う。
「ニルヴァーナにも連れて来たもらったしね」
「なーに言ってんだ。あいつらが来れたのは、俺らが手伝ってやったからだろうが」
ヴェルデの態度は崩れない。
そしてそんなヴェルデの秘密の仕込みをずっと手伝わされていた超人ハッチャン。
立派な体躯を生かして奴隷のように肉体労働に従事する。
「閣下達大丈夫かな……クマチャン、死んでなきゃいいけど……」
と、つぶやく超人ハッチャンの額に、水がぱしゃぱしゃかけられる。
何故か超人ハッチャンの頭の上を定位置にしているラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)が、コップを逆さまにしてニコニコ笑う。
「はちゃん(ハッチャン)、あちゅい(暑い)?」
「あー、ありがとね、ラルム」
「こら、ラルム? 冷やしてあげたいのはいいけど、お水をまんまかけるなんてダメよ」
オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)が、腰に手を当ててラルムを見上げる。
ラルムはコップをオルベールに差し出し、
「おみじゅ、おかわい」
「……はいはい」
オルベールも最終的にはラルムに甘い。
蒼灯 鴉(そうひ・からす)が額の汗を手で払い、
「ったく、暑いぜ……」
と一人ごちながら、師王 アスカ(しおう・あすか)が描いているイレイザーのイラストを覗く。
「よくこんな状況で絵なんか描けるな」
「逆だよぉ、鴉。イレイザーをこんな近くでじっくり見れる機会なんて、ないもんねぇ」
と、嬉しそうなアスカだが、一方でイブ・アムネシア(いぶ・あむねしあ)は、
「ああああのぉ〜……ものすごく怖いんですけどぉ〜……」
結界を挟んで今は安全とはいえ、イレイザーの巨大な存在感に恐れをなしている。
アイリス・ラピス・フィロシアン(あいりす・らぴすふぃろしあん)が、結界を指さし、
「……大丈夫……結界、ある……」
「わわ、わかってますけどぉ〜……」
「あーら、イブ? 怖がってたら『ハッチャン直属メイド隊』、クビになっちゃうわよ〜?」
イブとアイリスの後ろには、いつの間にかシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が立っている。
「あ、あれっシオンさん!? こんな所で何を?」
「あら、ご挨拶ね♪ あなたたちが頼りないから助っ人に来てあげたっていうのに」
「いや、シオンさん。司さんと演劇のお稽古じゃなかったんですか?」
「大丈夫よ。リハーサルには戻るから。置き手紙もしてきたし」
某所で演劇公演をするらしく、その準備に追われていた月詠 司(つくよみ・つかさ)とシオン。
シオンが姿を消して、司が探していたところ、彼女からの置き手紙があり、
アイとイブがいまいち役になってないみたいだから、ちょっとお説教しに行ってきます♪
リハまでには戻るから、いろいろよろしくね☆
あと、『ハッチャン直属メイド隊』のリーダーはツカサだから、次からちゃんと仕切ってね〜
「あれー? シオンくん!? 何で勝手にダークサイズ行っちゃうの? ていうか何で私がリーダー? シオンくんが言いだしっぺなのにー!?」
司が演劇の準備とメイド隊のリーダーを押しつけられて悲鳴をあげている頃、
「ツカサったらリーダーなのに演劇を優先するんですって。ホントあの子ダメよね〜☆」
シオンはダブルスタンダード並みの責任転嫁をして楽しんでいる。
などとやっている間に、イレイザーが最後の咆哮を上げる。
皆慌てて耳を塞ぐが、直後その場の全員が慄然とする。
「お、おい。結界が……」
「薄くなって……」
と、皆が言う間にイレイザーの行動を制限していた結界がどんどん消えていく。
驚く皆の結界の反対側では、イレイザーがその20メートルを超える巨体をかがめて、すぐ向こうにいる人間たちを巨大で鋭い目で射抜く。
1万年の封印を解かれるのだ。
イレイザーの口元は、喜びに歪んでいるように見える。
「ダイソウトウたちが結界を解いたのか!?」
「うおお! や、やべえ!」
「ダークサイズのやつらはまだか!」
「何よりアルテミスとダイダル卿はどうした! イコンがねえからあの二人は絶対必要だぞ!」
怒号のような言葉が飛び交いつつ、皆急いで戦闘態勢に入る。
そんな中、先ほどから何かを仕込んでいたヴェルデが、皆を落ち着かせる。
「こんなこともあろうかとおおお! 用意しておいたぜ! 俺の対イレイザートラップをなあああ!!」
ヴェルデの強気な姿勢の理由は、イレイザーと戦闘経験があるということ。
加えて以前の戦いでは、イレイザーを罠にかけることに成功していることである。
ヴェルデは全員を下がらせ、まずはイレイザーをトラップにかけ、足止めとダメージを加えておくことを狙う。
ついに1万年の結界から解放され、上体を上げて立ち上がり一歩踏み出すイレイザー。
その1歩目から、ヴェルデの罠が容赦なく襲う。
まずは巨大な地雷がイレイザーの足の下で炸裂。
「これがダメージになるとは思わねえ。狙いは……」
ヴェルデの説明と同時に、爆発で穿った地面にイレイザーの左足が沈む。
穴の中に仕込んだ束縛網がイレイザーの足を掴んだ。
バランスを崩したイレイザーがその巨体を壁面に預けると、高圧電流の流れる極太のワイヤーがイレイザーの左肩を絡め取る。
「ほらほらイレイザーちゃんよー。その程度で動きは止まんねえだろ?」
嬉しそうにイレイザーを眺めるヴェルデ。
思わぬ電流で、ダメージはなくとも怒りを蓄積するイレイザーは、叫び声をあげながら、左肩のワイヤーを強引に引っ張る。
引っ張られたワイヤーの根元で、スイッチが入るような音がする。
直後壁面に爆発が起こり、岩と尖った鍾乳石がイレイザーに突き刺さる。
「おおっし! 皮膚を貫いたみてえだな!」
「でも、さすがイレイザー。あれじゃかすり傷ね」
規格外のモンスターには規格外の罠を。
普通の敵では消し飛んでしまうトラップを連動させ、その規模は遺跡を揺らし、ヴェルデ達の方でも天井から岩が落ちてくる。
「す、すごい! これがダークサイズの戦いなのですね!」
葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)も驚きの声を上げ、
「よーし! ダークサイズの新人ですから、自分行かせていただきます!」
と、【パントラインスペシャル雅羅式】を構える。
「おおっと待ったー! イレイザーの一番槍は僕たちがもらうよ!」
吹雪の隣に、フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)が立ち、
「フッ、見せてもらおうか。ニルヴァーナのイレイザーとやらの力を!」
と、山県 昌景(やまがた・まさかげ)が並ぶ。
吹雪が二人を見て笑い、
「では、競争です!」
と、3人同時に飛び出す。
イレイザーも、向かってくる小さな人間に目をやる。
それを見たエリザロッテが慌てて、
「あ、待って! そっちは……」
と、止めようとした直後、
「アルティマああああっ! トゥーれあああああああ〜」
3人とも大きな落とし穴に落ちる。
「うおおい! 俺の罠が台無しじゃねえかー!」
「うええ……何だかねばねばぬるぬるします……」
「何で……落とし穴にローションがぁ……」
フィーアのぴったりした服にローションが絡み、透けそうな勢い。
しかしその直後、吹雪たちの真上をイレイザーの高温の炎が通過する。
「……!」
『別府』とは違って本物の炎である。
結果的にそれをかわした形になるが、3人はヒヤリとする。
「うひょー、すげえ! テンション上がるぜーっ」
イレイザーの巨大な炎を見て、逆に嬉しそうなラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)。
「足止めしてるがあのぶっとい足だ。いつ振りほどかれるかわかんねえ。やれる時に徹底的にやっとくぜ!」
ラルクの気合いを聞いて、
「みゅ、一理ありやがるです。さあゲドー、イレイザーを倒してダークサイズ上位幹部を狙いやがるです」
俺様の秘密ノート タンポポ(おれさまのひみつのーと・たんぽぽ)が、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)を見上げてイレイザーを指さす。
「いや、タンポポちゃん。あれはさすがにでかすぎるって。俺様死んじゃうよ? 俺様、ニルヴァーナの情報仕入れたかったんだけど……」
本来の目的であったニルヴァーナの情報収集はシメオンがやればいいと、タンポポに無理やりイレイザーのもとへ連れてこられたゲドー。
「イレイザーが罠をふりほどいたら手がつけられないです。このデカブツは親衛隊だから、一緒に戦えば上位幹部の近道になりやがるです」
と、タンポポはラルクの太ももをポンと叩く。
ゲドーが慌てて手を振り、
「た、タンポポちゃん……デカブツとかそういう言い方は、な」
「おい、そこの緑筋肉ダルマ班。ぼーっとしてないで人海戦術に加わりやがるです」
ゲブーを無視して超人ハッチャンとアスカやシオンたちを呼びつけるタンポポを、
「だからタンポポちゃん、緑筋肉ダルマとかそういう言い方は、な」
と、ゲブーが暑さとは別の汗をかく。
「あと、カメラお嬢と牙男(きばお)とぼさぼさ娘。おまえたちも一緒に攻めやがるとよかろうなのです」
「だからタンポポちゃあーん!」
そんなゲブーをよそに、タンポポがさらに六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)、アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)、麗華・リンクス(れいか・りんくす)を指さす。
「あはは……カメラお嬢、ですか」
「このガキ……俺様をきばお、だと?」
「あたしに至っては髪型か……」
3人はタンポポからの突然の指名と妙なあだ名で戸惑いつつ、
「まったく……ずいぶん緩そうな組織だから、ユーキがダークサイズで遊ぶのも少し様子を見ようと思ったが……礼儀もわきまえねえお子様がいやがるとはな」
アレクセイが早速不満を漏らす。
「あっはは、まあまあアレク。子供の言うことですし……」
「そうだぞ。郷に入れば郷に従えと言うしな。あの総統殿も女王陛下に敵対する雰囲気ではなかった。それを確認できただけでもよかったではないか。な、きばお」
「きばお言うな。このぼさぼさ娘が」
「ふふ、娘か。あたしもまだまだ捨てたものではないな」
と、まんざらでもない麗華。
「喜んでんじゃねえ!」
「怒ってないで戦いやがるです、きばお」
「うるせーぞ。タンポポみてーな髪しやがって。このタンポポ小僧」
「タンポポの名前はタンポポだからあだ名になりやがってないです」
「……くっそ……おい、ちゃんと躾しとけよ、えーっと……変人」
「あれー! 俺様のあだ名、すげー雑くない!?」
と、漫談が一区切りしたところで、
「はっはっは、まあ何でもいいぜ。ダイダル達が来る前にやっちまってもいいよな、チビ軍師殿?」
ラルクがタンポポを見下ろし、タンポポはこくりと頷いて炭化した棒を拾い、ひょいと振りおろす。
「とっとと行きやがるです」
行きがかり上タンポポの指揮で扇状に展開するラルク達。
「よおーっし! 最近ロイヤルガードの公務で溜まってるからなー! 出し惜しみはなしだぜ!!」
ラルクはイレイザーに正面から挑む。
イレイザーの武器は炎だけではない。
人間が数で攻めてくるなら、背中に生える数えきれない触手たちが伸びる。
一本一本が意思を持ったように、攻めるメンバーを的確に狙ってくる。
『あら♪ さすがイレイザーね。太ぉい♪』
シオンとオルベールが同じリアクションをしている。
「シオンさああん! ふざけないでくださーい!」
「イブ……こっち……」
アイリスがイブを引っ張って、超人ハッチャンの後ろへ。
触手の一本が超人ハッチャンの頭上にいるラルムを目がけて飛んでくる。
オルベールがハッとして、
「ラルムっ!」
と叫ぶと同時に、
「どっこいしょー!」
超人ハッチャンが、触手を白羽取りしてラルムをギリギリで救う。
ラルムは手を叩いて、
「どこしょー」
と、超人ハッチャンの口真似。
触手の先端をこちょこちょくすぐって遊ぶラルムを、
「お願いだから今は安全なところにいて」
と、オルベールはラルムを【スタッカート】に移す。
鴉がラルムを見送りながらぽつりと超人ハッチャンに、
「どっこいしょってお前……」
「はは、かっこよく決めたかったのにおっちゃんみたいになっちゃった」
一方でラルク。
「イレイザーともあろうものが、そんな小手先で済ませようってか? なめんなよーっ」
と、いきなり【七曜拳】を全力で入れようとする。
すると地面の下から、
「一番槍は渡さないよ! 今度こそアルティマ・トゥーレーーーッ!!」
フィーアは何故か叫ばないとスキルが発動しない仕様らしく、【ダーインスレイヴ】で斬り上げる。
【アルティマ・トゥーレ】と一緒にローションが爆発するように持ち上がり、イレイザーの足を絡め取る。
ヴェルデは腕を組んで、
「……よし、狙い通りだぜ」
「……うそつき」
隣でエリザロッテがつぶやく。
下からの不意打ちに、イレイザーが下を向いて口に炎を含む。
「いいねえ、そういう攻め方! オラオラオラオラオラオラ」
ラルクが、隙のできたイレイザーに【七曜拳】のラッシュを叩きこむ。
とほぼ同時に昌景の、
「爆炎波っ!」
吹雪の、
「クロスファイアー!」
が、フィーアにつられて技名と共に下から炸裂。
共にローションバージョンのスキルで、触手にもローションがまとわりつく。
ゲドーが若干及び腰ながらも、【霞斬り】で触手を斬り落とす。
すぐに別の一本がゲドーの横腹を殴りつけるが、
「どわ!」
ゲドーが身体をひねると、ローションが緩衝材になってぬるんと抜けた。
「た、助かったー! 上手くいなせばノーダメージだぜ」
ヴェルデは相変わらず腕を組み、
「……計画通り!」
「……」
エリザロッテはもはや横目で見るだけ。
触手の力を生かせないイレイザーは、再度炎を口に含む。
今度はその眼前を優希の【小型飛空艇ヘリファルテ】が通過し、イレイザーの標的を撹乱し始める。
「ふう! これは未だかつてないイレイザーの接写ですね!」
飛空艇の中で達成感と共に冷汗をかく優希。
「ユーキ! あんまり無茶な近づき方すんじゃねー」
と優希を叱りながら、アレクセイが【氷術】をイレイザーの足元に放つ。
ローションで濡れているのも手伝って、イレイザーの足が氷で地面に固定される。
それを見たタンポポ。
「おいきばお。それを触手にもやりやがるです」
「きばお言うな」
アレクセイが反発しながらもタンポポの意図を察する。
アレクセイの【氷術】が、触手に絡むローションを凍らせ、動きを止めた。
「なかなかの軍師っぷりではないか」
麗華は口元に笑みを含みながら、【小型飛空艇オイレ】をイレイザーの直上に回し、飛び降りる。
落ちる勢いも使いながら、
「食らうがいい!」
と、イレイザーのまぶたに【栄光の刀】を突き立てて足場にし、【光条兵器】リンクスアイをイレイザーの右の瞳に打ち込む。
さすがのイレイザーもこれはたまらない。
雄叫びをあげて頭を振り、麗華を振り落とす。
「!」
中空を飛ぶ麗華を優希の飛空艇が受け止める。
イレイザーも1万年の封印と小さな生き物による足止めでストレスは尋常でない。
あげく右目に傷を受け、『別府』を倒した直後とま全く逆の感情を、雄叫びにしてぶちまける。
「うわぁ……こりゃ怒ったなぁ」
という、皆の解釈は正しい。
イレイザーは口から炎を時々吹きながら全身に力を込め、凍ったローションを一気に破壊したのだ。
「ち……凍ってたのはローションだけかよ……」
アレクセイは悔しそうに舌打ち。
肩に傷をつけ、片目を潰したものの、
「まずい、振り出しに戻っちまったぜ……」
ヴェルデはさすがに、頬を流れる冷汗をぬぐった。
First Previous |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
Next Last