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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

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マレーナさんと僕(1回目/全3回)

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 ■

 ……夜露死苦荘の205号。
 1人、喧騒から離れて、「馬鹿騒ぎ」を窓から眺めている者がいた。
「はぁ、全員心がけは良かったのだがなぁ……」
 オーナー探しはすでに終焉を迎えている。
 残念だ、と呟く彼こそは、何を隠そうオーナー“X”こと、国頭 武尊(くにがみ・たける)なのであった。
「オレが【S級四天王】ってこと、気づけば分かりそうなもんだったがなぁ……ドージェとの因縁もあるし、十分だろ?」
 なぁ、又吉と振り返る。
 猫井 又吉(ねこい・またきち)は、机の代わりの「丈夫な段ボール」を前に勉学に勤しんでいた。
「これからは『知』、つまり知性の時代だぜ!
 だから俺は、空京大分校に編入して、
 将来的にシャンバラ王国の官僚になって、
 そこから国会議員を目指して、
 パラ実時代に培った人脈なんかを使って、
 裏社会を牛耳ってやるぜっ!!」
「ふむよく言った」
「けれどそれには、頭のよさそうな奴の協力も必要だぜ」
「家庭教師だな。鮪にでも頼むことにしよう。
 何しろ奴も今や、『空京大分校』エリートだぜ!!」
 物質化・非物質化を使う。
「空京大学合格通知」が実体化する。
「とはいえ、オレはいつでも編入出来るんだがな。
 だからこそ、今は編入を目指す学生を全力で支援しなけりゃならねぇ」
 視点を転じて、溜め息を吐く。
「とはいえ、まずは下宿の改修だな。
 せめて女子専用トイレの設置くらいはしなくちゃな!」
 
 そこへ、信長がやってきた。
「よう、いい所に来たもんだぜ!」
「ほ、ほう。おぬしもか?」
「は? オレに? 用なのか?」
「実は、国頭武尊、もといオーナー“X”殿に、折り入って頼みがあるのだが……」
「へーえ、見抜いた奴が1人いたとはな!」
 だが、と武尊は目を意地悪く細めて。
「君達の魂胆は分かっている。
 大分校受験は遊びじゃねーんだよ!
 受験生を支援する気概のない奴に
 オーナーの座を譲るつもりは無いね!」
「だが、鮪ではない。
 オーナーになるのは、このわし。
 利害関係も一致するであろう」
 ごにょごにょと内緒話。
 そんな信長の特技は「説得」だ。
「何? 将来的に……シャンバラの政治経済の支配を目論むために?
 そのための人材を育てるため、オーナーになりたい、だと?」
「うむ、要約すると、そのようになるな?」
 じいっと卑しい目つきで、信長は武尊を見つめる。
「そちと我の仲ではないか!」
「ん、まぁ、それはそうだけどよぉ……」
 利害は一致している。目的も悪くはない。
 そうした次第で、武尊は信長にオーナー権を譲った。
 
 10万Gをせしめた武尊は、信長に鮪に家庭教師の口添えを頼むと、自身はリフォーム業者の選定にかかる。
 かくして「夜露死苦荘」のオーナー争奪戦は、あっけなく幕を閉じたのであった。
 
 新オーナー――「織田信長」に、決定!!
 
「これで、3階の名目もたったというものぞ」
 ほっほほ、と高笑いがこだまする。
 ついでじゃ、と瞳を輝かせた。
「何とも貧相で、受験生達のやる気も失せる。
 外観も、城郭的にしてしまえ!」
 とりあえず、玄関脇に小石を積み、城の土台風に造り変えるのであった。
 
 小石に、斜陽の朱が差しはじめる……。