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ありがとうの日

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ありがとうの日
ありがとうの日 ありがとうの日

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○     ○     ○


 神楽崎優子がシャンバラで預かっていた帝国兵、クリス、晴海を連れて、船の前まで歩く。
 帝国側も、龍騎士が捕縛していた捕虜達を連れて、都築少佐へと引き渡す。
「行くのか?」
 最後に、優子は晴海にそう問いかけた。
「……クリスのお兄さんが、私の後見人になってくれる、そうですから」
「そうか」
「今は何もお約束できないのですが、こちらできちんと頑張ることができたら。いつかは、別の立場からヴァイシャリーの皆の幸せにつながることを、したいと思います。私は……もうパラミタに留学している地球人ではなく、パラミタ人です。パラミタの一般人としての、自分のできることを探していきます。……今まで、本当にお世話になりました」
 晴海は優子にそう言って、深く頭を下げた後。
 従龍騎士に連れられて、エリュシオンの船に入っていった。
「晴海、元気そうでよかった」
 拘束されて連れてこられたクリスが晴海の後ろ姿を見て、そう言った。
 彼女達はまだ、会話をすることを許されていない。
「1つだけ教えていただきたいことがあります」
 後方から、晴海、クリスを見守っていたルークが、騎士団員に尋ねていく。
「彼女の罪は、エリュシオン帝国ではどれほどの罪になるのでしょうか」
「所属していた組織の全容をまだ把握していはいない。まだ何とも言えんな」
 答えたのは、副団長のルヴィルだった。
「そうですか……」
 ルークは、合流した団長のレストに目を向ける。
 彼は。
 晴海を手にいれて……契約、をして。
 クリスの恩赦を求めていくのだろうか。
「ただ、忘れないでください」
 ルークは強く、真剣な目で。低く、最後にこう言った。
「僕らは決して忘れないと……」
 その声に、クリスの背が軽く反応を示した。
 だけれど彼女は振り向くことも許されず、龍騎士団員と共にタラップを上がっていく。
「邦人の保護が済み次第、出航する」
 レストもルークには何も言わずに、船へと戻っていく。
 ルークは微動だにせず、彼女達を、彼らを見続けていた。

「お疲れさまでした」
 確認が済み、国軍に保護されたシャンバラの人々に、源 鉄心(みなもと・てっしん)とパートナー達が近づき、一人一人に声をかけていく。
「お怪我はありませんか?」
 医療道具を手に、アンジェリカは皆の体調を見て回った。
 和平が成立してからの帰還ということで、皆、さほど精神的に参ってはいないようだった。
 ただ、中には松葉づえをついている人や、風邪を引いている人、疲れを感じている人もいて。
「ご気分が優れない方は、こちらにおかけください」
 そんな人々を支えてベンチに連れてきて、グロリア達と一緒に介抱していく。
「どうぞ、冷やしてありますわ」
 鉄心のパートナーのイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)は、切ったメロンが入ったパックを差し出していく。
「このメロンは、ネットで地球から取り寄せた高級メロンですわ。ちょうど食べごろですの。きっとデリシャスですの」
 不安の残る表情をした人々に、笑顔を振りまいて、メロンを渡していく。
「……うん、美味しい」
 食べた人々の顔に、少し笑顔が戻る。
「ええ、美味しいメロンですわ。それは、冷たく冷やしたからで、こうして久しぶりの皆と一緒だからで、そして帰ってきたからですわね」
 イコナの手の中には、もう一つメロンがある。
 このメロンは一番元気のない子にあげるつもりだった。
 仲間を戦争で失った人達も、帰る場所を失った人達もいて。
 沈んだ表情をしている者も多かった。
「おかえりなさい」
 もう一人の鉄心のパートナーのティー・ティー(てぃー・てぃー)も、温かく大切に、故郷に帰ってきた人達に声をかけていく。
「ええと、大帝さんがああなのでちょっと心配なところもありますけれど……」
 少し不安気な表情をした後、すぐに微笑みに戻して。
「皆さんの働きあって、シャンバラの危機は回避されました。両国の不幸な衝突も、こうして和平という結果を迎えることが出来ました」
 はっきりとそう言って、皆に感謝の想いを伝える。
 問題全てがなくなるわけではないけれど。
 失われた人達が帰ってくるわけでも。それにより抱いたか人々の感情が氷解する訳でもない、だろうけれど。
「今日、此処に互いの寛容さが示され、和平が訪れたことを喜びましょう」
 彼女の言葉に、捕虜であった人々の顔に、ほっとした笑みが生まれる。
 彼らは頷き合い、無事を喜び合い。
 鉄心、ティー達、迎えに訪れた人々と握手をしていく。
「帰りに、温泉旅館に立ち寄ろうという話が出ています。帰還の前に体を休めてください」
 ルースが皆にそう言うと、ほっとした表情や、嬉しそうな笑みが浮かんでいく。
「ご家族への連絡も入れてあります。旅館に迎えに来てくださるかたもいるようですよ」
 言って、ルースは皆を誘導していく。
「休む人は休んで、元気のある人は、解放祝いってことで呑みましょう。都築少佐が奢ってくださるそうだから、それはもう気兼ねなく、遠慮なく」
「え゛!?」
 鉄心の発言に、都築少佐が驚きの声を上げる。
 でもその声は、皆の歓声にかき消されて、誰にも聞こえなかった。
「よーしじゃあ、チェックが済んだ人から、車に乗り込んでください。そうそう、エリュシオンの飯はどうでした? 俺はまずまずだと思うんですがね」
 鉄心は笑顔で話しかけながら、人々と一緒に車へと向かっていく。
「うーん、まあ、いいか」
 ふうとため息をつく都築少佐の顔にも、笑みに包まれていた。
「はい、どうぞ。後で食べてくださいね」
 イコナは笑顔を見せない少年に、まだ切っていない方のメロンを差し出した。
「宿にはきっと冷蔵庫がありますの。冷やして食べるとデリシャスですのよ」
 そうにこにこ微笑みかけるイコナに、「ありがとう」と、少年は淡い笑みを見せて、皆の後に続いていく。
「こっちは温泉行きな! 案内は任せてくれ」
 宿の手配を終えていたカオルが、助手席へと乗り込む。
「みんなの安全はあたしが守るから安心して!」
 ドアを開けて、マリーアが、シャンバラの仲間達を誘う。
 そして、車の中に入っていく皆に「おかえりなさい☆」と笑顔で声をかける。
 ただいま、という返事がいくつも返ってきた。
「ゆっくりしましょうね。背中、流させていただくわ。マッサージも任せて。……女性限定だけど」
 梅琳のその言葉に、男性陣が喜びの歓声を上げかけた後、ブーング。それから、また笑みが広かる。

 シャンバラに住まう人々が見守る中、エリュシオンの船が国に向けて出港していく。
 様々な想いを抱きながら、ある者は敬礼をして。
 ある者は直立不動で見送る。
 手を振って、笑顔で見送ることはできないけれど。
 次にプライベートでエリュシオンの船を迎える時には、笑顔で迎えられると契約者達は信じていた。
 今日別れた人達と、笑顔で語り合える日も来ると。