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8)夢野 久(ゆめの・ひさし)

夢野 久(ゆめの・ひさし)は、
今時珍しい、
パラ実でもどちらかというと少数派の、
真面目な不良である。
「真面目な不良」は語義矛盾だが、実際そうなのである。
久の家族、特に父が、
「お前、そろそろ目が出ないなら帰ってくる事も考えた方が良いんじゃないか?」
と連絡をよこしてきたのだ。
(何かパラ実って情報が少なくて、
頑張ってるのか燻ってるだけなのか今一分からんらしい……
だがTVに呼ばれてるの見りゃ、
それなりに順調なんだって納得してくれるだろ。多分)
そう考えての、出演だったのだが……。

こうして、不良にもかかわらず、大変親孝行な実業高校生徒が、
「トッドの部屋」にやってきた。

「こんにちは。
では、さっそく質問させていただきますね」
「おう」
久は修羅場をくぐった者の勘から、トッドさんがただ者でないことを感じ取っていた。
「久さんは、パラ実総長ということですけれど」
「ああ、前総長の推挙を受けての事だ。
蔑ろにゃ出来ねえ、筋を通せる様に何時も必死じゃあある」
気持ちを落ち着かせるため、日本茶をすすり、神妙にうなずく久に、トッドさんが続ける。
「『馬鹿』という噂が流れてますが、本当なんですか?」
「ブホッ!?」
久は、お茶を噴き出した。
「どういうふうに『馬鹿』なのか、ぜひ詳しく聞かせてくださらない?」
「更に踏み込むのかよ! あんたすげえな!?」
平然として聞くトッドさんに久が突っ込む。
「……詳しくか……そうだな……。
先ず、学がねえのは事実だ。
日本育ちだから一応最低限はあるが、勉強はからっきしだ。
だが多分、言われてるのはそれに関してだけじゃねえな」
「そうね。
『それ以前の問題』に関して伺えるかしら」
「地味にひでえな、あんた……。
まあいい。

要するに立ち回りが賢くねえって事だろ。パートナー達にも散々言われてるさ。

馬鹿な意地を張って
馬鹿な拘りを通して
馬鹿な決断をする。

まあ、馬鹿だろうさ。損得の計算がてんで出来てねえ。
自覚はある」
トッドさんが、目を丸くしてうなずく。

「けど、それで良いんだ。
計算して賢く立ち回ってよ。
そう言うの、楽しくねえんだよ。俺が。
それで成功したって満足出来ねえし、好い気にもなれねえし、
嬉しい気分にもなれねえ。俺がな」
久は、一言一言をかみしめるように言う。
「これはただの我侭だ。
だがよ、誰だって自分の我侭を通したくて強くなるんじゃねえのか?
俺は、俺の為に賢くなんかなりたくねえんだ。
だから俺は馬鹿で良い。
俺は馬鹿のまま、自分の筋を通してえ。
俺は俺の馬鹿を通す。
それで罵られるならまあしょうがねえさ。好きにしてくれや」
久は腕を組み、目を細めてソファにふんぞり返る。
現パラ実総長らしい、堂々たる答えだった。

「まあ……」
トッドさんは、感嘆したように言った。
そして立ち上がると、久の手を取る。
「久さんは格好いい馬鹿ですね!」
盛大な音を立てて、久はずっこけた。

その後、父から連絡が来たのだが、
どのような内容だったかは、久のみが知る。