|
|
リアクション
●震える海……!
そのときビーチに、ぷかりと何かが浮き上がった。
鮫の背びれだろうか。少なくともそれに酷似している。
しかもそれは、一定のリズムを刻みながら沖から陸へ迫っていたのだ……。
最初、それに気づく者はなかった。
だが、
ダーダン! ダーダン! ダ−ダンダーダン! ダダダダ!
背びれが砂地直前まで滑り込み、しかも、
「とぉおおおう!!」
奇声上げて水中からその正体が飛び出したとき、逆流する滝のように海水が噴き上がりしかもそれが空から雨の如く降り注いだので、誰もがこれに注目せざるをえなかった。
「鬼羅星!」
声の主はそのような、前代未聞の挨拶を叫んだ。
「みんなおまたせ! 天空寺鬼羅登場!!」
上陸したその姿、天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)! 誰か呼んだか? 呼んでない。待ったか? 待ってない!!
「さぁ、交流会楽しんでいるか! オレは今から楽しむ! 超楽しむぜ!!!」
後述するが現在非常事態発生中だ。エマージェンシー、エマージェンシー。
「さーそこの新顔の新入生! もっとだ、もっと熱く! 激しく!! 楽しむのだ!」
内蔵マイクでもあるのか、異様に響く声で鬼羅は説いて回るのだ。
「おーそこの他校生! どうだ? 交流は深めているか? さーオレとも深めよう!」
叫び、にじり寄りながら鬼羅はメッセージを伝えようとした。
「さぁさぁ! 生徒会長もナンパしないの? ほんっとーにしないの? 残念だな……いつまで続くか……いやなんでもないです!」
おや、と鬼羅は片眼を細めた、彼目がけ黒い服の集団が血相変えて駆けつけてくる。
だが彼は早口で続けた。
「さぁ! 女の子たち! 一緒にお話して仲良くなろう! そして時は過ぎ甘い夜の中、月が綺麗だね……とか語りあおう! さー! 食べてた食べて! 飲んで飲んで喋って笑ってオレに愛の告白とかしちゃってもいいんだぜ!」
たしかに女子は数多いが、少なくない数が鬼羅から目を逸らしている。けれど負けない。鬼羅は負けない。
「ヒュー! 水着にコスプレとか目の毒だぜ! なんていかした格好なんだ!
いい! いいぜ! 目のやり場に困るぜ!」
なお現在、女子たちが目のやり場に困っているのは、彼が言うのとはまったく違う理由と推測される。
水着女子陣めがけ灯台のように、ギラギラギラギラーっと回転光線でも出るのかというガン見を鬼羅は行う。彼の視線の届くところには、すべからく混沌が巻き起こりそうな予感。
「速やかに撃退しなさい!」
茅野茉莉の指令のもと、風紀委員をはじめとする正義の士が次々猛然と追ってきた。
「オラオラ! 楽しい楽しいイベントで好き勝手するやつは、あたしがしばいちゃうぞー!」
その中にはエヴァ・ヴォルテールの姿が、「お仕事だな」という桐ヶ谷煉とともにあり、
「なんと破廉恥な! 即退治じゃ!」
イスカ・アレクサンドロスがおり、
「遠慮なく発砲する!」
エアーガンを抜いた月谷要と、木刀を抜いた霧島悠美香があり、
「警戒しておくべきだった……!」
ロシアンカフェからはあさにゃんがアイビス・エメラルドと一緒に飛びだし、
「ここまで本気のアホが出現するなんて思ってなかったわ!」
ヴェルディー作曲レクイエムも駆け、
「たっ、対応するよ! なんとかするっ!」
という水鏡和葉と、
「だからそっちは反対方向だってー!」
和葉の方角を正しながらルアーク・ライアーも即行動しているのが見えた。
だがそれを見ても鬼羅は畏れない、ぴょんぴょん飛んで逃げながら叫んだ。
「そしてBBQ! そしてそこのグラマラスな子はBQB(ボンキュッボン)!
おいしそうだ!!!!」
二重の意味で! と彼は絶叫するのも忘れなかった。
「さぁさぁもっと! もっと盛り上がろうぜ! 楽しもうぜ!!! オレもみんなと仲良く楽しくなるために全力で暴れさせてもらうぜ!」
上陸した台風か、まさしくやりたい放題な鬼羅である。
だがもう完全に包囲され、しかもその輪が狭まっている。万事休すか!?
「あーっはっはっはっはっは!!」
なぜ彼がここまで追われるか、その理由を書いておこう。
全裸。
以上!
「見ないわ! 絶対に、見ないんだからっ!」
絶対『それ』を見ないよう目を逸らしながら、乙女放つよ鳳凰拳。これは急遽追っ手に加わった董 蓮華(ただす・れんげ)のものであった。これをまともに、それこそ顎の形が変わるくらいの勢いで鬼羅は受けて砂地に叩きつけられた。ずさあああっ、っと砂が砂漠の嵐のように舞い散った。
そこから次々と風紀委員たちの『処置』がほどこされ、ほどなくして鬼羅はタオルでくるまれた状態で退場していったのである。
恐らくこの後、レオ発案による地獄の刑罰……参加者全員によるくすぐり倒しが待っていることだろう。