校長室
そんな、一日。~某月某日~
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2035年12月24日 神条 和麻(しんじょう・かずま)が一人旅を始めて、もう何年が経っただろうか。時折、以前道を共にした仲間たちのことを思い出しては懐かしい気持ちになる。 たまには様子を見に行くか、と思い立ち家を出た理由はそれだけではない。今日、十二月二十四日はかつてのパートナー、マリアベル・アウローラ(まりあべる・あうろーら)の誕生日なのだ。様子を見るついでに祝ってやろうと考えてのことだった。 彼女が喜びそうなものをプレゼントにでもしようかといくつか案を出してみたが、なんとなくそれも不自然な気がしてケーキ一つを手土産に、マリアベルの家までの道を辿る。 彼女は、自分の人生の答えを探して和麻と契約した。 けれど結局、契約していた間に答えが見つかったのかはわからなかった。だから、気がかりでもあった。 マリアは答えを見つけることが出来たのだろうか? 珍しい来客に首を傾げドアを開けたマリアベルは、ドアの向こうに立っていた人を見てさらに驚くはめになった。 「和麻……」 「久しぶり」 数年の空白なんて事も無げに、和麻はひょうひょうと言って部屋に入る。 何かあったんですか、とマリアベルが口を開くより先に、「誕生日おめでとう」とケーキを並べられた。ああそうか、今日は、そうか。 「……、覚えていたんですね」 「パートナーだしな」 なんとなく、繋ぐ言葉が思いつかなくなって黙り、椅子に座った。正面に、和麻が座る。ほら、とプラスチックのフォークを渡され、促されるままケーキを一口食べた。甘くて、美味しい。 「今まで何を?」 「まあ、色々。前みたいに、旅を」 「そうですか」 「マリアは?」 「私も、前と変わりはしません」 ぽつり、ぽつりと言葉を交わす。 そのうち、和麻が何をしにきたのかがうっすらと読み取れた。 この人は、私を気にかけて来たんだ、と。 マリアベルは、神条和麻という人間が嫌いだった。自分に境遇が似すぎていたからだ。 けれど、彼は過去を乗り越えた。だけど、マリアベルは過去を引きずった。 私と彼では何が違っていたのだろうか。 彼が家族に愛されていたから? それは理由にならない。加えて、だとしたら両親が亡くなった時いっそう引きずりそうなものだ。 違うんだ。 和麻は気付いていた。自分を愛し、想ってくれている人たちがどこかに必ずいることを。 それは――マリアベルだって、同じだということを。 「…………」 「どうかしたか? こっち、じっと見て」 「いえ。何も」 とはいえ。 マリアベルは、今でも和麻のことが嫌いだ。 「何年経っても好きになれませんね、と思って」 「おい……」 「ですが……」 こんな日に、わざわざ、訪ねてきてくれたことに礼を言うぐらいはいいだろう。 和麻に聞かれるのも癪だったので、ほんの小さく、本当に小さな声でマリアベルは呟いた。 「……ありがとう」