校長室
そんな、一日。~某月某日~
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20??年??月??日 あれから、十数年が経った。 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は当時付き合っていたルカルカと交際を深め、折を見て結婚、子供にも恵まれ、充足した日々を送っている。 相変わらずの傭兵稼業で、パラミタや地球、戦場から戦場へと渡り続ける毎日だが、そのような日常に身を置くせいか、今日のような休みは本当に幸せなものに思える。 うららかな陽の降り注ぐ縁側に座り、コーヒーを飲み、庭で遊ぶ子供や仲間を眺める。 このひと時が続けばいいと、心から思った。 真一郎がのんびりと休日を満喫しているその目の前で――。 「そーいえば、どーしてみんな結婚しないの?」 と言ったのは、真一郎の子供と遊んでいた松本 可奈(まつもと・かな)だった。 どうして? とばかりに、姜 維(きょう・い)と鷹村 弧狼丸(たかむら・ころうまる)が顔を見合わせる。一方で可奈は、息子の両手を握って「ばんざーい」と遊びを続行している。 「そういう可奈こそどうなのですか」 姜維に返され、可奈は「私は彼氏募集中だよ」と答えた。可奈は、真一郎の設立した傭兵部隊最古参として活動する傍ら、しっかり『彼氏募集中!』というアピールもし、その甲斐あってお付き合いにまで至ったことも何度かある。 「でもねー、なぜかみんな私が料理振る舞うと別れてくれって頭下げるんだよね。なんでだろうね」 風邪を引いたらお粥を作りに行ってあげるような優しい彼女だったはずなのに、と呟くと、 「可奈アネキの料理が奇抜だからじゃねェの」 「栄養剤でご飯を炊くのはちょっといただけませんからね……」 と二人が言った。それの何が悪いのだろう。栄養剤は疲れている時に飲むものなんだから、適材適所というものではないか。 不思議そうな顔をしている真一郎の息子に、なんでだろうねー、と首を傾げる。同じような仕草を返してくるところが愛おしい。 「いっそ真一郎の子供を育て上げて光源氏計画でもやってみようかな」 「お母上がお怒りになられますよ」 「なるかな? 案外笑い飛ばすかも」 「そりゃ楽観的ってモンだ」 「で、弧狼丸はなんで結婚しないの」 「あ? んなこと考えたこともねェや」 弧狼丸は、あっけらかんと言い放つ。 「兄貴よりイカス野郎が居たら考えてもいいけど、そんな奴居ねェし」 「そう、そこなんですよね」 同意したのは姜維だ。うんうんと深く頷いている。 「兄者より良い漢が居ないのです。だから、結婚は必要無いのですよ」 「なるほどー」 そう言われれば、可奈も納得するしかない。何せ可奈だって、彼氏募集中と銘打っておきながらも真一郎より良い男でなければ嫌だという気持ちも強い。別れてと言われてあっさり応じるのは、そういう気持ちがあってのことだろう。 「じゃー結局、この三人はずーっとこの家にいそうだね」 「それも悪くねェや」 「世間体は悪いかもしれませんけどね」 「なんぼのもんだって、そんなもん」 まあ、確かに、と可奈は再び頷いた。こうして、真一郎が帰ってくる家にみんな揃って待っていて、休日はこんな風にまったりと過ごして。 「これが幸せってことだよね」 これ以上も、これ以外も想像がつかない。 ずっとこうしていたいと、みんなの気持ちがひとつになった。