薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

リアクション公開中!

終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア 終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

リアクション


●翠のハイスクールライフ!!

 2030年、春。
 及川 翠(おいかわ・みどり)に訪れた最大の変化は、百合園女学院の高等部に無事進学できたということだ。
 まだ幼さ残る中学部から高等部に羽化を遂げ、彼女もすっかり落ち着いた……なんてはずもなかった。
 根本的なところは変わっていないと断言しよう。いや、正しくは変わったのは所属ぐらいで、それ以外は翠は丸っきり、何一つ変わっていない。
 相も変わらず好奇心旺盛で探検大好き、変態は吹っ飛ばす信条とのことだ。
 それでいいのだ。そうでないと翠っぽくない、そう断言してしまおう。
「今日も百合園女学院高等部はいつも通り授業の日なの。というわけで、行ってきま〜す!」
 今朝もきちんと学校に行った彼女であるが、当然、授業だけ受けてまっすぐ帰ってくるつもりなどなかった。放課後になるなり、
「さて、今日は学校のどこを探検してみようかなぁ?」
 と好奇心に目を光らせながら、教室を飛び出して行くのだった。
 徳永 瑠璃(とくなが・るり)は油断をしていた。
 まさか授業終了のベルが鳴るなり、翠がロケット弾の如く教室から駆けだしていくとは思ってもみなかったためである。
「はぁ……今日は無事翠さんを制御できるのかしら……」
 などと溜息ついて翠の教室まで彼女を迎えに行ってみたら、時すでに遅し、翠の姿はかき消すようにしていなくなっているではないか。
 一年生にもかかわらず瑠璃は、二年生の翠を制御する側なのである。翠をすばやく迎えに行き、さっと回収して自宅まで連行(という名の強制帰宅)するのが彼女の役割なのだ。
 しかし今日はどうも、早々にして失敗した模様だ。
「って翠さん、どこ行ったの!?」
 いわゆるお嬢様学校ゆえ、この百合園に、そうそう探検するところもなかろうに……というのは素人考え、翠のように好奇心と行動力さえあれば、どんな場所であろうとも冒険の舞台になるのだ。これは今日も、探すのに骨が折れそうである。
「まったく……私ともあろうものがこの体たらく……最近はミリアさんたちを呼ぶことも減ってきたから気が緩んでたのかしら……?」
 瑠璃のほうは翠と比べると成長度合いが高い。背は伸びたし顔立ちもいささか、大人っぽさを増したようだった。加えて口調も、基本は一般的な女性のものへと変化していた。
「もうっ、油断も隙もないんだからっ!」
 と声を上げたところで、瑠璃ははっとなった。
 翠のクラスメイトたちが、「大変ですね」と言わんばかりの温かい目で自分を見守っているということに気がついたのだ。
「し、失礼しましたー!」
 瑠璃はうわずった口調でしどろもどろ、そう言って翠を求め廊下にすっ飛んでいった。

 ヴァイシャリーの街角にある一軒のペットショップ、その名も『ペットショップ・うさぎのいえ』は、わたげうさぎに特化した店だ。
 もちろんわたげうさぎだけを取り扱っているわけではない。もふりすや、一般的な犬猫その他もふもふを揃えているのだが、わたげうさぎについては、うさぎそのもののみならず、ペットフードから住居から運動器具にオモチャまで、ありとあらゆるものを揃えている。その道にかけては右に出るものなき店なのである。
 この店を経営するのが翠のパートナーふたり、ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)スノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)だった。
「もふもふさんたち、今日もたくさん、新しい飼い主さんのところへ行ったね」
 午後の忙しさのピークを終え、ミリアは腰を下ろして一段落した。
「はい〜。みんな、可愛がってもらえたら嬉しいのですぅ〜」
 そのすぐそばにスノゥが腰を下ろす。そうしてスノゥは、ぽんとミリアの膝に手を置いた。
「今日は瑠璃ちゃん、無事に翠ちゃんを連れて帰れますかねぇ〜」
 その手を握って、
「だといいけどねー」
 とミリアは微笑んだのだが、その淡い希望はたちまち粉砕の憂き目に遭った。
 瑠璃から連絡が入ったのである。
「はぁ、今日はダメだったのね……」
 せっかくこれからスノゥと、ふたりっきりの時間を過ごす予定だったのだ。ちょっと、いや、かなり残念である。
 でもスノゥは、
「一緒のクラスじゃないですからねぇ〜、仕方ないですよぉ〜」
 と言って、ミリアをうながして立たせた。
「それでは今日も、翠ちゃんの捕獲作戦に行きましょう〜」
「仕方ない。そうするか」
 翠は自重という言葉を知らないので、捕獲するのは容易ではない。
 だからといって派手な召還術や武器は使えない。場所が学校だからだ。
 それでも翠の暴走を許すわけにもいかない。
 難しいところである……。

 いつの間にか翠の『探検』は、瑠璃からの『逃走劇』へと姿を変えている。
 瑠璃の鼻先をかすめて脇道に逃げ込んだり、裏をかいて背後から出現「こっちこっちー♪」と笑ったりしている。そのたび一生懸命追ってくる瑠璃を見るのは……ちょっと申し訳ないがとっても楽しかった。
「さあて次はどうやって驚かそうかな……?」
 と、足を止めた彼女の前に、
「洞窟!?」
 なんと洞窟の入口がぽっかりと口を開けていた。
 見まちがいではない。廊下の途中に、謎めいた岩場があり洞窟ができていたのである。
「これぞ百合園ミステリー!? これは是非入ってみる必要があるね!」
 というわけで、ポーン。
 翠は洞窟に駈け込んだ。
 そして、ぱさーっ。
 洞窟風のハリボテの入口にしかけられたネットにつかまり、あっさり御用とあいなったのである。
「あっ、ミリア!」
「はい、一丁上がりね」
「今日は割とスピード捕獲でしたねぇ〜」
 スノゥもいて、くすくすと笑っている。
「ミリアさん、スノゥさん……!」
 助かりました、と肩で息をして、瑠璃がここまでたどり着いた。
「くー、どうしていつもつかまっちゃうのかなぁ……」
 ネットに入ったまま、翠は唇を尖らせていた。
「さて、なぜでしょうねぇ〜」
 とスノゥが言うと、ミリアも瑠璃も声を合わせて笑った。
 そもそも翠には発信器が取り付けられており、スノゥのハンドヘルドコンピュータに位置情報が表示されているから……という種明かしは、しない。
 そんなこんなで今日も、楽しく騒がしく幸せな、彼女たちなのである。