校長室
冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)
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幕間劇 旅の恥はかきすて(2) 前略、シルヴィオさんへ 俺は今、ナラカエクスプレスの車窓から、煮えたぎるマグマのような風景とチャンドラマハルとかいう 王子様が住んでいそうな建物を眺めています。 そういえば、このまえ墓地で拾ったデスプルーフリングというアイテムを身に着けていると ナラカでも普通に行動ができるみたいです。 何個か拾ったので、重ねづけしてみたけどあんまり意味はないようです。 このナラカの旅から帰ったら、土産話をしますね。 草々 追伸 お土産はナラカまんじゅうと、ナラカせんべいのどちらが好きですか? そんなメールを送ったら、速攻当のシルヴィオさんに呼び出されて、デスプルーフリングを届ける羽目になった。 チャンドラマハルに向かう彼らを見送り、万年ピーカン少年甲斐 英虎(かい・ひでとら)は観光に戻った。 「いやー、まさかシルヴィオさんもこっちに着てたなんて世間はせまいねー」 「ええ、本当に。あたし達でもお力になれて良かったですわ」 パートナーの甲斐 ユキノ(かい・ゆきの)が言う。 「あちらはシルヴィオさんに任せて、私たちは私たちの出来ることをいたしましょう」 「そうだなー。気になることがたくさんあるもんなー。例えばこれとか」 携帯の画面に撮影したナラカエクスプレスを映し出す。 「ナラカエクスプレスですか?」 「うん。だってどういう原理で動いてるのかナゾ過ぎだろ、これー。聞いた話だと。動力室も操縦室も立ち入り厳禁らしいし。うーん、やっぱり魔列車と同じで機晶石なのかも。だったらポータラカの技術が関わってるのかなぁ……」 「弊社は既に建造されたものを使用しているだけでございますから、技術的なことはよくわかりません」 声が聞こえていたのだろう、トリニティが答えた。 「そっかぁ……」 うむむ、と英虎は唸る。 ふと、引っ込み思案なユキノが彼の背中から顔を出し、おずおずとトリニティに尋ねる。 「あの、もしかして……、トリニティ様は剣の花嫁ではございませんか?」 「私がですか?」 「え、ええ……、そちらの銃はもしかして光条兵器なのではないですか?」 そう言うと、トリニティはホルダーから引き抜いたピンク色のリボルバーをくるくると回した。 「これは光条兵器ではございません。ナラカに現存する伝説の武器の一つでございます」 「へぇ、パッと見はゲーセンのガンシューティングに付いてる奴みたいだけどなー」 「人も物も見かけだけでは判断出来ないものでございますよ」 玩具っぽいリボルバーをしげしげと見つめる英虎に、トリニティは不敵な微笑みを見せる。 「……それはそうとして、ちょっ小腹が空いてきたかも。ここはカレーが有名って話だけど、『バクシーシ』のほうれん草カレーはお持ち帰りオッケーなのかなー。あ、でも、同じカレーならチキンカレーのほうがいいかなー」 「チキンカレーでしたら、取り分けバターチキンとなる濃厚なバターが入った物がオススメでございます」 「ええー、そんなんあるの? どうしようかなー、ちょっと行ってこようかなー」 ◇◇◇ 「トリニティさん! この間のnaracaの件でお話があるッス!」 案内を続けるトリニティに、今度は兎野 ミミ(うさぎの・みみ)が声をかけた。 兎のゆる族ながら熊の着ぐるみを着ていると言う珍妙怪奇なゆる族である。 彼女は前回『ナラカエクスプレスを盛り上げる会議』において、ICカードの導入を提案して好評を得ている。 『マァデモ、他ノ路線ト相互利用デキルノナラ便利ヨネ』 「それで、こういうお土産屋さんでも使えるともっと便利!」 橘 カナ(たちばな・かな)とその右手に居座る謎の市松人形『福ちゃん』が言った。 『naracaガ出来タラ、ますこっときゃらくたーガ必要ヨネ』 「それで、そのキャラクターの商品もこのお店に並べて……」 『アタシガもでるニナッテアゲナイコトモナイワヨ』 「もー、福ちゃんのツンデレさん☆」 そんな二人の……いや、一人のやり取りを見つつ、トリニティはふむむ……と唸る。 「なるほど……、呪いの市松人形ですか。不気味な風貌がナラカのイメージとマッチしそうでございますね」 『……ッテ、誰ガ呪ワレタならか顔ナノヨ!』 穢れたナラカの障気のおかげか、福ちゃんの突っ込みも冴え渡る。 『障気デ活性化シナイワヨッ!』 ぜーぜーと息を切らしつつ、福ちゃんはnaracaに話題を戻す。 『ソレハトモカク………、ドウセヤルナラ、3日ニ1回ハ何カノ記念日ニシテ、限定かーどヲ出シタイワネ』 「そうね、やっぱり女の子は記念日を大事にしないとねー」 『ネー』 「ははぁ……、記念日ですか……。サラダ記念日とかでも大丈夫なのでしょうか……?」 夢は膨らむばかりである。 だがしかし、設置のためにはまず利用者がほとんどいないと言う悲劇的状況を改善しなくてはならないだろう。 ICカードもICカードを読み取る機械もICカードにチャージする機械も……、設置するお金なんてないんだから。 「……それで思ったんスけど、ナラカの人たちは鉄道は使わないんスか?」 ふと、ミミが訊いた。 「はぁ。なにぶん菩提樹と都市を行き来するだけの環状線ですから……」 ジメジメした湿地帯の真ん中にポツネンと立つ菩提樹のイメージが頭の中を通り抜ける。 「……確かに用もないのにあんなとこに行く人はいなさそうッスね」 「こうなったら、地球かパラミタでたくさん死んで頂いて故人に会うツアーでも企画するしかなさそうです」 「そ、それはマズイっス! 完全にテロリストの発想ッス!」 とは言え、今回の救出ツアー……もとい、特別運行が終わってしまったら、客足が途絶えてしまいそうである。 「やっぱり地域活性化ッスよねぇ。観光地としての訴求力が必要ッス。百貨店の駅弁大会に出してみるのもいいかもしれないッス。特産物も都会にアンテナショップを出したりして、もっとナラカをアピールアピールッス!」 目指すは某県知事。 「ふむふむ……、それはなかなか面白いことになりそうでございますね」 トリニティもなにやら触発されているようだ。