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冥界急行ナラカエクスプレス(第3回/全3回)

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第5章 チャンドラマハルの死闘【紅蓮編】(5)



「御託はいい、来るなら来い」
 その言葉をのろしに、ルミーナを取り戻すための最後の戦いの幕が上がった。
 先陣を切って走るのは風祭隼人。精神集中、ミラージュを放ち、自分の幻影を無数に発現させる。
「見えるもんなら見てみろ……、俺の魂が巻き起こすその軌跡をな……!」
「流石にオレも幻の行く末は見えん……、しかし小僧、幻では敵の首はとれんぞ」
「それはどうでしょうか……?」
 ホウ統士元が言った。
 眉を寄せるガルーダに幻影が襲いかかる。ひらりと回避すると何か実体のあるものが身をかすめた。
「実体のある幻影だと……!?」
「そんなものはありません。正面からぶつけても大した戦力にはなりませんが……、こういう使い方もあるのです」
 幻影を蓑に動くのは武者人形だ。
 単体では戦力とは呼べない彼らも、こうして幻影になりすますことで、強敵をも牽制することが出来る。
 言ってみればこれは詰め将棋、数手先を読めるガルーダを如何にして追いつめるかが重要だ。
「これで一つ歩を進めました……、あとは任せて宜しいですか、仮面ツァンダーくん!」
「無論っ!」
 傷付いた片足を引きずりながらも、仮面ツァンダーはライトブレードを振り回し斬り掛かる。
「大を救う為に小を犠牲にする……、その覚悟くらいはとっくにしてきた! ルミーナさんだって、自分の身体で皆を傷つけるくらいなら、自分の命を犠牲にするはずだ、きっと……。その心だけでも我が通してみせるっ!」
「ふん、手負いの小僧がオレの前に立とうなぞ片腹痛い」
 闇を斬り裂く閃光の太刀を全てかわされた仮面ツァンダーはおもむろにライトブレードを放棄。
 格闘戦の構えを取る。練気の呼吸で肉体を活性化……、そして遠当ての要領で至近距離から爆炎波を繰り出す。
「一度この身で受けた技、威力までは再現出来ないが……、その身で受けるがいい、業火奈落掌ッ!」
 叩き上げた掌底が爆炎を生みガルーダを飲み込む。
 だが、ここで仮面ツァンダーは大きなミスをしている。
 天眼で見切られていたとか、見よう見まねの奈落掌の完成度が低いとか、そう言う問題ではない。
 そもそも、炎熱属性の攻撃はガルーダには何ら通用しないのである。
 直撃した炎を我が身を包む紫炎で取り込む。
「器用な小僧だが……、それも通用しなければ無意味だ」
 灼熱する手刀で仮面ツァンダーの肩を貫く。
「うわああああああっ!!」
 身につけたファイヤーリングやフレイムジャンバーは、ガルーダの放つ熱風や炎からは守ってくれた。
 しかし、直接肩を突き刺し、そこに流し込まれる業火にはどうすることも出来ない。
 それでも、仮面ツァンダーは気合いでガルーダにしがみつく。
「ティ……、ティア……」
「た、巽……」
 はっと息を飲んで、ティアは駆け出した。手にする武器は光条兵器の十握剣、狙うは心臓。
 彼女もまた優斗同様に光条兵器の特性を使って、ガルーダに死のビジョンを見せようと企んでいた。
 しかしながら、仮面ツァンダーの拘束はガルーダを縛るにはあまりに頼りなかった。
「きゃあ!」
 銀の仮面のヒーローを腕の一振りで払うと、熱風を放射してティアを吹き飛ばす。
「一人消した。これで進めた歩も元に戻ったと言うわけだ」
「いや違う……、ティアは進めてくれた、我と言う駒をな……! チェンジ轟雷ハンド!!」
「き、貴様……!?」
 相棒の作ったわずかな隙に、仮面ツァンダーは最後の気力を振り絞り、轟く青い稲妻を拳に宿す。
 轟雷閃を持って……、業火奈落掌の改訂版……、今必殺の一撃を解き放つ。
「正真正銘これが最後の一撃! 晴天霹靂掌ッ!!」
 ガルーダの胸に叩き込まれた必殺拳。閃光がその身を貫き、稲妻が天に遡るように高く押し上げる。
「うおおおおおっ!!」
「い、今だ……、隼人さん……!」
「最高の一撃だぜ、ツァンダー……! この機を逃したら男じゃねぇ!! やってやるぜ!!」
 隼人とホウ統はサイコキネシスを放ち、空中にガルーダの身体をピタリと貼付ける。
 電撃と衝撃に胸を砕かれ、ガルーダは凄まじい形相で血を吐き出す。
「が、がは……! お、おのれ……!」
「俺たちのところに帰ってきてくれ! ルミーナさん!」
 バーストダッシュで天高く舞い上がった隼人は白光する銃剣を振りかぶる。
「ぐ……!」
 ガルーダの表情が変わった。
 その目にどんな未来が見えたのかは定かではない。
 しかし、憤怒、憎悪、恐怖、不安……、様々な感情がそこに見てとれる。
 不意にガルーダの姿がぼやけて、ルミーナの上に誰かの像が二重に重なって見えた。


 ◇◇◇


 その時だった。
 突然、衝撃を受けて隼人は吹き飛ばされた。ガルーダも吹き飛ばされた。
 瓦礫の山に叩き付けられた隼人は呻きながらも身を起こす。
 すると、言い知れぬ悪寒に襲われた。この世のものとは思えない……、いやこの世ならざる殺意が周囲を覆った。
「ようやく会えたな、ガルーダ」
 瓦礫の上を浮遊する巨大な姿、ガネーシャ・マハラシュトラがとうとうここに到着した。
「が、ガネーシャ……、解放されていたのか……、うっ……」
 サイコキネシスで胸ぐらを掴むと、ガルーダを宙空に吊るし上げる。
「余への狼藉、断じて許せるものではない。この場でこの手で極刑に処す。再び悠久の眠りに就くがいい」
「ま、待ってくれ! まだルミーナさんの身体が……!」
 狼狽する隼人をガネーシャは念動力で吹き飛ばす。
「王に意見するでない」
 その時、くっくっく……と小さく……しかしだんだんと大きくガルーダは笑った。
「気でも触れたか?」
「いや……、よもやここまでこのオレが追いつめられるとは予想だにしなかったのでな。天眼の力に慢心していたようだ。たかが虫けらと思っていたが現世の連中もやる。己の限界を知る良い経験となった……、オレはまだ強くなれる」
「何を言っている、貴様に次などない」
「そうか。貴様には見えんのだな、ガネーシャ。オレには見えるぞ、オレは今ここで消える運命にない」
 血まみれの手で携帯を取り出し、どこかに連絡を取る。
「転送しろ」
 刹那、ガルーダの姿が消えた。
 電波塔は破壊されたが、ガルーダの借りる肉体はルミーナのもの。
 どこにいても圏外とならない特殊な能力を持つルミーナの身体なのである。
「る、ルミーナさん……、くそ……!」
 脱力した隼人は地面に手を突き、おもむろに地面を殴りつけた。行き場のない怒りをぶつけるように。
 長い戦いになる。そんな予感があった。