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パラ実占領計画(最終回)

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パラ実占領計画(最終回)

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 邦彦がはなった機晶犬は大和田の気をそらし、ネルは一撃を与えることができたが、しかし決定打にはならなかった。
 そんな時、共闘者が現れた。
 赤黒いボンデージのレザーアーマーとなって主を守るラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)と、その主の牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)だ。
「こんにちは、私は牛皮消アルコリア。どこにでもいるか弱いスイーツ百合園生です。一緒にリリヤン編みでも嗜みませんか?」
 腰に差した刀の柄に手を添え、抜刀の構えをする姿が丁寧な挨拶を裏切っていた。
 大和田はそれを短く笑う。
 馬鹿にした色はなく、純粋におかしなものを前にした時の笑いだ。
 アルコリアはそれを挨拶の返事と受け取り、ドラゴンアーツで増した力で抜刀術で大和田を真っ二つにしようとした。
 それは彼のドスに防がれたが、アルコリアは引くことなく斬撃を返す。
 それもいなされて踏み込んできた大和田に反撃をされるが、アルコリアは海神の刀で冷静に受け止めた。
 大和田からの刺すような殺気に、思わずうっとりとした微笑みが浮かんでしまう。
 お互い押し返すように間合いを取った後、アルコリアは姿勢をゆるくして毛先を指でくるりと絡め取った。
 今の攻防はほんの遊びだった、と表情が語っている。
 大和田も顔色一つ変えずに肩を回す。
 ふと、張り詰めた雰囲気を一転して纏ったアルコリアは、再度、抜刀の構えをとった。
 大和田の周りの空気も厳しくなる。
「……参ります」
 大きく踏み込んだアルコリアの手元に白光が煌く。
 閃光のような刃の軌跡にドスの鈍色が沿い、金属同士がこすれる耳障りが音が響き、そこから火花が散る。
 アルコリアは素早くもう片方の手を柄にかけると、振り下ろす勢いでソニックブレードを仕掛けた。
 腕を盾にしてそれを防いだ時、アルコリアの手が感じたのは肉を断つ感触ではなく、鉄に刃を打ちつけたような硬さだった。
 おや、とわずかに瞠目したアルコリアの体は、大和田から繰り出された蹴りに飛ばされる。
 倒れることなく地を滑って持ちこたえたが、胸に鈍い痛みが走った。
 大和田からは小さな呻き声がもれる。刀を受け止めた腕をさすっている。
 ラズンが感心の声をあげた。
「大和田道玄、あなたは神なの? 龍騎士セリヌンティウスの首を落としたその太刀さばき。どこでそれだけ強くなったの?」
 長い時間をかけたのか、それともアルコリアのように急速に力をつけたのか。
「ガキの頃から神社やその縁の地で屋台を出してやしてねぇ。神との付き合い方は心得ているんでさぁ」
「……意味がわからないよ」
 大和田がラズンにそれ以上答えることはなかった。
 言葉で語り尽くせるものではないのかもしれない。
 アルコリアはというと、三度目の正直になるよう、自分の中で切り札としてとっておいたものを出そうと決めていた。
「もう一勝負、どうですか?」
「お前さんはよくわからねぇ奴だな」
 忠誠を尽くす者のために戦う大和田は、戦いそのものを求めるアルコリアは理解に苦しむ存在だった。
 けれど、その勝負を受けた。
 腰を落とし三度目の抜刀の姿勢をとるアルコリア。
 切っ先の来る先を見極めようと構える大和田。
 アルコリアは二回のやり取りから、相手がどう動くか考えた。
 何パターンかのシミュレーションの後、一つを選び、それに賭けて一撃を放つ。
 予想通りドスで受け止めた大和田は、今度はグッと踏み込みアルコリアに肉迫した。
 避ける暇はない。当然防ぐ暇も。
 アルコリアのソニックブレードが勝つか、神の首も飛ばした大和田の腕が勝つか。
 二人分の鮮血が散った。

卍卍卍


 走り続けた良雄達の前に、ようやくロケット打ち上げ場が見えた時、彼らの前方に白津 竜造(しらつ・りゅうぞう)の小型飛空艇が降り立った。
 レンと二人、行く手を阻む。
 また出たっス、と焦る良雄を一瞥した竜造は気になっていたことをレンに聞いた。
「前にお前が言ってた『あいつ』って、人工衛星の奴か?」
 良雄と会った時に叫んだ台詞の中にあったものだ。
 ”結局俺はあいつの足元にも及ばないのか”と言った時の。
 レンは苦い表情をすると、違うと吐き捨てるように答えた。
「……アスコルドだ」
「へえ?」
 特に答えが来ることは期待していなかったが、返ってきたその内容に竜造は目を丸くした。
「じゃあ、お前は百合園のあいつときょうだいか。……うん? それなら何で英霊がパートナーなんだ?」
 百合園のあいつ、アイリス・ブルーエアリアルのパートナーは地球人の高原瀬蓮だ。
「俺の体は魔術的に地球化されている。だから英霊とも契約できる。親父の持つ強運にも恵まれている……それなのに、あいつら……ッ」
 お前ではこれからの戦いに立ち向かうのは無理だ、とはっきり言ってくれたのだ。
 そうして彷徨っていたところを蓮田組組長に拾われたのだった。
 高崎悠司が指摘したことは、ある意味当たっていたということになる。
「そうか。ま、てめぇがどんな事情を抱えてようと、俺はこの喧嘩に最後まで付き合うぜ。ミゲルも来たことだし、とりあえず良雄を潰すか」
「ひぇぇええ! 潰されたくないっス!」
 レンの事情に思わず聞き入っていた良雄だったが、後ろから追いかけてきていたミゲル・デ・セルバンテスとハスターの一団に悲鳴をあげた。
 挟み撃ちにされる、と良雄達に緊張が走った時。
「待てェーい!」
 ほど近い岩場の上から乱闘を制止する声が響いてきた。
 ハスターも良雄達も思わずそちらを見ると、方天戟を担いだ典韋 オ來が見下ろしてきていた。
 その横には曹操がいる。
 横山ミツエ(よこやま・みつえ)に頼んで借りてきたのだ。
 ちょうど退屈していた曹操は、典韋の誘いにあっさりついて来た。
「久しぶりにお前と暴れるのも悪くない」
 とか何とか言って。
 典韋はフォースフィールドを展開すると、方天戟を頭上でぐるりと振り回し気迫のこもった声と共に一直線に駆け下りた。
「邪魔する者は斬る! 曹操様のお通りだ!」
 曹操だと、とハスターがざわめく。
「典韋、思う存分やるぞ!」
 典韋の後に槍を抱えた曹操も続く。
 応、と答えた典韋は良雄達に叫んだ。
「おまえ達は先に行け!」
 二人の後から小型飛空艇ヴォルケーノや他数名が続き、ハスターとレンの視界から良雄達を隠す。
 ロケット組は一瞬の戸惑いを見せたが、すぐに良雄を引っ張って打ち上げ場へと走り出した。
 ハスターから飛んできた火の玉や氷の礫を、典韋の方天戟が弾き飛ばす。
 その横では曹操が槍で数人を薙ぎ払っていた。
 ヴォルケーノにはローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)が乗り、ハスターの中に混じっている黒スーツの塊を狙ってミサイルを発射させている。
 気づかれた何発かはヤクザの持つ刃物に両断されたが、手が回らなかった分は着弾し周りを巻き込んで爆煙をあげた。
 ヤクザを減らすのもそうだが、ローザマリアのもう一つの狙いはミゲルを孤立させることだった。
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)に一騎打ちをさせたかったのだ。
「はわ……ミサイル、なくなったよ」
「降りるわよ」
 エリシュカの知らせにローザマリアは離れたところにヴォルケーノを着陸させると、典韋達と共に突撃した熾月瑛菜アテナ・リネアのもとへ向かった。
 乱闘の場に踏み込むなりローザマリアは光学迷彩を使って一気に駆け抜ける。
 そして、瑛菜の鋭い鞭に打たれてよろめいたハスターを、帯電させた怪力の籠手で殴り倒した。
 ローザマリアの姿が見えないため、突然昏倒したように見えた敵二人に瑛菜は怪訝な顔をする。
 小走りに近づいたローザマリアは、瑛菜の傍で光学迷彩を解いた。
「ローザ!」
 目をまん丸にする瑛菜に、ローザマリアの口元に笑みがこぼれる。
 彼女は大げさにため息をついてみせた。
「まったく──遠い、それでいて障害だらけのメジャーデビューへの道よね。でも、そのほうがやり甲斐があるってものだわ」
「うんうん、その通り! ロケット打ち上げ場でライブなんてするの、あたし達が初めてだよ、きっと。宇宙でライブやるって言ってる人もいるから、これは凄いことだよ」
「成功させなきゃねっ」
 ローザマリアは、種モミの塔にパラ実軽音部の部室にちょうどいい部屋を見つけられなかったことを気にしていた。
 塔内のいたるところが壊滅してしまったのだから、瑛菜は気にしなくてもいいと言ったのだが、諦めきれなかったローザマリアはロケット打ち上げ場に目をつけたのだ。
 部室にはできないが、ここでライブをやろう、と。
 滅多にないステージに、瑛菜は飛びついた。
 それには、ハスターだかチーマーだか渋谷だかとヤクザを倒し、ロケットを無事に宇宙へ旅立たせなければならない。
 ライブ場にしたい場所に戦いが待っているのはいつものことなので、瑛菜は怯まなかった。
 瑛菜が絡め取ったハスターの腕を手繰り寄せ、ローザマリアは一発入れて気絶させた。
 エリシュカもアテナと背中を預けあってハスターを相手取っていた。
 お互い接近戦タイプのため、つかず離れずを保って戦っている。
 それを見て取ったヤクザが魔法で攻めろ、とハスターに指示を飛ばす。
「エリー!」
 アテナの呼びかけにエリシュカが頷き返すなり、二人はバラバラの方角へ散り、手近なハスターに飛び掛る。
 狙いの定まらない魔法は味方のハスターも巻き込んだ。
 多少怪我を負っても、戦いに集中している二人は気にも留めなかった。
 再び背中を合わせた時、アテナは小さく笑って言った。
「ライブ、楽しみだね」
「うゅ……でも、その前に一仕事なの」
「うん。がんばろうねっ」
 こつん、と拳を合わせた瞬間に離れた二人の間に、雷術が落ちた。
 その頃グロリアーナは、ミゲルと対峙していた。
「さあ、今日こそ決着をつけようか」
「わざわざ来てくださったのですか。では、歓迎しないといけませんね」
 BLOODY MARYの切っ先を向けるグロリアーナに対し、腰を落としてショットランサーを構えるミゲル。
 先に仕掛けたのはミゲルだった。
 上に下に突き出される刃を、グロリアーナは剣の平で受けて反撃のチャンスを待つ。
 ミゲルの一撃一撃は重く、柄を握る手にしびれるような衝撃を与えてくる。
 しかし、途切れのない攻撃などあるはずもなく、グロリアーナはそのわずかな一瞬を見逃さずに攻撃に転じた。
 刃渡り1.5メートルの巨大な剣を、自分の腕の延長のように操り、攻める。
 一連の攻防の後、離れたグロリアーナは、グッと足に力をこめると、急所を狙って疾風のように剣を繰り出した。
 ミゲルは身を捻ってそれをかわすと、槍の切っ先をグロリアーナに定める。
 彼女は次に何が来るか、正確に感じ取った。
 急いで大剣を引き戻した時には、眼前に射出つれた槍の穂先が迫っていた。
 考えるより先に体が動き、顔面に風穴があくのを防ぐと、グロリアーナは穂先の勢いを後ろに逃がすように剣ごと手放し、自身はミゲルの懐に飛び込む。
 予想外の行動にとっさの反応が遅れたミゲルに、グロリアーナは則天去私を叩き込んだ。
 一瞬の閃光の後、充分にあいた距離で両者は向き合っていた。
 グロリアーナは腫れた片腕を押さえ、ミゲルは腹のあたりを押さえながら口の端から流れた血をぬぐう。
「あなたのこと、少し見くびってました」
「反撃を受けるとはな……」
 ミゲルが槍を握り直すと、グロリアーナも腕の痛みに知らぬふりをして大剣を両手で握り締めた。