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パラ実占領計画(最終回)

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パラ実占領計画(最終回)

リアクション



飛び立てるか? 人面ロケット


 レン達を引き受けてくれたみんなのおかげでロケット打ち上げ場に着いたロケット組は、人面ロケットと対面していた。
「やっと来たねー。さあ、乗って乗って! ビューンと行くよー。あ、ボクのことはビリーって呼んでね」
 明るく呑気な声で、早く行こうと誘ってくる。ちなみに女の子だそうだ。
 見た目は機関車トーマスに似ていた。
 宇宙に行くのが楽しみで仕方がないようだ。
 それをガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)がそっと宥めた。
「まあ待て。俺達は戦いに行くのだ。無事に往復するためにも、お前の装甲を少しばかり強くしておきたいのだが?」
「自分もそれに賛成です。石原校長も、そうおっしゃってましたよ。資材を送っていただけると言ってくれましたが、届いてませんか?」
 ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)の言葉に、ビリーはアッと声をあげてボディから伸びている腕で一点を指差した。
 そこにはビニールシートで覆われた小山がある。
「あれ、そうだったんだ。じゃ、よろしくねー!」
 ガイウスとヴィゼントはすぐに作業に取り掛かった。
 ガイウスはさらに迷彩塗装も施した。少しでも危険を回避するために。
 その間、ビリーは鼻歌をうたいながら時間を潰した。
 と、そのビリーにゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)が声をかけた。
「なんだなんだ、モヒカンがねぇじゃねーか」
「宇宙に行くのにモヒカンがいるの?」
 ビリーが不思議そうな目を向ける。
 ゲブーは鼻で笑った。
「馬鹿だなオイ。モヒカンあってこそのパラ実だろ。見ろ、俺様のこの立派なモヒカンを!」
 ビリーに見せ付けるように自身の頭を指差すゲブー。そこには派手なピンクのモヒカンが誇らしげにあった。
 ビリーにモヒカンのことはよくわからなかったが、ゲブーを見て何だか凄いものらしいと思った。
「きれいなピンクだねー!」
「だろ? だいたい、どいつもこいつも良雄、良雄ってバカじゃねぇの? アイツなんて頭のモヒカンがソフトなとおり半端なだけじゃねぇか」
「本人を前にして言うっスか……」
 聞こえていた良雄がひっそり落ち込む。
 聞こえていないゲブーは、ところで、とあっさり話題を変えた。
「俺様のイコンのモヒカンブーメランを積み込みたいんだけど」
「無理だよ、入らないよ」
「そんなあっさり言うなよ」
 うーん、とビリーは唸った後、
「手に持っていく」
 ということで落ち着いた。
 そうこうしているうちに、ガイウスとヴィゼントの整備作業が終わった。
「ありがとねー。何だか強くなった気がするよー! さ、みんな。乗って乗って! ダリルのほうも準備は整ったって連絡が来たよ。これで迷わず目的の人工衛星まで行けるねっ」
 打ち上げ場全体を見渡せる位置に陣取ったダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、ビリーとの回線を開き、目標の人工衛星への座標や高空の風向きや天候のデータを送っていた。
 その傍には、この位置を見つけ出したルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、自分達を運んでくれた砂鯱の鼻先を撫でている。
 と、テクノコンピューターに向けていたダリルが、弾かれたように顔をあげた。
「ルカ、何か来る」
「……ん」
 ダリルが見つめる方向へ目を向けると、物騒な気配を持った一団がここを目指して一直線に突進してくるのが見えた。おそらく、足止めのパラ実生やその味方をすり抜けたハスターだろう。
「ロケットのほうはよろしくね」
 ルカルカはそう言うと、砂鯱の背にまたがり、ハスターの進攻を止めるためにその場を去った。
 迫り来る砂煙を前に砂鯱をとめたルカルカは、裂天牙を構えると腹の底から大声を出し威圧した。
「ここから先は一歩も通さないよ!」
 先頭の男がピクリと片方の眉を跳ね上げた後、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。
 ルカルカが一人だということで軽く見たのか、自分達の数の多さに安堵したのか。
 どちらにしろ彼はすぐ後に自分の甘さを後悔することになった。
 裂天牙の一閃で、彼を含む先頭の数人が薙ぎ払われ、掠った何名かも腕に走ったしびれに武器を取り落としたりした。
 ルカルカの実力を認めたハスターの足が止まる。
 次の攻撃でさらにハスターの数を減らそうとルカルカが槍を握り締めた時、彼らの後方で何かが鈍く反射した。
 ──銃撃が来る。
 砂鯱に回避の指示を出そうとした時、その後方が突如乱れた。
 ルカルカに向けて撃たれるはずだった銃弾が、虚しく空を撃つ。
 何が起こったのかと目を凝らせば、四台のサンタのトナカイが後方を蹂躙していた。
「野暮な真似してんじねぇよ!」
 羽高 魅世瑠(はだか・みせる)の声だ。
 彼女の振るう栄光の刀が、ハスターの大振りのナイフを弾き飛ばす。
「空は快晴、風も穏やか、絶好の花火日和じゃねぇか。血生臭ぇことはやめて花火見物といこうぜ!」
 言ってることは友好的だが、フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)が操るのは闇黒ギロチンというとても血生臭いものだ。
 何人もの血を吸った凶悪な刃が、ハスターの首を狙う。
 一方では、アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)がさざれ石の短刀で切りつけて石化させた男をくすぐるように指を走らせながら、周囲のハスターに妖艶な笑みを見せている。
「『ロケット』と言えば究極のファ●●ク・シンボル。ましてそれが『発射』ということになりますと、そこに暗示されているものは……言うまでもありませんわね」
 アルダトの異様な雰囲気にハスターは思わず後ずさる。
「本来母性である大地母神から、男神格たる天空神に対して『ロケット』が『発射』されるというこの倒錯は、実に見ものですわね」
 うっとりと瞳を潤ませ、赤い唇に舌を這わせる姿はとても淫らで、同時に何故か美しい。
 何人かのハスターは顔を赤くして目をそらし、意味のわかってしまった者は「エロい」だの「ヤバい」だの呟いている。
 が、中には、そんなの関係ねぇといきり立つ者もいて。
「クソッ、突き進め!」
 前方の誰かが怒鳴る。
「抜かせないって言ったでしょ!」
 結晶のような煌きを残し、ルカルカの放った絶零斬に、彼女を突破しようとしたハスターは氷に閉じ込められたような冷たさに体から力が抜けた。
 その時、ロケット打ち上げ場から轟音と地響きが聞こえてきた。
 ルカルカが振り向くと、人面ロケットが大量の煙を噴出しながら空に飛び立って行く。
 ぐんぐん青空に吸い込まれていく機体に、乱闘の手が止まる。
「あぁ……昇っていく……。ソラに……」
 一寸前までの戦いの熱も忘れ、思わず見入ってしまうルカルカ。
 ロケットにはパラ実の友達が乗っている。
 パラ実と教導団の関係は良好とは言いがたい。
 それは両者の性質上仕方のないことだった。
 けれど、個人レベルではいくらでも友好関係を築けることをルカルカは知っている。
「たーまやー!」
「かーぎやー!」
 そんなルカルカの感慨とは関係なしに、魅世瑠とフローレンスの呑気な声が空へと放たれる。
 二人の傍ではラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)が、
「すごいすごーい!」
 と、ロケットを捕まえようとするように空へ両手を突き出してはしゃいでいた。
 ふと、フローレンスが魅世瑠と共に口にした掛け声への疑問をこぼす。
「何で、玉屋と鍵屋と花火が関係あるんだろうな?」
 彼女は特に答えを望んでいたわけではないのだが、意外なことにラズが返してきた。
「たまやとかぎやは、とうきょうがまだ『江戸』って呼ばれてたころにかつやくした、花火師の屋号なんだよー。そこから、きれいな花火があがったときは、たまやとかかぎやとか、声をあげてほめるんだって」
 いつかもラズが思わぬ博識ぶりを披露したことがあったが、今回も起こったそのことに魅世瑠もフローレンスも、ぽかんとして彼女を見ている。
 唯一、アルダトだけは何でもないように微笑んでいた。
 ロケットが発射されたことで、ハスターは引き上げていった。
 だが、まだレン達が倒されたという知らせは来ていないから、気を抜くことはできない。
「さて、あたしらの目的は果たされたわけだけど……う〜ん」
 魅世瑠自身は、向こうからどう思われていようと、こちらからは恨みはない。しかし、まだ喧嘩は終わっていないと感じている。
「めんどくせぇなあ。けど……」
 ふと、頭をよぎる人物。
 彼の様子だけでも見に行こうか、と思った。
 ルカルカを見ると、彼女もダリルのもとへ戻るところだ。
 軽く挨拶を交わして彼女達はそれぞれの目的地へと別れていった。

卍卍卍


 ロケット発射前、操縦席に着いた佐野 誠一(さの・せいいち)は、ダリルから送られてくるデータをもとに細かい調整を行っていた。
 その傍ではジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)が、どことも言えない──強いて言うなら天井へ向かって、ビリーに話しかけている。
「操縦について注意点があれば教えてもらいたいのだが」
「特にこれと言ってないよー。外装も頑丈になったし。細かいことはダリルと誠一がやってくれてるから。何もなかったら目的地までちょっと迷ってたかなー。あ、そろそろ行くよー。衝撃に備えて体をどこかに固定しといてねー」
 どこか、と言われて辺りを見回すジュレールだが、座席は数が限られている上にすでに埋まっている。立っている人達もやや焦りを見せていた。
 そうこうしているうちに、誠一がカウントダウンを始めた。
「ちょっと待て。まだ全員……ッ」
 言葉は強烈な上からの圧力に遮られてしまう。
 何かが潰されたような悲鳴だか呻き声だかをBGMに加え、ロケットはひたすら加速する。
 後で文句を言ってやらねば、とジュレールは固く決意した。

 不意に静かになった周りにジュレールは顔を上げる。
「もういいのか?」
「お疲れさまー!」
 正面のスクリーンに映る青い星。
 思わず息を飲む。
 背景の暗闇に淡く光るそれに対し、どんな表現をつけても表しきれないものを感じた。
 乱暴な発射直後の文句も忘れてしまった。
 が、すぐに現実に戻ったジュレールは、浮かんだ質問をビリーにぶつける。
「ビリー自身の攻撃方法はあるのか?」
「ないよー。あるとしたら、ゲブーから預かってるこのモヒカンブーメランだね」
「そうか。では、人工衛星に攻撃する際、我がパートナーは直接乗り込む気がいるのだが、ドッキング機能などはあるのか?」
「ごめんね、ないんだー。ボクごと突撃しかないなー」
「おいおい」
 このまま聞いていたら本当に突撃しかねない、と危険を感じた誠一が会話に割り込む。
「いくら強化装甲されたからって、下手に損傷を増やしてどうすんだよ。帰りもあるんだぜ」
「他に何かないの? 移動用の何かとか」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)自身はロケットごと特攻もありだと思っていたのだが、誠一の言うことはもっともだったので、ロケット本人に聞いてみた。
 ビリーはしばらく考え込んだ後、アッと明るい声をあげた。
 期待のこもった目をした三人に、ビリーはウキウキと答える。
「ボクが投げるって手があるよー!」
「勢い余ったら死ぬだろ」
「誠一は心配性だなー。何とかなるよー、みんな強そうだし」
 どこまでも能天気なビリーに、三人は顔を見合わせて嘆息すると、もっと良い案はないかもう少し考えてみることにするのだった。