リアクション
* * * 会議の前日のこと。 「イコンに『他所を活かす』ための機能が欲しい、だぁ?」 整備課長グスタフ・ベルイマンと整備教官長「姉御」に向かって、月夜見 望(つきよみ・のぞむ)は自分の考えを打ち明けた。 「なんか、第二世代機開発プロジェクトって、他者を傷つけるための『兵器』を作るためのもののような気がしてさ。イコンだって、人を傷つけ、破壊するだけじゃやるせないだろ?」 「本気で言ってんのか?」 教官長が睨んでくる。 「機晶エネルギーの装甲を無効化する装置とか、相手を傷つけずに済ませる捕縛専用の武器や機能とか……」 「本当にそれで、お前は人を傷つけずに済むとでも思ってんのか? お前が言ってるのは、『イコン』が強い武器を持てば人を傷つける。だったら、ハナっからそんなもん持たせなきゃいい。そんなとこだろ」 「イコンも大事な仲間、じゃねーのか、おい? 今の言葉は、イコンを『道具』だと思ってっから出てきたようにみえんぞ?」 「んなわけねーだろ! 俺はただ、イコンを『破壊するだけの兵器』なんて存在にしたくないだけだ」 「んじゃ、お前は第二世代機開発プロジェクトがどう進もうと、『破壊するだけの兵器』に成り下がるって思ってるわけだ。そうだろ?」 「違う!」 「一つ教えといてやる。イコンが人を傷つけるんじゃねぇ。イコンに乗ってるヤツが、相手を傷つけんだ。イコンってのはそれはそれは素直なヤツだ。本人がどう思おうと、乗ってるヤツには歯向かわねぇ。例え機体が悲鳴を上げようと、乗ってるヤツが死ぬまで戦うってんなら戦い続ける」 「強い力を目にすると、みんなそれを忘れちまうんだよな。どうなろうと、全てはそれを振るう者次第だってのによ。なんかあるたび、『あれは危険だ』『あんな恐ろしいもの、なくした方がいい』って騒ぎ立てる。月夜見、今のお前はそいつらと同じだ」 返す言葉が見つからない。 「海京決戦、あの『覚醒』がもたらされたのは、みんなが覚悟を決めて、そんでも自分の居場所を、仲間を守りたいって強く願ったからじゃねぇのか? だったら、信じろよ。てめぇの仲間をよ。どんな力を手にしても、『他者を活かす』戦い方をするってよ。そんで、そいつらが求めんなら、さっき出た機能も自ずと提案されんだろうさ」 二人とも、自分達はイコンがどうであれ、整備するだけだという。自分達に出来るのは、パイロットを信じること。信じられないようなら、そんなヤツには乗らせないと。 同じことを、そしてホワイトスノー博士と罪の調律者にも言ってみた。 「わたしはその考え、素敵だと思うわ。でもね、それは【ナイチンゲール】が体現し、ブルースロートに受け継がれている。あなたの提案するものとは違うけれど、少なくとも他者を『活かす』ことは出来るわ」 むしろ、【ナイチンゲール】には一切の攻撃機能がないという。望むはそれに驚きを隠せなかった。 「機体への干渉による無力化。エネルギーシールドの形成。そして、『女神の祝福』による絶対防御領域の展開。【ジズ】の力はその逆よ。機体への干渉による無力化は共通だけどね」 そして博士も答える。 「このプロジェクトの真の目的は、強力な兵器としてのイコンを造ることではない。少なくとも、そのことは理解して欲しい」 「ジール、あなたの考えは分かるわ。でも、わたしは彼らまでは信用出来ない。『覚醒』を許した子達まで、変な影響を受けたら困るのよ」 「そうなったら、所詮その程度だったという話だ。『覚醒』を再封印してしまえばいい」 望は不安げな様子の調律者を無意識になでてしまった。 「……なにしてるの?」 「つ、つい……」 「あなたも同じなのね。そう、人は力を手にすれば変わる。そうなったら、元には戻らないのよ。誘惑に打ち勝てるほど皆が強かったら、この世界から意味のない殺戮なんて……とっくに消えているわ」 * * * イコンハンガーにて。 「護りたい……力が欲しいと言う気持ちは……よく分かりますがね」 神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)は試験導入されたレイヴンの機体を見上げ、呟いた。 「勝つためなら、しょうがないんだけど、どうも駒にされている気もするわ」 橘 瑠架(たちばな・るか)が応じる。 「自分は……覚醒は……両刃の剣だと思うので……なるべくなら使用したくないところです……同調高くなれば……負担も事故崩壊も……招きそうで……ただそのときになれば……やる覚悟は……ありますがね」 イコンと一体となる。覚醒にしても、ブレイン・マシン・インターフェイスにしても、そこには大きな危険があるのかもしれない。 もっとも、彼には両者の区別がまだついていないのではあるが。前線に出ていない紫翠にとっては、どちらも未知の力であることに変わりはない。 「分かっているわ。戦場では、冷静が基本だもの……でも不都合=危険だと聞かないのが、反対に怪しいわね? まあ、下っ端には伝えることもない――と上には言われてそうね」 表向きは、「今は」危険はないとされている。もっとも、管理課長の風間には何か企みがありそうなため、それを真に受けることが二人とも出来ない。 「そうですね……無理しないように……最悪のこともいつ起こるか……分かりませんから。乗っていると、熱くなるので……何が起こるか……不明なんですよね。皆さん……まだ使いこなしていませんし」 そんな状態で、第二世代機を開発しても大丈夫なのだろうか。 力を手にすることに対する疑問は、どうしても拭い去ることが出来なかった。 |
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