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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ ―Apocalypse― 第1回

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第四章 〜暗部〜


・真:風紀委員会


「皆さん、集まりましたね」
 ランクS強化人間、黒川から事情を聞き、夕条 媛花(せきじょう・ひめか)はエキスパート候補の招集に応じた。
「やっ! リーダーさん」
 中華風にアレンジされた制服を纏った黄 鈴鈴も、当然ここにいる。
「風間さん、とりあえず一号以外の全員だよ」
 媛花も合わせて、ここにいるエキスパート候補はわずか五人だ。
 少な過ぎる、それが最初の印象だった。しかし、自分以外の四人からは、他の強化人間にはない独特な空気を感じる。
「では、説明を始めましょう。その前に確認します。夕条さん、統率の任を引き受けて下さいますか?」
「はい。お任せ下さい」
 そのつもりでやって来たのだから。
「では、こちらをご覧下さい」
 風間がスクリーンに、海京の地図を投影する。
「現在の海京の治安維持は、海京警察とシャンバラ王国軍――教導団が共同で行っております。表向きはそれでまかなえている、ということになっていますが」
 画面が切り替わる。
「……学院上層部は、海京の都市構造を完全には公開しておりません。学院と天沼矛を結ぶイコン運搬ルート、四つの地区を結ぶ通路、海京決戦で一時使用されたシェルターの全容。ブロック構造である都市の地下、というよりは内部空間ですが、それらの一切を秘匿しています」
 その上、地下の一部は不良グループの溜まり場にもなっているという。
「他にも、建設されたものの使われていない建物はいくつもあります。中にはダミーもありますが、そういった場所を隠れ蓑にしている者達がいるのですよ」
 その事実さえ、上層部は覆い隠しているという。
「天御柱学院は、入学するための審査は厳しいですが、入ってしまえばその生徒の人格はそれほど問われません。特に超能力科に至っては顕著ですね。そのため、役員会のメンバーが個別に優秀な生徒を使って『掃除』を行ったり、ということはありました。私の知らないところで、管理課の強化人間を使われたりもしたくらいです」
 前置きはこのくらいにして、と風間が本題に入った。
「エキスパート部隊の結成理由は、そういった上層部のやり方に対抗するためです。これまでの強化人間部隊を、海京の五つのエリアにグループ分けして配備し、治安維持を行ってもらいます。もちろん、先ほど提示した海京全図は皆さんにお渡しします」
 表向きは、学生自治の観点による課外活動。学院の生徒による、海京の平和維持活動というわけだ。
「君達エキスパートは、それぞれのエリアの強化人間部隊をまとめることになります。北、南、東、西、そして天沼矛。各エリアに一人ずつですね。そして、夕条さんにはそれら全てのエリアの統括として指揮を執ってもらいます。さしずめ、風紀委員長というところですね」
 表向きは風紀委員会。裏は強化人間の生徒による、警察機構に組み込まれない治安維持組織。
「皆さんの下に配属される者達に、どこまで情報を公開するかはお任せ致します。横と縦の連携を上手く行えば、君達だけで海京の隅々までを見通すことが可能でしょう。期待していますよ」
 以上で説明は終了。
 媛花は統括として、エキスパートのメンバーと強化人間部隊の運用方法についての追加説明を受けるために、風間についていく。
 今回の体制が確立されることで、管理課は強化人間を海京全域に、常時展開出来るようになる。風間としてはそれが狙いなのだろう。
 それが海京警察や国軍以上に成果を上げることになれば、戦力としてもアピールすることが出来る。
「風間課長、提案があります」
「なんでしょう?」
 しかし一方で、風間をよく思わない者にとっては、この流れは非常に好ましくない。確立される前に風間を始末し、計画を白紙に戻そうとしてくる可能性がある。
 それに、風間に何かあれば、海京に存在する天御柱学院製強化人間が危険に晒される。元々、強化人間への風当たりは強いのだから、場合によっては『処分』が再開されてしまうかもしれない。風間が上層部に働きかけているから、今は不安定な強化人間も処分を免れているという話だ。
「二十四時間体制で警護する、ボディーガードをつけてはいかがでしょうか。強化人間に対する影響力の強いあなたを狙う刺客がいても何ら不思議ではありません」
「そうですね。ですが、統括をしてくれる君にお願いするわけにもいきませんし……これまでは黄さんにお願いすることが何度かあったんですけどね。一応、個人的に対策はしてますよ」
 それについてははぐらかされてしまったが、ちゃんと考えはあるのだろう。
「とりあえず、早速明日から宜しく頼みますよ、風紀委員長さん」