リアクション
報せ イルミンスールの森で大規模火災発生の報に、イルミンスール魔法学校は大騒ぎになっていた。 ただでさえザナドゥとの戦いでイルミンスールの森は大きな痛手を受けたばかりだ。ここでさらに大規模な面積を消失しては、復旧に何年かかるか分からない。 すぐさま、消火に赴ける者たちから、順次出発することとなった。災害の規模を考えて、イコンの使用も許可されている。また、偶然世界樹に居合わせていた他校の生徒たちにも協力が求められたのだった。 「森が燃えているなんて……。何かできない……、ううん、何かしなくては!」 話を聞いて、ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が、とるものもとりあえず真っ先に世界樹を飛び出そうとしていた。 「ミスファーンさん、お願いします。私と一緒に、森を救ってください」 ジーナ・ユキノシタに請われて、うむとミスファーンがうなずく。 「待て、ジーナ。動くのであれば我も行こう。このように、ユイリも連れてきているぞ」 まさに飛空艇発着場から飛びたとうとしているジーナ・ユキノシタとミスファーンの許に、息せき切ってガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)とユイリ・ウインドリィ(ゆいり・ういんどりぃ)がやってきた。 「ガイアスさん」 「一人で、なんでもしようとするな」 「はい」 ガイアス・ミスファーンに言われて、ジーナ・ユキノシタは素直にうなずいた。 「私も忘れないでください」 ワイルドペガサスを呼び寄せてユイリ・ウインドリィが言った。素早く、それにまたがって準備万端という顔をする。 「では急ごう。イルミンスールの森へ」 小型飛空艇ヘリファルテに乗って、ガイアス・ミスファーンが言った。 「行きましょうみなさん」 ジーナ・ユキノシタとパートナーたちが揃って世界樹を飛びたつ。 以前世界樹があったのはイルミンスールの森の中央近くであったが、現在はかなり北東寄りの森の端に移動してしまっている。火災現場は、世界樹からは西南西の方向であった。 ★ ★ ★ 「イルミンスールの森ので火事ですか。そういえば、ゴチメイ隊のみなさんが、森でうろうろしていたとか、迷子になったとか、神隠しになったとか……。ちょっとだけ様子を見にいってみますか。火事から逃げる人なんかがいたら、安全な場所への誘導なんかもできるでしょうし」 「ナイス、ツカサ。やっと人々を守る魔法少女の使命に目覚めたのね」 月詠 司(つくよみ・つかさ)のつぶやきにも似た台詞を聞いたシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が、キラキラと目を輝かせて言った。 「目覚めてません!」 きっぱりと、月詠司が答える。 「またそんなあ。しっかりとフラグを立ててるじゃないの」 にこやかに笑いながら、シオン・エヴァンジェリウスがバンバンと月詠司の背中を叩いた。 「なんだ、どうしたのじゃ。また、ツカサが死亡フラグでも立てたのかな」 「立ててないです!」 二人の騒ぎを小耳に挟んでやってきたウォーデン・オーディルーロキ(うぉーでん・おーでぃるーろき)に、月詠司が力を込めて言った。 「またまたあ、ツカサのフラグの立て方ったら、もうそれは芸術の域じゃないの。伝統芸能よ。ああ、きっと、火事場見物に行って、いろいろと大騒動に巻き込まれるのね」 「見物じゃありません」 「そうじゃのう、ツカサであれば、倒れてきた木の下敷きになるとか、消火用イコンにいつの間にか踏まれるとか、実に美味しい目に遭いそうじゃ」 「嫌です」 「だったら、女装しかないわ。フラグ潰しのおまじないは女装しかないのよ」 なんだか、思いっきりパートナーたちにいじられる月詠司であった。 「とにかく、そんなフラグなどどこにもないことを証明して見せます」 「無理よ」 「無理じゃな」 あっさりと否定されてしまった。 「だったら、火事の中から行方不明のゴチメイを捜してみせますよ。ええ、やってやります」 なんだか話が変な方向に行ったまま、月詠司たちは使い魔たちを連れて火災現場へと出発していった。 ★ ★ ★ 「今日もいい眺めですねえ」 そのころ、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)は展望台でのんびりと風景を楽しんでいた。そこで、何やら他の生徒たちがざわめき出す。 「どうしたんです?」 「大変、火事だヨ!」 アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が、遠くを指さして叫んだ。 「火事!?」 人だかりに混じって西の方を見たアキラ・セイルーンは、赤く染まるイルミンスールの森を見て愕然とした。この場所からでも、相当広い範囲が燃えているのが分かる。このまま放置していたら、イルミンスールの森が全部消失してしまうかもしれない。 「すぐに消火しなくては!」 「ちょっと待ってネ。逸る気持ちは分かるヨ、でも、急いては事をし損じるネ。ここは、しっかりと準備をしてから行くべきヨ」 あわてて飛び出していこうとするアキラ・セイルーンの腕をつかんで、アリス・ドロワーズが諫めた。 「うん、分かった。現場でちゃんとできるように、ちゃんと準備を整えていこう。アリスも手伝って」 「もちろんヨ」 ★ ★ ★ 「森が……悲鳴をあげている……」 ふらふらと倒れかけた多比良 幽那(たひら・ゆうな)が、アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)とアルラウネたちに支えられた。 人の心、草の心で、燃えて灰になっていく森の植物たちの悲鳴をもろに受けてしまったらしい。普段から人一倍植物に気をかけていたために、影響も他の者より強かったようだ。本来なら、特定の植物の心を感じるだけであるのだが、これだけの火事になると、不特定の叫びが怒濤のように押し寄せてきたのだった。 「許せない。今までイルミンスールの森でこんな火事なんて起きたことないじゃない。きっと、誰かが火をつけたんだわ。森の植物たちもそう言ってる。早く、行かなくちゃ。そうだわ、龍樹【ロサ=アテール】にも手伝ってもらおう」 そう言うと、多比良幽那が龍樹【ロサ=アテール】を呼んだ。なぜか樹木と一体化して変化してしまったジャイアントアウルだ。どちらがどちらを取り込んだのかは分からないが、その姿は翼を持つ半樹人の姿をしている。もしかしたら、黒薔薇のアルラウネとフクロウが一つになったのかもしれない。 「待て、母よ。植物が燃えるのは、花妖精として我も見捨ててはおけぬ。一緒に行くぞ」 一人で出発しようとする多比良幽那にむかって、アッシュ・フラクシナスが言った。アルラウネたちも、一緒に連れていってくれと集まってくる。 「いいわ、みんなで行きましょう」 龍樹【ロサ=アテール】が、アッシュ・フラクシナスと消火剤をかかえると、アルラウネたちが龍樹【ロサ=アテール】の身体に巻きついた。多比良幽那は、高所恐怖症であることを植物愛で無理矢理押さえつけて、龍樹【ロサ=アテール】の背に乗る。 「お願い、龍樹【ロサ=アテール】」 多比良幽那に言われて、龍樹【ロサ=アテール】が漆黒の翼をイルミンスールの空に広げた。 ★ ★ ★ 「オーライ、そのままコンテナを固定してくれ」 瓜生 コウ(うりゅう・こう)が大きな声を出しながら、巨大くわがたのドンナーシュラークの背中にコンテナを設置してもらっている。 イルミンスール魔法学校では、直接消火にでかける生徒と、それら生徒に消火用の装備を装着する作業に徹する生徒たちで慌ただしさを増していた。 消火用の装備とはいえ、突然のことであるので特殊な物は準備が間にあわない。消火剤や水を入れるタンクやコンテナが主体ではある。大小様々のそれら消火用機器をイコンや巨大生物や飛空艇に大急ぎで装着していくのである。少しでも足しになればと、小型飛空艇に水や消火器を積んで出発する者もいる。 本来であれば、もっと大規模の運搬装置などがあればいいのだが、個人が最初から所持している物以外がすぐに準備できるはずもない。特殊であればあるほど持ち出しには許可がいるし、その間に火は燃え広がってしまうだろう。いくら火事のためと言っても、混乱に乗じてアイテムの不正使用なども考えられるため、常識の範囲内の装備しか持ち出すことはできないでいた。無論、それであっても、世界樹の総力を挙げれば、物量的にも十分対応は可能だ。 「森で授業とか研究をしている生徒がいなければいいが。いや、いたとすれば、自力で乗りきるか? いずれにしろ、手助けは絶対必要だ」 準備が整うと、瓜生コウは、ドンナーシュラークの上に乗って出発していった。 ★ ★ ★ 「こんな物しか残ってないのかあ。でもないよりましなんだもん。たっぷり消火剤を入れてよね」 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、黄金色に塗装されたイーグリット・アサルトタイプのグラディウスで、用意されたバケットを持ちあげた。いわゆる巨大バケツだが、その中には消火剤がなみなみと入っている。これをピストンでどんどん運んで火事を消そうというのだ。 「すぐに帰ってくるから、次を用意しておいてね」 そう言うと、小鳥遊美羽はイコンを発進させた。 「リンちゃんたち、森に行ったきり帰ってきてないっていうし、この火事に巻き込まれていないといいんだけど。また変な遺跡とかお城に入ったまま迷子になんかなっていないよね。心配だよ」 「そうですね。バケットの方は私が注意していますから、全速で行ってください」 「うん、頼んだよ」 バケットの中の消火剤をこぼさないようにベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が注意してくれるのを頼りに、小鳥遊美羽は全速力でグラディウスを飛ばしていった。 ★ ★ ★ 「ちょっと待て、今調べて……火事じゃと!? 主め、よりによってこんなときに森にでかけるなど……。ええい、手間のかかる!」 火事を知ったフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)は、あわててセンチネルタイプの{ICN0000201#Night−gaunts}を引っ張り出すと、背部に取りつけたコンテナに水を注入開始してもらった。 「急いでくれ」 燃え広がる火災の情報にやきもきしながら、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』が作業を急かした。 |
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