リアクション
消火 「あれれ、なんかおかしくない?」 イルミンスールの森にでかけたままずっと帰ってこないゴチメイ隊を心配してマメに捜索を続けていた秋月葵が、ふいに周囲の様子に違和感を感じてつぶやいた。鳥や動物たちが、一方方向から群れを成して移動してくる。まるで、何かから逃げてきているかのようだ。 その原因はすぐに分かった。山火事だ。 「そんな、森が燃えているだなんて。ゴチメイのみんなはまだ見つかってないんだよ。こうなったら、変身なんだもん!」 迫ってくる火を前にして、秋月葵がすっくと立った。 燃えさかる炎にも負けない輝きが秋月葵の全身をつつむ。それまで着ていた衣装が弾けるように消え、素肌のシルエットが光の中に浮かびあがった。それをつつむようにして、ふわりと青い魔法少女のコスチュームが翻った。 「みんなの森を守るため、愛と正義の突撃魔法少女リリカルあおい! 颯爽登場だよ!」 決めポーズと名乗りをあげてから、お約束で一応魔砲ステッキを炎にむける。 「いくよー! 全力全開、ブリザード!!」 迫りくる炎にむかって、秋月葵がブリザードを放った。氷雪の嵐が、目の前の炎を消し去り、熱と相殺してもうもうたる水蒸気を周囲に広げた。 「このまま突き進むよ。ブリザード!!」 ★ ★ ★ 「突然火事だなんて、おかしいですぅ」 秋なので、お腹のあたりに増えた物を落としに森の散歩をしていた神代 明日香(かみしろ・あすか)が、突然迫ってきた火を見て叫んだ。 「危ないです。いったん、お空に避難しましょ」 ここにいては危険だと考えたノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)が、空飛ぶ魔法↑↑で、神代明日香とともに上空に避難した。 だが、火事は地上も危ないが、上空もまた例外ではない。熱風が容赦なく襲いかかってくる。 「ブリザードですぅ」 たまらず、神代明日香がブリザードで熱風を押し返した。炎が勢いを失って少し火事がおさまる。 「こちらもブリザード! ちょっと寒いですよ。」 同じようにノルニル『運命の書』もブリザードを放って、周囲の火の勢いを削いでいった。 「こうなったら、燃える前に燃やしてしまって、火が広がらないようにしちゃいましょう」 そう言うと、ノルニル『運命の書』がフェニックスを召喚した。 空中に炎の塊が現れたかと思うと、丸めた布が解けるようにして翼が広がり、壮麗な炎の鳥に姿を変える。 「凄い、凄い」 シーアルジストの技に、神代明日香が拍手をする。 「フェニックスさん、お願いします」 ノルニル『運命の書』の命令を受けて、フェニックスが広がろうとする炎の先に回って、まだ無事な木々を焼き払った。普通に考えれば単純に火が広がるだけのようだが、フェニックスの高温は、燃え広がる前に一気に木々を灰にし、燃える物その物を、炎の鼻先から奪い去っていった。 「その調子です」 ノルニル『運命の書』のフェニックスは、そうやって炎上を押さえ込んでいった。 ★ ★ ★ 「現場上空に達したよ。火事はかなり広範囲に広がっているようね。すでに、およそ半径2キロ以上の森林が消失。巻き込まれた動物たちや、一般人が多数避難中の模様。熱によって、対人センサーは効かないから、低空からの目視が中心となるわね」 カチェア・ニムロッドが、素早く現場の状況を可能な限り分析して緋山政敏に言った。 「上等だ、火にまかれた者の多い場所を指示してくれ。それから、今の情報をオープンチャンネルで近くの人間に通達を」 「分かったわ」 カチェア・ニムロッドが情報を発信する間に、緋山政敏は火に囲まれた一団を発見した。どうやら、ハイキングか何かで逃げ遅れた集団らしい。 『今助けるから、地面に身を伏せろ!』 ソニックブラスターで告げると、緋山政敏は亜音速まで速度を落とすと、機体を地上に近づけた。消火剤を散布して退路となる道を火の中に作りつつ、機体の起こす風とソニックブラスターで周囲の炎を薙ぎ払う。 指示通り地面に伏せていた者たちの身体を、上から叩きつけるように風が通りすぎていった。 『今だ、走り抜けろ!』 緋山政敏の指示に、人々が立ちあがって走りだす。今は道ができているが、いつ炎でふさがるかは分からない。この一分一秒が貴重だった。 ★ ★ ★ 「着地地点確保のために散水します」 ノート・シュヴェルトライテが、シグルドリーヴァを着地させることができるだけの場所を確保するため、上空から水を撒いて周囲の火を消していった。直接着陸する場所はもちろんのこと、そこへの炎の到達を極力遅くすることも重要である。 「先行している人たちから、状況が入り始めたわね。シグルドリーヴァはこのポイントに固定しましょう。位置的に、高低差からも逃げてくくる人たちが集まりやすい所だわ。この前方に防火帯をお願いできるかな?」 「いいでしょう。伝えましょう」 魯粛子敬がうなずいた。指示を待つまでもなく、テノーリオ・メイベアがトマス・ファーニナルに連絡する。 「じゃ、私はここで負傷した人たちを看ます」 自然と、ノア・セイブレムが進み出た。 「お願いね。お嬢様、着陸を!」 ニッコリと言った後、風森望が伝声管にむかって叫んだ。 「お任せなさい!」 元気な声が返ったきたかと思うと、シグルドリーヴァが降下を開始した。 |
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