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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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    ★    ★    ★
 
「なんだって、作戦変更?」
 アイゼンティーゲルの中で、トマス・ファーニナルがインカムにむかって叫んだ。そこそこ先行していたのだが、指示に従うと少し戻ることになる。
「戦場は生き物ですから。ここは臨機応変にいきましょうよ」
 柔軟な思考をみせて、ミカエラ・ウォーレンシュタットがトマス・ファーニナルに進言した。
「仕方ない、了解した」
 トマス・ファーニナルとしては、豪快な最初の作戦の方が面白そうだったのだが、ここは現実的に行動すべきだ。
 シンプルなノーマル仕様の焔虎であるアイゼンティーゲルを回頭して、指示されたポイントへむかう。
 やや起伏があって、隘路と言えなくもない。もっとも、言うほどの起伏はないので、人でも炎でも、高低差は簡単に乗り越えられそうだが。
「ここに防火帯を作ればいいんだな」
『それと、避難民の指示も頼むぜ』
 インカムのむこうから、テノーリオ・メイベアの大声が響いた。
 軽くボリュームを絞ってから、トマス・ファーニナルがミカエラ・ウォーレンシュタットの指示に従ってソードで木を切り倒していく。
 一定の帯を作りあげた所へ、避難民がやってき始めた。
 風森望がここに避難所を作ったという通信を受けて、緋山政敏たちが避難誘導を始めたらしい。
「さあ、こっちです、早く」
 馬に乗って避難路をいったりきたりしながら、魯粛子敬が叫んだ。なんとか走っている子供を見つけて、テノーリオ・メイベアがひょいと肩に担ぎあげて走りだす。
「ここは彼らに任せて、私たちは先行して、火事の大元を調べましょう」
 笹野朔夜(笹野桜)が、笹野冬月をうながすと、避難所を離れて、まだ燃えている場所を目指して進んで行った。
「ここが、一応の拠点とみていいのかな」
 湯上 凶司(ゆがみ・きょうじ)が、運転してきたパワードスーツ運送車両をシグルドリーヴァのそばに寄せて訊ねた。
「ええ、協力お願いします」
「了解しました」
 ノア・セイブレムの答えを聞いて、湯上凶司が後部コンテナへの内線のマイクを手に取った。
「待たせな、出番だ!」
 言うなり、湯上凶司がコンテナの上部ハッチを開いた。
「待ってました!」
 そんな言葉と共に、コンテナから赤青緑の鮮やかな翼持つ人影が勢いよく飛び出す。
 飛行用の簡易パワードスーツを装着したネフィリム三姉妹だ。
 ヴァルキリーである彼女たちは、自らの飛行能力に加えて分割したパワードスーツを文字通り着る形で身につけている。本来のパワードスーツの概念から考えれば機能低下もはなはだしいが、もともと戦闘用として用意したものではないので、機動性と扱いやすさ、そしてなんと言っても見栄えが最重視されている。
 いパワードスーツに身をつつんでいるのが長女のセラフ・ネフィリム(せらふ・ねふぃりむ)のパワードスーツが次女のディミーア・ネフィリム(でぃみーあ・ねふぃりむ)のパワードスーツが三女のエクス・ネフィリム(えくす・ねふぃりむ)だ。それぞれのパワードスーツはバックパックである仏斗羽素と一体化したボディースーツに、四肢の追加アーマーとタセットとバインダーがセットとなった物となっている。腿や肩や頭部がむきだしのために防御力はかなり落ちるが、見栄えや取り回しは全身を被う物よりは格段に楽になっていた。
「基本的に、ここにむかって直線方向から避難民がやってきている。遅れている者を見つけ次第ピストン輸送してくれ。後、犯人らしい者を見つけても手を出さないで戻ってこい」
『あら、珍しく心配してくれるの、凶司ちゃん』
「ああ、パワードスーツっていったって、防御力なんてないも同然だからな。傷物になったんじゃいろいろと困る」
 ちょっと揶揄するように言い返すセラフ・ネフィリムに、湯上凶司が答えた。
『何それ、嫌な言い方だねぇ』
 そんなんじゃ心配しているうちに入らなくなると、セラフ・ネフィリムがつぶやいた。
「ねえ、セラフ姉さん、犯人って、やっぱり、これって放火かなんかかな。どうみても落雷とかの自然発火じゃないよね、やっぱり」
「ええーっ、それってちょっと怖いよー」
 二人の会話を小耳に挟んだディミーア・ネフィリムとエクス・ネフィリムが、犯人という言葉に反応して言った。
「さあ、可能性としてはあるからねぇ。ディミーアもエクスも、二人共、用心はするんだよぉ」
 そう言うと、セラフ・ネフィリムは、見つけた避難民を二人に振り分けてせっせとピストン輸送を始めた。
 そうこうしているうちにも炎は迫ってくる。
「このくらいの炎……」
 火にまかれた人を見つけて、ディミーア・ネフィリムがファイアプロテクトを展開して突っ込んでいった。しっかりとだきしめて、自身で炎から守る。だが、勢いを増した炎が一気に覆い被さってこようとしたとき、突然氷の斬撃がそれを切り裂いて押し戻した。
「ディミーア、お姉ちゃん、今うちだよ」
 アルティマトゥーレを放ったエクス・ネフィリムが、姉を急かした。
「まったく切りがないねぇ……、あれはぁ?」
 入れ替わるように戻ってきたセラフ・ネフィリムが、炎の中で舞うフェニックスを見つけた。何かしきりに地面近くへ急降下で舞い降りている。そのたびに、なぜか白い煙がもうもうと立ち上っていた。
「もしかして、あれが犯人かなぁ」
「ちょ、ちょっと、セラフ姉さん、ホントに犯人見つけちゃったの?」
「かもぉ」
「ええっ、怖いよー」
 どうしようか考えあぐねているうちに、妹たちも戻ってきて三姉妹が揃った。
「ここはぁ、一撃だけして逃げちゃおうかぁ」
 なんだか過激なことをセラフ・ネフィリムが言いだす。
「いい、合図したら一斉に撃って逃げるのよ」
「はい」
「うん」
 三姉妹が、ロケットランチャーを構えてフェニックスを狙う。
「さん、にぃ、いーちぃ……」
「ちょっと待つですぅ!!」
 まさに撃つと言うときに、神代明日香が三姉妹に気づいて叫んだ。だが、遅かった。なんとかセラフ・ネフィリムとディミーア・ネフィリムが踏みとどまるものの、エクス・ネフィリムの発射した弾丸がフェニックを使っていたノルニル『運命の書』へとまっすぐに飛んでいった。
「ノルンちゃん!」
「えっ?」
 驚いたように振り返ったノルニル『運命の書』の前で、炎の塊が弾け散った。炎の聖霊が、間一髪身を盾にしてノルニル『運命の書』を守ったのだ。
「明日香さ〜ん、死んじゃうよー」
 あわてて、ノルニル『運命の書』が神代明日香の陰に隠れた。
「きゃあ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「あなたたちねぇ、放火犯はぁ」
 とにかく猛烈に謝るエクス・ネフィリムをディミーア・ネフィリムに預けて、セラフ・ネフィリムが神代明日香に訊ねた。
「誤解ですぅ。私たちは消火中だったんですよぉ。フェニックスさんの炎で火事の炎を吹き飛ばして消してもらって、また火がつかないうちにブリザードで凍らせて消していたんですぅ。フェニックスさんなら、火に強いから、火には火だったんですよぉ」
 誤解を解こうと、神代明日香が必死に説明した。
「なんだあ、てっきり放火犯かと思ったんだもん」
 あっさりとエクス・ネフィリムが信じる。
「放火犯は、私たちも探してみたのですけれどぉ、まだ見つけていないですぅ。多分風向きからして、風上であるむこうにいると思うんですけれどぉ」
「分かった、信じてあけますよぉ。避難する人もここにはもういないみたいなので、みんなでそっちに行ってみましょう」
 セラフ・ネフィリムが神代明日香に言い、一同は炎を押し返しながら奧を目指すことにした。