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リアクション
十六
触手が鎌首をもたげた。光竜『白夜』が急降下し、乗っていた人物が飛び降りた。落下のスピードを利用して、触手の首を切り裂く。
どす黒い血が飛び散り、触手はのた打ち回る。
「大丈夫? 動けるなら、避難しなさい!」
襲われていた少年は、目を丸くしてその人物を見た。
「だ、誰?」
「私の名は『プレアデス』、星団の名を持ちし陰陽の剣客よ」
または九十九 昴(つくも・すばる)。葦原明倫館所属の妖精騎士だ。彼女は「陰陽六合刀」を使って変身をする。しかし恥ずかしさの余り、間違っても本名を名乗ることは出来なかった。
「坊、立てますか?」
九十九 天地(つくも・あまつち)が少年に手を差し出した。
「刃夜殿、経路は?」
「ちょっと待ってくれ。……明倫館は途中に触手がいるようだ。空港かな」
九十九 刃夜(つくも・じんや)が、わたげうさぎ型HCで経路と現在の戦闘状況を調べて言った。ついでに、今いる場所で昴――もとい、プレアデスが触手と戦闘中との情報を入力する。
「待って! 母ちゃんが怪我してるんだ!」
少年が天地と刃夜の袖を引っ張った。女性が倒れた家屋の下敷きになっている。
「任せろ」
【金剛力】で、刃夜が柱と屋根を取り除き、天地が女性を引っ張り出した。ぐったりとして、意識を失っている。
「大丈夫ですか!? 今すぐに治療いたします!」
ツァルト・ブルーメ(つぁると・ぶるーめ)が【ヒール】を女性にかける。傷は塞がったが、意識はないままだ。刃夜が彼女を背負った。
「すば……っと、プレアデス! 僕らはこの人たちを送っていく! 大丈夫だよね!?」
昴はぐっと親指を立てた。少年はスーパーヒロインにぼうっと見惚れている。
「さあ、行きましょう。大丈夫、必ず助けます。みんな」
ツァルトは町を眺めた。故郷を思い出す。もう、あんなことは嫌だった。そのためにも、自分に出来ることをしよう……。
少年の手を引き、唄いながらツァルトは進む。その後を、女性を背負った刃夜が、四人を守って天地が。
背後で炎が舞い上がった。
「朱雀……煉獄斬」
昴の必殺の呟きが聞こえた。
大蛇を中心にした半径百メートル――いや、それ以上はあるだろう――は、家屋が破壊され、平たくなっていた。巨大な人間の腕を使い、円を描くように移動するからだ。
そこから動けないのは幸いだった。もしムカデの様に移動できていたら、葦原の町はたちまち更地と化したろう。
緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は蹂躙飛行ブーツで周囲を旋回しながら、大蛇の様子を確かめた。目はないようだ。他の触手と同様、生命エネルギーを感じ取っているのだろう。しかし口は十字ではなく、蛇と同じ形をしている。歯はないから、獲物は丸飲みにするに違いない。
「いっくよー!」
透乃は大蛇の腹目掛けて突っ込んだ。【金剛力】の拳がめり込む。口から粘ついた体液が吐き出され、えずく。透乃を追い払おうと大蛇は腕を伸ばした。
「させませんよ!」
緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)がその腕を切り落とし、すぐさま離れた。【陰府の毒杯】を使うと、その部分から徐々に石化していく。どす黒い血を噴き出しながら、大蛇はグオオォォと叫び声を上げた。
飲み込もうとする大蛇を避け、透乃は上空へ逃げた。急ブレーキをかけ、【チャージブレイク】を発動する。
東 朱鷺(あずま・とき)は、再生を始めた腕を切り落とした。
「キリがないな……」
触手もそうだが、この大蛇にも再生能力があるらしい。それにしても、この腕はどういうことだろうかと朱鷺は考えた。こんな場合でなければ、大蛇に人間の腕が生えている理由を考察するところだが。
ともあれ、こうして腕を切り続けていれば、動けなくなるだろう……。
コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)と共に、大蛇の周囲の家屋を移動させ、壁を作った。これで、一般人は入ってこられない。
空のラブ・リトル(らぶ・りとる)は、念のために見張っているが、大蛇が自分の方を見る――目はないが――度に叫んでいた。大蛇には耳もないので左程ダメージはないらしかったが。
「ガオオオオオン!!」
ドラゴンライダーが吠えた。大蛇の根元まで行き、爪で裂き、噛みつく。
ヤハルは言った。
『どんな生き物でも、自分を攻撃することはない。灯台下暗し。本体の頭の上が、一番安全なんだよ』
しかし、頭の上を五月蠅いハエが飛んでいたらどうだろう? 何も考えずに叩き潰そうとするかもしれない。
案の定、周囲にいた触手がドラゴンライダーに襲い掛かった。ドラゴンライダーを跳ね飛ばそうとし、しかし重さで不可能だったため、ぐるりと巻き付き締め上げる。
「グオオオオオ!」
ドラゴンライダーは叫んだ。触手が一回転する度、バキ、ギチと音がして、ドラゴンライダーの体が縮む。
「勇心剣! 必殺! 流星一文字斬りーっ!」
ハーティオンの【絶零斬】が触手を真っ二つにする。力が緩み、ドラゴンライダーは触手を引き千切った。ハーティオンに斬られた部分は凍結し、再生できないようだ。
「手を貸せ、ドラゴンライダー!」
ハーティオンはドラゴンライダーと共に、大蛇を穴から引きずり出そうと腕を回した。無論、掴みきれる大きさではなかったが、ぐいと指を大蛇の体に食い込ませ、足に力を込めて後ろへ引っ張った。しかし、なかなか持ち上がらない。まるで根が生えたかのようだ。
大蛇が暴れる。生える腕は朱鷺が全て切り捨て、体は陽子が石化し、身動きが取れない。痛みか、もどかしさか、体全体を使って暴れ回った。土ぼこりが濛々と立ちこめ、地面が割れた。
のた打つ大蛇が大きく口を開けた。その中へ、力を溜めた透乃が【疾風突き】で突っ込む。
葦原島に大蛇の不気味な叫び声が轟き渡る。
体内を通り抜け、三十メートルほど進んで、透乃は大蛇の皮膚を破って外へ飛び出した。全身を大蛇の体液とどす黒い血に染め、透乃はにんまり笑う。
「もちろん、これぐらいで死んだりしないよね?」
大蛇が、透乃へ向けて大きく吠えた。
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