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リアクション
十二
階段を下りながら、コイバナに興じていたのは柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)とレイカ・スオウ(れいか・すおう)だ。
「……で。カガミとは結局何所までいったんだよお前?」
「わ、私とカガミのことなんて大したことないですから! そんなこと聞かれても困ります!」
それに、とレイカは前を歩くカガミ・ツヅリ(かがみ・つづり)の背を見る。
何よりカガミの病を治すことが先決。護られてばかりではない。自分も彼を護れるようにならなくては。
氷藍はやれやれと思う。カガミのようなタイプは、自分よりも周囲に気を使う。彼にとっては、レイカの笑顔こそが安らぎになるはずだ。だから、レイカは傷ついてはならない。
そんな二人の会話を背中で聞きながら、カガミは真田 大助(さなだ・たいすけ)のお面に目をやった。
視線を感じ、大助は面ごと顔を逸らす。
「なあ、大助。コンプレックスってのは難しい……生きている限り、自分というものが在り続けるのは事実だ。だが、ありのままの自分を受け入れてくれる人間がいるのなら…それは幸せなことだ」
こくり、お面をかぶったまま大助は頷いた。
四番目の社祠は、明らかにそれまでと形が違った。大きめで、屋根が一段多い。
灯篭に灯が点り、案の定、忍者たちが現れた。「今度は俺たちの番だ」と、氷藍が進み出る。
「大助。いいか……己を律するんだ。狂気に飲まれるな、逆に飲み込め。お前の事を信頼してるから……さ、行け! 敵は己の内にあり、それを忘れるなよ!」
大助が飛び出した。【超感覚】で黒い猫耳と尻尾を生やした氷藍も続く。
襲い来る忍者に、レイカが【奈落の鉄鎖】を仕掛ける。忍者は動けなくなるが、同時に橋に亀裂が入った。
「レイカ! それは駄目だ!」
カガミが金盞花を抜いた。
大助は欄干に飛び乗り、両手の武器を振り回す。「双錐の衣」の袖が鋭く尖り、忍者の体を貫いた。忍者のクナイが大助の狐の面に引っ掛かった。はっ、と大助はそこから飛びのく。
「あ、カガミ……さん。見られちゃいましたよね……」
大助の左目は、どす黒く変色していた。「百目鬼ヶ御霊」が発動しかかっているのだ。自分の意思とは無関係の上、何がきっかけになるか分からない。大助は「敵意を感じたとき」と思っていたが、この忍者たちはそれを持たない。
恐ろしくてたまらない。だが、戦っている間はそれを忘れられた。
「戦いましょう。まずはここを、抜けないと」
大助は再び飛び上がった。
氷藍は忍者に【稲妻の札】を貼りつけた。雷が落ち、崩れ落ちる。その忍者が再び蘇ることはなかった。一定以上のダメージを与えれば、復活はしないらしい。或いは、時間がかかるのかもしれない。
「よし!」
拳を握った氷藍は、奇異なものを見た。風景がぐにゃりと歪み、次いで霞んだ。
「何だ?」
大助が立っていた。左目の瞳孔が四つに増えている。また、白目の部分は更にどす黒く変色している。右目は――氷藍を見ていた。
「大助!?」
大助が地面を蹴った。「黒刀【濡烏】」が氷藍を襲う。その大助に、忍者が斬りかかった。
「何をする!」
氷藍は忍者に殴りかかった。忍者は後ろへ下がり、上段に構える。
――それを、レイカは呆然と眺めていた。
空間が歪んだと思った次の瞬間、氷藍、大助、カガミが同士討ちを始めた。何が起きたのか。
幻術。カタルたちが可能性がある、と話してくれたことを思い出した。その対処方法は――。
レイカは「シャホル・セラフ」を構えた。攻撃力の大きいこの武器で、どこを狙うべきか迷う。三人にダメージを与えず、且つ、ショックだけを与えるために。
すっと照準を横へ移す。三人の傍ら、社祠に。
漆黒に包まれた元折上下二連ショットガン。銃身は短く切り詰められているが、その重量とリコイルにより片手での発砲は不可能だ。とある魔術書の『厭わぬ者』と呼ばれる術式を研究、改造を施した方程式を魔術的ライフリングとして銃に刻んである。
魔術行使の際、銃は『増幅器』として働き魔法の威力が大幅に増加する――が。
レイカは【サンダーブラスト】を発動した。
轟音と閃光が橋を駆け抜け、社祠を破壊する。濛々とした煙の中、衝撃で倒れたカガミは、レイカの姿を見つけた。
「レイカ!!」
「シャホル・セラフ」は威力に応じて、凄まじい反動が伴う。つまりは欠陥品なのだ。
レイカに駆け寄り、カガミはその身を抱き起した。
「レイカ!」
「……カガミ……よかった……正気に……」
「レイカ!」
何があったのか。カガミは忍者と戦っていただけだ。それが、なぜ?
振り返ると、氷藍も頭を振りながら立ち上がるところだった。こちらを見て、ぽかんとしている。
そして、大助は――大助の目は、まだどす黒く、氷藍を睨みつけている。
「氷藍!」
状況を一瞬で理解し、氷藍は「神刀『禍祓い』」を手に、【神楽舞】を舞った。刀身の淡い光が強くなり、神秘的な色に輝く。
大助の目が吸いつけられ、やがて白い部分が戻ってきた。
「ぼ、僕は……?」
「呆けている暇はないぞ!」
氷藍の叱咤に、大助はすぐ切り替えた。人の言うことは素直に聞く少年なのだ。襲い来る忍者を「双錐の衣」で次々に貫いていく。
カガミは気を失ったレイカを抱え、氷藍と大助の戦いを見守った。
どうやら幻術は、あの社祠が見せていたらしい。レイカがそれを壊したのは偶然であるが、おかげで助かった。
出来れば、下に行った仲間に知らせてやりたいが、レイカを置いていくことは出来ない。また、氷藍と大助も忍者を相手に戦いを続けているため動けない。
だがきっと、同じ結論に辿り着くだろうとカガミは仲間を信じることにした。
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