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リアクション
【鏡の国の戦争・決戦6】
クローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)にダリルから通信が入ってきたのは、艦内の格納庫でフォトンの調整を行っている最中だった。
「何かありましたか?」
「ウォーレンの部隊が敵の撃破したそうだ」
「朗報ですね」
「これから国連軍の主力部隊と合流しこちらに向かうそうだが」
「合流は難しい、と。了解しました」
「他の部隊も順調のようだ、うまく挟み撃ちになって欲しいものだな。間もなく、目標地点に到達する。調整が済んだら甲板にまわってくれ。恐らく、カタパルトを使う事にはならないだろうからな」
「了解」
通信を終了させると、クローラは振り返ってサブパイロット席のセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)を見た。
「大丈夫大丈夫、聞いてたさ。みんな順調でよきかなよきかなってね」
「聞いていたならいい。僚機に甲板に出るように」
「あいよ」
格納庫から、三機のイコンが甲板に出る。
最大望遠にすれば、イコンのモニターにも遠くで戦闘する別働隊の姿が見える。予定通り、敵の背後に回りこんだのだろう。援護するには、ここからでは距離がありすぎるので応援する事しかできない。
強い風に対抗するため、フォトン含む三機のイコンは姿勢を低くし、それぞれに地上の様子を探っていた。見つけるべきは、人間サイズの怪物が一匹、簡単にはいかないだろうが、索敵に少しでも貢献しようというわけだ。
「おい、どうした?」
部下のクェイルと通信のやり取りをしていたセリオスが突然声を荒げる。
「何があった?」
「怪物ミサイルが一発、向かってきてるって、けど普通じゃねぇって」
「報告は事実のみを的確に、だ」
「わかってるっての、くそっ、こっちから出向いた方が早い」
「仕方ない、何番機だ」
フォトンはバーニアを吹かし、通信中のクェイルの元に向かった。
少し移動しただけで、射撃の音が聞こえた。
怪物ミサイルとは、怪物化したミサイルで、怪物化した戦車や装甲車と同じようなものだ。違いがあるとすれば、一回限りの使い捨てである事だろう。ミサイルとの違いは、射手が標的をロックし続けるといった手間をかけず、ミサイル自身の判断でターゲットをロックできる点だ。
ミサイルは目標に打撃を与えるために、こちらの迎撃を回避しようとする。だが、それはあくまでミサイルの機動の範囲でだ。突然九十度曲がったりはしない。機械任せの予測射撃は当てるのが難しいが、相応のパイロットの技量があれば―――それこそ教導団でのイコンの基礎訓練を終了していれば―――十分相手にできる。
だが、射撃を行っているクェイルが視界に入った瞬間、機体にミサイルが突き刺さる瞬間をクローラは目撃した。
「なっ」
その声は、ミサイルの一撃がイコンの上半身を吹き飛ばし、かつ甲板からクェイルが転がり落ちていくのを目撃したものによるもの、だけではない。
「やぁやぁ、遊びにきちゃったよ」
長刀を持ったザリスは、軽い口調でフォトンに向かってそう言うと、すぐさま背を向けて走り出した。
その背中に機晶ブレード搭載型ライフルが、その直線状にもう一機の僚機の姿が現れてしまう。撃てない、撃てばフレンドリーファイアだ。
「くっ」
急いでその背中を追うが、ザリスは現れたもう一機のクェイルに飛び掛ると、首の隙間に長刀を刺し込み、柄を持って機体の反対側に身を隠した。跳ね飛ぶクェイルの首、通信から聞こえる混乱の声。
バランスを崩し、落ちそうになるクェイルに駆けつけ、その腕を掴み引きずり上げる。
「あっちだ」
ザリスは既に次の標的、戦艦の固定砲台に向かって走っているところだった。
「あとは自分で何とかしろ」
機体のパイロットにそれだけ告げて、フォトンはその背中を追う。最高速度はフォトンの方が上だが、狭く風に煽られる船上でその速度は出せない。
バランスの取れるギリギリの速度で追い、なんとか固定砲台にザリスがたどり着く前に間合いに捉える。
「喰らえ」
機晶ブレード搭載型ライフルを振るう。ザリスはイコンの身長程飛び上がってこれを回避。
「あんなの当たったら、一撃だろうなぁ」
回避のために空中へ飛び上がったザリスは、そのまま船の上に着地はできない。空中に放りだされた形だ。だが、その先に最高のタイミングで怪物ミサイルが通りがかりザリスを拾う。
「さすがに一人でこの船をなんとかするのは無理かなぁ」
ザリスはミサイルに乗って旋回しながら呟く。
「リア充野郎に負けてられるかー!!」
「おっと」
銃剣付きビームアサルトライフルのビームを、ザリスは紙一重で回避した。
見やった先には、フォルセティの姿があった。パイロットは、エールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)とアルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)だ。
「はいはい、落ち着こうね」
エールヴァントはアルフを落ち着かせてから、通信回線を開く。相手はクローラだ。
「地上降下前に騒がしいようで出てみましたが、まさかあちらから出向いてくるとは」
「すまない、手を貸してくれ。すばしっこくて捉えるのが難しい」
「ぐるるるる」
「今何か奇妙な声が聞こえなかったか?」
「気のせいです。一旦通信切りますね」
通信を切ってから、エールヴァントはアルフを視線で一括した。
「捉えられるか?」
「俺の反射神経なら、あんなの止まってんのと同じだぜ」
機体の自動ロックを切り、操縦をアルフに任せる。いつになく静かな様子で獲物を見つめる。
「そこだ」
そして、動く。
銃剣付きビームアサルトライフルの銃口が一回だけ跳ね、人間の知覚では同時にミサイルが爆発した。
「ビンゴ!」
「いや、まだだ」
ミサイルの爆発する一瞬前に、黒い影が飛び立ったのをエールヴァントは見逃さなかった。そして、当然のように次のミサイルが黒い影、ザリスを出迎える。
「いくら乗り継いだところで」
アルフはすぐに狙いを切り替える。次のミサイルが爆発、だがザリスはまたも飛び移る。
「まるで飛び石みたいに、すばしっこいのは確かだな」
ミサイルからミサイルへ、ザリスはぴょんぴょんと飛び移る。
「何かあれ、楽しそうだな」
「同じ空を飛ぶにしたって、ミサイルの上なんて僕は御免だよ」
気が付けば、レーダーに表示されるミサイルの数がどんどん増えていっていた。そのどれも、攻撃用ではなくザリスの乗り物としての役目が優先されているのか、向かってくるのは無く、周囲を旋回している。
「ザリスの周囲のミサイルを一気に破壊、できるか?」
そこへ、クローラから通信が入る。
エールヴァントがアルフに視線を向けると、頷いてみせたので、「できます」と返した。
「できるって言ったんだから、やってくれよな」
「当然だ」
銃剣付きビームアサルトライフルを構えなおしたフォルセティは、銃口を機体のパワーで押さえつけながら横に降った。一見でたらめに見える動きは、確実に周囲のミサイルを爆破させていく。いやらしい事に、ミサイルの爆風に巻き込まれるミサイルはなく、確実に撃ち落さなければ破壊できないのだ。
ザリスの周囲のミサイルが爆発してすぐ、別方向からの銃撃がザリスの乗っていたミサイルを打ち抜いた。フォトンの銃撃だ。
「うげ、おいしいところだけ持ってく気かよ」
「いや、違う、って」
そして飛び出すフォトン。空中に躍り出たフォトンは、次の離れたミサイルに飛びつこうとしたザリス正面から対峙した。
「近くに足場がなければ、呼び寄せるしかないものな!」
クローラは周囲のミサイルの機動を読み、どのミサイルを次の足場にするかを推測し、ザリスの動きを読み当て突撃したのだ。
接近と共に繰り出された機晶ブレード搭載型ライフルを、ザリスは長刀を軽く添えて自身の機動を少しだけ変えて回避、だが向かってくる巨大なイコンからは完全に回避しきれず衝突、弾き飛ばされた。
そこへ、遅れてやってきたミサイルが来る。しかし、微妙に高い。ザリスはそのミサイルを掴もうと手を伸ばし、しかし不自然な形で止まった。手は完全に伸びきらず、ミサイルに手が届かない。
「時間かかっても、ちゃんと直しておくべきだったな」
その一撃は誰にもらったものだったか。
「捉えた!」
その顔を思い出す前に、再び突き出された機晶ブレードが、ザリスを貫いた。
突き出されたブレードの先に、突然ふらついたミサイルが自ら突っ込み、目の前で爆発した。
至近距離の爆発の衝撃と爆風に、機体は制御を失い地上へと落下していく。
「少尉!」
飛び出したフォルセティがなんとか空中で機体を受け止め、地上へと無事着陸するも、見上げると戦艦は既にだいぶ先へと進んでいた。
「行っちゃいましたね」
「仕方ない、地上部隊との合流を目指そう」
ザリス襲撃から少しして、まるで自分がここに居ると宣言するかのように突然炎の花が出現した。
目標を発見してすぐ、ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)と強盗 ヘル(ごうとう・へる)のアルマイン・ハーミット、董 蓮華(ただす・れんげ)とスティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の紅龍、そしてマッキンリーを操るシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)はすぐさま出撃した。
三人の進路を塞ぐように、レッドラインが空中に飛び出してきた。地面を見れば、盾を空に構えたレッドラインの姿も見える。地上で味方を足場にして飛び上がったのだ。
「余所見している暇なんかないぜ、最短距離を突っ切る」
ヘルが吼える。掲げた盾、繰り出される槍、その隙間を縫う繊細な動作でアルマイン・ハーミットはすり抜ける。
「董さんっ!」
一方、紅龍は正面のレッドラインに機晶ブレード搭載型ライフルのブレードをたたきつけていた。
「こっちを担当する人も、必要でしょう?」
「船も守らないといけなしな」
蓮華とスティンガー・ホークの声が通信からそれぞれ返ってくる。
「わかった、頼んだぜ」
それに返事をするのはシャウラだ。
マッキンリーの背後は、下腹部に大穴を開け頭から墜落していくレッドラインの姿があった。
「このまま、頭を取っちまえば終わりだ!」
ヘルに促され、ザカコは正面に意識を集中した。花まで距離はもう目の前だ。
一方、地上に落ちながらもレッドラインから盾を引き剥がした紅龍は、ブレードを突きたてながら地面に着地した。レッドラインは串刺しになって地面に横たわる。
「数は?」
「あと四つだな」
「やってやれない数じゃないわね」
機晶ブレード搭載型ライフルを引き抜きながら、紅龍は後方へ大きく飛んだ。突き出された槍は空気を切り裂く。後方に飛びつつ反撃の射撃は、盾によって防がれた。
着地と同時に機体を右に向かって走らせ、ついてくる数を再度確認する。
「向こうは追ってないみたいね」
ついてくる数は四。全てのレッドラインが紅龍を狙って動いている。
「周囲に大型発見の報告は無い。こいつらさえ倒せば」
「わかったわ。みんなの、邪魔は、させないわよ」
飛び掛ってくるレッドラインを見上げる。まともに接近戦の相手をしては他のレッドラインの的になる。間合いを取るため速度をあげる。
「ザコ魔物を駆逐するわよ」
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