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紙ペットとお年玉発掘大作戦

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紙ペットとお年玉発掘大作戦

リアクション

 ひらひらと、白い蝶が舞う。
 紙でできた蝶は、遊ぶようにふわりふわりと飛んで宝を目指す。
「いい天気だねぇ。ピクニック日和ってこういう日を言うんだろうねぇ」
「日差しが気持ちいいね!」
 蝶に倣うようにゆったり進む佐々良 縁(ささら・よすが)佐々良 皐月(ささら・さつき)
 佐々良皐月の頭上には紙ドラゴンが飛んでいる。二人は水際を歩きながら、微笑む。
「家族も増えたし、一緒におねぇちゃんもやってたから、二人でのんびりっていうのも久しぶりだよねぇ?」
「そうだね。えへへ、なんだか嬉しいな!」
 二人の顔に笑顔が溢れる。湖面のきらめきが二人を照らす。
「皐月、そういえばその荷物は何かなぁ?」
 佐々良縁は、彼女の手に提げられたバスケットを指差した。
「これはねー、お昼ごはんだよ」
 晴れやかに微笑んだ佐々良皐月がバスケットの蓋を開ける。サンドウィッチと水筒が、綺麗に並んでいた。
 野菜や卵、ハムなどの色とりどりの食材が挟まれているサンドウィッチは見ているだけで食欲を掻きたてる。
「おいしそうだねぇ。早く食べたいなぁ」
「まだちょっと早いよ、縁」
 会話を交わしながらゆっくり進んでいると、前方を行く紙蝶がくるくると回った。何かを知らせているように見える。
「ん? 蝶が反応してるみたいだねぇ」
「宝を見つけたのかな?」
 急いで駆け寄ると、蝶は変わらずくるくる回り続けていた。
「掘ってみようかねぇ」
 よいしょ、と土を掘り返す。柔らかな土はすぐに穴をあけ、宝箱を掘り当てた。
「宝箱だよ、縁!」
 楽しそうに飛び跳ねた佐々良皐月は、木でできた宝箱を佐々良縁に差し出した。
「どうぞ、縁」
「ありがとう、皐月」
 頷いて宝箱を開ける佐々良縁。
「……おー、いいねぇ」
 思わず笑みがこぼれる。宝箱の中には、装飾の美しい短刀が入っていた。

 湖畔の茂みを掻きわけ、紙ネズミが進む。
「宝、どこかなぁ」
 目を凝らして愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)が先を見た。そして紙ネズミに目を遣る。
 紙ネズミは振り返って彼女を見た。方向を決めかねているように見える。
「あっちはどうかな?」
 愛沢ミサは指をさす。その先で、賑やかな話声。
 白い小さな動物が、湖畔を進んでいた。
 耳先と尾の先だけが黒い、紙オコジョ。立ち止まって振りかえる。その視線の先にいるのはショコラッテ・ブラウニー(しょこらって・ぶらうにー)
 視線で会話を交わしているかのように、オコジョと彼女の視線が合う。
「ショコラちゃん、噛まれるなよー」
 その様子を、心配げに和原 樹(なぎはら・いつき)が見守る。
「冬毛のオコジョ……アーミンの毛皮……」
 と、ショコラッテ・ブラウニーが不敵に微笑んでぽつりと呟いた。慌てて和原樹が紙オコジョの前に立ちはだかる。
「ショコラちゃんそれ、紙ペットだから! 毛皮は取れないから!」
「冗談だから安心して。胴長で可愛い子ね」
 和原樹の脇をすり抜け、ショコラッテ・ブラウニーが紙オコジョの頭を撫でた。紙オコジョは気持ちよさそうに目を細める。
「なんだ、冗談か……」
 和原樹は体全体でため息をついた。その傍らで、フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)が周囲を見渡していた。
 赤い瞳を光らせて【ディテクトエビル】を発動させ続けている。
「西側は避けた方がいいだろう。このまま前進するぞ、樹、ショコラッテ」
 言ってフォルクス・カーネリアが紙オコジョを促すと、紙オコジョはちょこまかと動いて進み始めた。
 と、紙ネズミを追いかけ愛沢ミサが、後方からやってきた。和原樹が語りかける。
「えっと、愛沢さん、だよな?」
「うん。あんたは和原だよね」
 紙ネズミを呼びとめながら、愛沢ミサが応じる。和原樹は頷いた。
「よかったら、紙ペットを接触させないか?」
「いいよ」
「フォルクス、紙オコジョを回収してくれないか?」
 快諾を受け、和原樹が先を行くフォルクス・カーネリアに呼びかける。
「わかった」
 フォルクス・カーネリアは頷いて紙オコジョの首根っこを掴み、差し出した。和原樹が受け取る。
 紙ネズミと紙オコジョが相対した。互いの匂いを嗅ぐように鼻を動かした二匹は、二足で立ち上がって両手をくっつけた。
 同時にまばゆい光が二匹を包み、ばらばらに散ったかと思うと、彼らの体にまとわりつくようにして、消える。
「接触完了、か?」
 和原樹が首を傾げると、二匹は先を争うように、駆けだした。
「さっきよりも動きが機敏な気がするんだけど」
「探知能力が上がったみたいだね」
 二匹を見守る和原樹と愛沢ミサ。フォルクス・カーネリアは和原樹の背を叩く。
「樹、追いかけるのだろう? 急いだ方が良い」
「そうだな。行こう」
 先行しているショコラッテ・ブラウニーを追い、二人が駆けだした。
 その様子を見送って、愛沢ミサは、くるくる円を描く紙ネズミに笑いかけた。
「待ってよ。今掘り出すからね」
 スコップで丁寧に土を掘り返し、出てきた宝箱を開く。
「わぁ! こ、これっ……!! 校長ありがとーっ」
 歓喜の叫び声をあげる。宝箱の中身は、ゆる族伝統音楽の楽譜だった。
「愛沢さんも見つけたみたいだな」
「我らも掘り出すぞ」
「ご苦労様」
 くるくる回る紙オコジョをショコラッテ・ブラウニーが抱きかかえた。
 示された位置を、フォルクス・カーネリアがスコップで掘り返す……。古びた木箱が埋まっていた。
「樹兄さん、開けて」
 ショコラッテ・ブラウニーが和原樹を促す。彼は首を傾げた。
「ショコラちゃんはいいのか?」
「私は後でいい。樹兄さんに探してあげたかったの」
 率直な言葉に、和原樹は一瞬返答に詰まる。
「ショコラッテの好意を無駄にするな、樹」
「そうだな」
 フォルクス・カーネリアに頷き、ゆっくりと宝箱を開ける……。
「これは……」
 宝箱の中身は、月の写真集だった。