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リアクション
第一試合
アンジェラ・アーベントロート(あんじぇら・あーべんとろーと)
グラナート・アーベントロート(ぐらなーと・あーべんとろーと)
大羽 薫(おおば・かおる)
リディア・カンター(りでぃあ・かんたー)
九鬼 剛志(くき・つよし)
シルフィーナ・フィルエスト(しるふぃーな・ふぃるえすと)
神無月 スル(かんなづき・する)
咲月 くるり(さきづき・くるり)
対
朝野 未沙(あさの・みさ)
朝野 未羅(あさの・みら)
朝野 未那(あさの・みな)
月島 悠(つきしま・ゆう)
麻上 翼(まがみ・つばさ)
ネル・ライト(ねる・らいと)
 ◇
「お邪魔しまぁす! あれ、大事なお話中でしたか?」
 言いながら入ってきたのは朝野 未那(あさの・みな)。
「いや、……蒼空の人だね。今日はよろしく」
「あのぉ、もし出来れば、今日のシミュレーションのデータ、もらえないかと思って」
「ああ……悪いんだけど、内部パラメータのログは全て、プロテクトがついたまま保存される仕組みになってるんだ。天御柱のマザーと直結しててね、ちょっと無理だな。自前で録画とかするならいいけど」
「分かりましたぁ!」
 未那はそう言うと、あらん限りのポケットからあらん限りの超小型カメラを取り出し、凄まじい速度で100を超える実況モニタにセットした。電源も自前のようで、コードが制服のあちこちから伸びている。
「ふぅ、疲れた……これで十分ですぅ。みんな頑張れぇ!」
「……」
「……、よし、始めるか」
 ◇
 シミュレータのコクピット内。
 ヘッドアップディスプレイのインジケータが一斉に赤くなり、一瞬の後にグリーンに変わる。
 その直後、目の前に広がったのは――
「すげぇえええ!!」
 絶叫したのは大羽 薫(おおば・かおる)。
「空京だ、空京! 見ろよリディア! ホンモノそっくりだぜ!」
 パートナーのリディア・カンター(りでぃあ・かんたー)も、負けじと大喜びだ。
「すごいね! ホンモノそっくり! って、かおるん、空京行ったことあったっけ?」
「あるわけないだろ! うはははは!」
「リディアもない! あはははは!」
「大羽さん! ちゃんと前見てて下さいね」
 マイク越しに叱咤するのはアンジェラ・アーベントロート(あんじぇら・あーべんとろーと)。それにグラナート・アーベントロート(ぐらなーと・あーべんとろーと)の声がかぶさる。
「大丈夫ですよ、アンジェラ。あの2人はああいうときほど強いと思いますから。リラックスして行きましょー!」
「……そうね。わたくしの方が緊張しすぎてたかも。ありがとう、グラナート」
 ――それぞれを乗せたイーグリットが、ビルの谷間へ向けてスロットルを吹かしていく。それを見守る後衛、コームラントのコクピット内。
「なかなか面白い趣向じゃな。わらわの生涯でも、これほどのものは初めてじゃ」
「シルフィーナが言うと、その、重いな……」
「ははは、そんなことはない」
 九鬼 剛志(くき・つよし)とシルフィーナ・フィルエスト(しるふぃーな・ふぃるえすと)は、前を行くイーグリットの速度を計算に入れつつ、索敵にも余念はない。
「アンジェラ、大羽とも落ち着いているようじゃ。案外良いコンビかもしれんて」
「そうだね。前の2機を生かすためにも、頑張らないと」
「その通りじゃ。……お、あそこのビルなど良さそうではないか」
「うん。――よし。作戦、開始」
 その声に、全機のマイクが答える。
「了解!」
 ◇
「おおおぉーーー!」
 開始時刻。イコン搭乗者に負けず劣らず声を上げたのは朝野 未羅(あさの・みら)。山と積んだ兵器がぶるぶると震えている。
「すっごいね、これ……。涼司くん、やるじゃないの」
 足下の信号機を蹴飛ばしたりしてみながら、朝野 未沙(あさの・みさ)がつぶやく。
「これだけリアルなら、イコンのデータにも信憑性が増すというものね。絶対、とっつかまえてやるんだから!」
 ヴァーチャルとはいえ、2メートルのモンキーレンチが振り回される様は、なかなかに壮観だ。
「皆、各々の役割は分かっているな?」
 月島 悠(つきしま・ゆう)の言葉に、全員が振り返る。
「大丈夫なの! 前は私。続いてお姉ちゃん。後ろは、ええと、……」
 あまり大丈夫じゃなさそうな未羅に代わって、麻上 翼(まがみ・つばさ)が答える。
「ボクがガトリングで援護します。悠もだけど、指揮がメインですね。そして、」
「私が遊撃、ですわ」
 そう答えたのはネル・ライト(ねる・らいと)。
(ゆうげき?)
(そうね、モグラ叩きのモグラみたいなもの、かな)
(なるほどなの!)
「ちょっと未沙さん! 未羅さんに妙な説明しないでくださいます?」
「ごめんごめん。他に例えが見つからなくて」
「つまり、どこに出てくるかわからない、ってことなの!」
「……うん」
「……ええ」
「準備はいいな? では、開始する」
「了解!」
 悠の声に、全員の声がこだました。
 ◇
 最初に相手を補足したのは、リディアのレーダーだった。
 イーグリットに標準搭載されているセンサーは3種類。スコープ、ソナー、サーモグラフィだ。つまり、光学、音、熱を感知することができ、契約者を相手にしても、だいぶ有利と言える。
「敵発見! 相手は、……学生!」
「おっしゃ! 了解!」
「ちょっ、他にありませんの?」
「十分だ! 剛志、援護頼むぜ!」
「……シルフィーナ、キャノンいける?」
「万端じゃ」
 その声で戦端が開いた。
 薫のビームライフルが、未羅をめがけて放たれる。
「うひゃーー! あっちちち!」
 射程距離ギリギリのビームは、未羅の肩口を僅かにかすめた。
「っかー! 惜しい!」
「かおるん、来るよ!」
「あそこだなっ! お姉ちゃん、先に行くのっ!」
 弾幕援護のスキルを乗せて、未羅の六連ミサイルポッドが火を噴いた。
「くぅっ!」
 ビルを盾にしながら、薫は旋回で回避する。――が、被弾。
「かおるん、左腕やられた! 損傷率45%!」
「もう一発、くらえなの!」
 機晶ロケットランチャーを構える未羅。
 そこへ翼が割って入る。
「未羅、よけてっ!」
「へ?」
「ええいぃ!」
 後ろから全力で未羅を突き飛ばす翼。
 直後、ビル群を貫くビームキャノンが、2人のいたところを灰にした。
「助かったぜ、剛志……」
 と、そこへ、巨大なハルバードが振り下ろされる。
「うぉ!あぶねえ!」
「会いたかったよ、イーグリット」
 猛烈な威圧感。
 片手にモンキーレンチ、片手にハルバードを携えた未沙がそこにいた。
 アンジェラが叫ぶ。
「大羽さん、上ですわ!」
 我に返った薫は、思い切りブーストを吹かした。
「それを待ってたっ!」
 上昇しようとしたイコンのブースターへ、未沙が氷術を放つ。
 噴射口が見る間に凍てつくが、バランスを崩しただけで、イーグリットは上空高く飛び立った。
 「なるほど、温度に対する耐性はあるんだね。や、温度というより……」
 なぜか満足げな表情の未沙。
 そのころ、ネルは隠れ身で、イコン陣営の深くまで潜り込んでいる。サーモグラフィの異変にシルフィーナが気付いたときは、彼女はすでに接敵距離に入っていた。
「シ、シルフィーナ、これは」
「むう、一本取られたの……前衛に集中しすぎたわい」
「しばらく、大人しくしてくださいませ」
 姿を見せると同時に、ネルは鬼眼を放つ。
「!」
 しかし、――イコンのコクピットに鬼眼は届かなかった。
「隙あり!」
 傍らに控えていた神無月 スル(かんなづき・する)のコームラントが、ネルに向けてキャノンを放った。
「くぅううっ! ……出直してきますわね」
 超感覚で直撃は免れたものの、ネルは手痛いダメージを負う。
「あ、あぶなかった……」
「一回限りの幸運じゃな。さて、前線に指示を送ろうかの」
 マイクに向けて、シルフィーナは何ごとかを呟いた。
「――了解。今度はこっちの番だよ、アンジェラ!」
「ええ!」
 アンジェラ機が上空で旋回を始め、速度を上げていく。
「大羽さんは陸戦――いけますか?」
「おう! その方が性に合ってるしな」
 アンジェラが超音速からの射撃牽制、出来た隙に薫が地上で接近戦。
 イーグリットの飛行速度はマッハ2に迫る。それを狙うのは至難の業だ。
「イーグリット、予想より随分速いな。私も出よう」
 イコン側の作戦にいち早く気付いた悠がガトリング砲を携え、前線へと突入する。これで4対2。数的には圧倒的有利……のはずだが、未沙が見あたらない。
「お姉ちゃん? 向こうの方へ歩いていったの」
 未羅が指さしたのは、さっきビームキャノンが飛んで来た方向だった。
「まさか、コームラントを」
「やりかねないな……まあいい、ヘマはしないだろう」
 そこへアンジェラ機のビームが容赦なく降ってくる。
「わぁっ!」
「全員、遮蔽物を利用しつつ、近接機に十字砲火だ」
「聞いたぜ!」
 ビルの上から突っ込んできた薫が、未羅へサーベルで一太刀を浴びせる。
「きゃぁあ!」
「速い!」
 脚部固定していた未羅は、とっさにランチャーの砲身で受け止める。が。
「あちちち! と、とけるの〜」
「鉄でサーベルは防げないんだぜ! でやっ!」
 ◆
「朝野 未羅、離脱」
 ぶぅん、と音がして、未羅の視界がシミュレータ内に戻った。
「ああんもぅ! 悔しいの!」
 ◆
「やったなあっ!」
 翼のガトリングが轟音を上げて回転する。
 片端から瓦礫になる市街。
「脚部損傷! かおるん、もたないよー!」
「くっ、近づけないぜ」
「翼、左に回れ! 受け止める手段がない以上、近接に付き合うことはできない」
「了解!」
 巨大なガトリング砲を構え、悠と翼は二手に分かれた。
「大羽機、十字砲火が来るぞ! アンジェラ機、援護じゃ」
「了解!」
 しかしビル群での連携は、慣れと経験の分、悠と翼に分があった。
「――もらった」
 アンジェラの援護も一歩及ばず、悠のスプレーショットが、イーグリットの側面をとらえる。
 ◆
「大羽 薫機、離脱」
「ちくしょー! もうちょいやれたのに」
「でも頑張ったよ!」
 ◆
「大羽さん!」
 空中に1機残されたアンジェラ。
「こうなれば、剛志さんたちの援護を信じて――」
「特攻、だね」
「ああもう! それだけはしたくなかったですわ」
 言いながら、ブースターを下に向ける。
 地上に降りて、2人の位置をコームラントの射線上に誘導する。その後は――知らない。そういう作戦だ。
 しかしその時、神無月 スル(かんなづき・する)のコームラントが未沙に出くわしていた。単身搭乗のため、性能は3割ほどに落ちており、未沙にのし掛かられると動きを封じられてしまう。
「きゃぁっ!」
「んふふふ……」
 未沙のレンチが怪しく輝く。いや、もう何もかもが怪しい。
「まずは正面装甲を取り外すよ、って、あれ!?」
 驚く未沙。コームラントの装甲、さらにカバー下は……「空」だった。
「なんで何にもないの!?」
 ◇
「聡、なんで何もないんだ?」
「ああ、アイツ、『データはもらってるけど、中身が見えたら負け確定、離脱だ。だから作んなくてもいいよな』とか言ってたな」
「ビルの中身はちゃんと作ってるのにか?」
「そこはまあ、ブチ壊したときのロマンのためだな」
「……よく分からないが、分かった」
 ◇
 
 スルはそのまま離脱。その直後、あっけに取られる未沙の背後から、剛志と咲月 くるり(さきづき・くるり)のキャノンが同時に発射される。超至近距離であり、回避は不可能だった。
 ◆
「朝野 未沙、離脱」
「くっそー! 涼司くん、覚えてなさいよ!」
 ◆
 アンジェラの特攻のタイミングで、未沙に気を取られたコームラント陣。
 ビームキャノンは高威力な分、連射が効かない。一発あたりのエネルギーは決まっており、調整もできないのだ。
「ま、間に合え!」
 ようやく充填を終えた剛志のキャノンが狙いを定める。
 が、その時間差は致命的だった。
「やられましたわ……あのレンチのかた、回り込んでいましたのね」
 地に足を付けた状態――しかも悠と翼を相手にしては、イーグリットと言えど、たったの数秒が命取りである。
 ◆
「アンジェラ・アーベントロート機、離脱」
「お掃除……」
「マグロさん……」
 ◆
 その時、時間切れを示すランプがコンソールに光った。
「も、もう15分!?」
「むう、あっという間だの」
 シミュレーションルームに戻ってくる、生き残った面々。
 翔が判定を告げる。
 ◇
「第一試合は――3対2。蒼空学園の勝利だ」
 
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