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【学校紹介】イコンシミュレーター

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【学校紹介】イコンシミュレーター
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リアクション


第四試合

葛葉 杏(くずのは・あん)
橘 早苗(たちばな・さなえ)
榊 孝明(さかき・たかあき)
益田 椿(ますだ・つばき)
桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)
リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)
+α



姫宮 和希(ひめみや・かずき)
ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)
ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)
平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)
籠利 佳奈美(こもり・かなみ)


 ◇

 シミュレータ上のサイズは、実際の身長に比例する――
 というわけで、ジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)は20メートルに迫る巨漢、いや巨大生物と化していた。
「おおお! すごい迫力だよ、ジェイコブ!」
 籠利 佳奈美(こもり・かなみ)が、ジェイコブの脚をばしばし叩く。
「まったくだぜ。そのままでも良かったんじゃないのか」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)が茶化す。ジェイコブほどではないが、彼も15メートルくらいはありそうだ。
「先輩だって負けちゃいねぇよ! あっはっは!」
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)が笑う。ラルクはパラ実の卒業生であり、姫宮は後輩にあたる。
「……なんていうか、肉々しいチームだね」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお) は、自分と一緒に大きくなった十円玉をまじまじと眺めながら呟く。
 普段、こういう機会自体に乏しいジェイコブは、そんなチームメイトを見渡すと、「……まあ、宜しく頼む」とだけ言って、微笑んだ。

 ◇

「天御柱側に連絡。増援が到着した。参加機体数を5機とするため、この試合ではイーグリット2機が加わる。名もなきパイロット達だが、よろしく」
「名もなきとはなんだ!」
「そうだ! 『真夏のイーグリット兄弟』の異名を取る俺たちを……」
「では、試合開始」

 ◇

「ニーバー、相手の情報は分かったのか?」
「いいえ――やはり教えてもらえないようです。訓練とはいえ……いえ、訓練だから、でしょうか」
 コームラントのコクピットで、桐生 景勝(きりゅう・かげかつ)リンドセイ・ニーバー(りんどせい・にーばー)が話をしている。
「ま、仕方ねぇか。出てきたやつ全部落としゃいいってことで」
 そこに、榊 孝明(さかき・たかあき)から通信が入る。
「葛葉、桐生、聞こえるか。まず俺が上がって索敵をする。相手を確認したら、後衛から崩していくぞ。長距離はコームラントにかかっているからな」
「OK、榊ちゃん」
「了解! 早苗、あなたも索敵、頼むね」
 桐生機と並んでコームラントを操る葛葉 杏(くずのは・あん)が、パートナーの橘 早苗(たちばな・さなえ)に声をかける。
「はい、杏さん。――ここからは精神感応で行きますね」
 榊のイーグリットは、ゆるやかに上昇を始める。
「じゃ、生徒Aと生徒Bのイーグリットはサポートを宜しく」
「誰がAとBだ!」

(おい孝明、こいつは……)
(どうした、椿)
 榊のパートナー、益田 椿(ますだ・つばき)が異変に気付いたのは、それから数秒後だった。
(スコープ上は4人だが、5人だ。5人とも確認した。……くそっ! 速い!)
 その時にはもう、姫宮はイーグリットの射程圏内に入ろうとしている。
 少し遅れてラルクと籠利、ジェイコブ、隠れ身を使ったレオと続く。
 全員が走っていた。
「5人で同時攻撃だと!」
 さすがに意表を突かれる天御柱チーム。
 姫宮がビルの壁から壁を蹴り、そのままホバーしていた生徒Aに襲いかかる。
「一人目、頂きだぜっ!」
 ――その時、天御柱側でただ1人、先に行動していた人物がいた。
「軽身功、来ると思ってました! 景勝さん!」
「さすがだぜぇ、ニーバー!」
 ニーバーがコームラントを先回りさせ、姫宮とイーグリットを視界に捉える。
 その照準に姫宮が入ると同時に、ビームキャノンが火を噴いた。
「うおぉおおっ!?」
 姫宮は、捕まえようとしていたイーグリットを蹴っ飛ばして方向を変え、辛うじてキャノンの直撃をかわす。それでも無傷というわけには行かず、思い切り墜落してビル3つを全壊させる。
「ぶはっ、埃まみれにしやがって……やるじゃねぇか!」
 蹴っ飛ばされたイーグリットに佳奈美がエペで攻撃するが、これは今一歩届かない。
「くっそー、降りてこーい!」
「全員、距離を取れ! 音速域までスロットル全開!」
 榊の声が響く。
「させるかよ!」
 榊機に向けて、ラルクが遠当てを放った。榊はそれを正面装甲で受ける。
 強烈な衝撃。――だが、損傷は大きくない。同時にライフルで牽制する。
「今だ、葛葉」
 旋回を始めた杏のコームラントが、その隙に射撃体勢に入る。
「了解、行くよっ!」
(杏さん、左のビルの看板下に1秒後)
(OK!)
 1秒後。ラルクの一歩先が吹っ飛んだ。
「おおっ!? 先回りか!」
 早苗の偏差射撃に、さすがのラルクも動きが止まる。
 桐生・ニーバー操縦のコームラントも、上空を旋回しながらキャノンを連射する。
 イーグリット3機は着かず離れずの距離でライフル牽制。 
 生徒ABが時速600キロほど、それ以外はマッハで飛び回っている状況であり、蒼空側に打つ手はない――。
 かに見えた。

 イーグリットのコクピットから見た、地面にうつる影がおかしい。
 そう思った瞬間。生徒Aは「ビル」に激突していた。そのまま落ちる。
「ばぐぶっ」
「あ、兄者ー!」

 ◆

「生徒A、離脱」
「ブラザー……頼んだ」

 ◆

(孝明、右だ!)
(おおっ!)
 榊機はサーベルを抜くと、飛来する建造物を両断した。
 この速度域では、さすがのイーグリットも急な停止や旋回は出来ない。目の前に何かが現れたら、破壊するしかない。
 ――地上では、ジェイコブが「ビルを投げていた」。
「マジかよ!」
 さすがの桐生も叫ばざるを得ない。
 その間にもジェイコブは無言かつ無表情で、手近な建物を「摘んでは」、イコンの軌道上に放り込んでくる。
 それぞれの機体は速度を落とす代わりに、高度を取って安全を確保する作戦に出た。
 それを見たジェイコブが、ひときわ大きな高層ビルを両手でへし折ると、それを空高く投げつける。
「……ふんっ」
 ビルを破壊すべく、ライフルとキャノンを向けようとするイコン陣。しかし。
 ――そこには、高速で飛ぶビルの頂上に立つ、1人の令嬢……に見える男、がいた。
「はっはっはっ、引っ掛かった、ね、君たち……」
 顔面蒼白で勝ち誇るレオ。
「か、隠れ身で、ここに、潜んで、いた、のさ。囮になる、ため、に」
 
 姫宮がジェイコブに尋ねる。
「そういう作戦だったのか?」
「……いや、知らない」

「みんな、あ、後は、まかせた。食らえ! 一刀両断、ゴルディアスインパクト!」
 葛葉機に向って飛翔するレオ。命をかけたヒロイックアサルトが光を放つ。
 それは、地上からは美しく見えた。まるでロウソクの最後のともしびのように。
「こんな目立つ状況で、そんな目立つ技……! 死んでもくらうもんかーっ!」
 杏が叫ぶ。なにか譲れないものがかかっているらしい。
 振り下ろされたレオの光条兵器を、サーベルでがっちり受け止める。
「わぁっ!」
 空中でバランスを崩すレオ。そのとき、彼のポケットから10円玉が溢れだした。
 地上にバラまかれる巨大な10円玉の群れは、その場にいる人間の目を釘付けにした。
「……よくやった、レオ」
 その空白の一瞬に、ジェイコブの奈落の鉄鎖が発動する。

 ――地上は大乱戦となった。
 遮蔽となる建造物はもはや殆ど消え失せ、ただの平地と化している。
 近接格闘なら人間に分がある、と思えても、イコンの武器は基本的に避けるほかないので、サーベルを振り回されるだけでも近づきがたい。
 しかし残り時間も少ない。弱そうな相手を集中して狙い、ポイントを稼ぐほかない。
 姫宮とラルクが、出力3割の生徒Bに特攻する。
「姫宮! 俺が隙を作る。その間に叩け!」
「了解だぜ!」
 が、榊もそれは百も承知で、彼の周りは常にコームラント2機の射線が囲むようにしている。
「ちぃっ! 飛び道具相手じゃあ、どうにもならねぇ」
 イコン側が狙うのは、経験が少ないとおぼしき佳奈美だが、これはジェイコブとレオががっちりとガードしている。
 佳奈美自身もただ守られているだけではなく、隙あらばエペを振るってくるだけにやっかいだ。
(くそっ、もう1機生き残っていれば……万事休すか)

 榊は唇を噛み、天を仰ぐ。
 そこで試合終了となった。

 ◇

「第四試合――5対4。蒼空学園の勝利」