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リアクション
最終試合
榛原 勇(はいばら・ゆう)
榛原 美奈(はいばら・みな)
天貴 彩羽(あまむち・あやは)
天貴 彩華(あまむち・あやか)
西城 陽(さいじょう・よう)
横島 沙羅(よこしま・さら)
+α
対
志方 綾乃(しかた・あやの)
高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)
久世 沙幸(くぜ・さゆき)
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)
赤羽 美央(あかばね・みお)
◇
イコンシミュレータによる合同訓練も、残すは1試合。
他校を相手にした激闘死闘の系譜も、ひとまず区切りを迎えようとしている。
天御柱はこれに勝てば3対3の引き分け、勝負はサドンデス・ジャンケンに持ち込まれる。
あの巨大エレベータの清掃。それだけはなんとしても避けたいところだが……。
最後のアナウンスをするために、翔はコンソールの前に立つ。
「――翔、調子はどうだ」
そのとき、シミュレータルームに一人の少女が姿を現した。翔のパートナー、アリサ・ダリン(ありさ・だりん)である。
「アリサ! 今日は準備で忙しいんじゃないのか」
「ちょっと様子を見にな……なんだ、負けているのか」
「ああ、さすが百戦錬磨の蒼空学園だ」
「次が最終試合か」
「ああ」
「出ないのか?」
「……ひょっとしてそれが目的か?」
「ん、まあ、そうそうある機会でもないしな」
「……」
「それに、この間の実戦、あの感覚を忘れないようにしたい」
「お前、そうとう出たいんだな」
アリサは頬を膨らます。
「そうだ! 分かったらさっさと準備をしろ。女を待たせる男は……」
翔が微笑んで言う。
「嫌われる、か」
◇
「あーあー。天御柱の諸君。俺は臨時の審判員を務める、山葉聡だ。さてこの試合も、イコンが2機加わって数合わせをすることになる。名もなきパイロット達だが……」
「……イーグリットの辻永とアリサだ、宜しく頼む」
ルーム内に歓声が上がる。この2人は学院でもトップクラスの有名人だ。
「コームラントの生徒Cだ。よろしく」
「ヤケになってるな……よし、最終試合、開始だ!」
◇
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と久世 沙幸(くぜ・さゆき)が、早速コンビを組んで、ビル街を疾駆する。コンビと言っても、二人並んでいるわけではなく、久世は下、小鳥遊はビルとビルの屋上をつなぐ移動する。
「よしっ! この辺でいいかな!」
小鳥遊は、適当なビルの屋上で光条兵器のブライトマシンガンを取り出すと、どっかり腰を下ろしてイコンが来るのを待つ。
久世にとって、屋上で重火器を乱射する小鳥遊は、絶好の相性だった。
彼女に注目が集まってくれれば、自分もやりやすくなる。
(行くよ、彩華!)
(了解ですぅ〜!)
迷彩塗装で、全身を蒼く染め上げたイーグリットに乗るのは天貴 彩羽(あまむち・あやは)と天貴 彩華(あまむち・あやか)。
索敵しながら、いつ出くわしても旋回射撃に入れるよう、すでに音速近くまで機速は上がっている。と、遠くのビルの上に、光るマシンガンと蒼空学園の制服を着た少女を発見。
はっきり言ってめちゃくちゃ目立っている。
小鳥遊のマシンガンより先に、彩羽のライフルが射程に入った。
(……発射!)
ビームが正確に小鳥遊を直撃……したが、それは彼女のミラージュだった。
「あっぶな! ……今度はこっちの番だよ!」
お返しとばかりにマシンガンをフルオートでぶっ放す小鳥遊。
ビルが穴だらけになっていく。
が、彩羽のイーグリットは迷彩塗装の上に音速で飛んでいるので、一発当てるのもさえ至難の技だ。しかしリロードの必要が無い上に弾数は無制限の光条兵器に、彩羽も攻め手に欠ける。
その少し後方では、榛原 勇(はいばら・ゆう)と榛原 美奈(はいばら・みな)の乗るコームラントが、隠れ身状態の久世をサーチしていた。スペックではイーグリットに劣るものの、光学、熱、音に対してはコームラントもセンサーを持っており、体温がある以上補足されてしまう。
「お兄ちゃん、見つけたの?」
「ビルの影にひとり……美奈、連絡頼むよ」
美奈はチームに久世の情報を伝えると、気付かれないようにキャノンで狙いを定める。
「射程距離ギリギリ入った! 行けぇ!」
唸りを上げて飛ぶビームキャノン。久世は殺気看破を張っていたが、コクピット内の人間にはスキルが通用しないため、反応が遅れる。
「わああっ!」
サーモグラフィの表示が多少アバウトなのが幸いして、直撃は免れるものの、ダメージはしっかり通った。
「くうぅ、戦術的撤退だもん!」
隠れ身のままいったん引く久世。小鳥遊との共闘に注力しようという考えだ。
――その頃、赤羽 美央(あかばね・みお)は小型火空挺の中で獲物を探していた。
彼女は巨大化せず、普通のサイズでイコン戦に臨んでいるのだが、コームラントのキャノン発射を真横で見て、さすがにちょっと震えた。
「この飛空艇じゃあ、喰らえばもちろん、かすっただけでも大爆発ね」
そこへ、西城 陽(さいじょう・よう)と横島 沙羅(よこしま・さら)のコームラントを発見する。
どうやら、動く気配がない。赤羽にとっては好都合だった。
「では、はじめましょうか――」
赤羽はコームラントの背後に飛空艇を寄せると、そのまま頭に向ってジャンプした。
がしっ、と頭のパーツをつかみ、体勢を固定させる。
「よし、ここからが勝負ね。ランスバレスト!」
慎重に装甲を避け、頭のパーツを取り外そうとする――ところで気付く。
「コクピット、ここじゃないんだ!」
「おい沙羅、頭のあたりになんかいるぞ。どーする」
「なんかいる?……なんかいるなら、こうするよ」
沙羅は自分の頭にすっとキャノンを向ける。
「!!」
この動作のためらいのなさに、美央は鳥肌を立てた。本能的に飛空艇に向う。
沙羅はトリガーを引いた。
じゅん、という音がして、沙羅機の首から上が蒸発する。
辻永とアリサのイーグリットが、志方 綾乃(しかた・あやの)と高性能 こたつ(こうせいのう・こたつ)のエリアに差し掛かる。
「翔、サーモグラフィに注意だ……熱源がある」
「……了解。遠目からライフルで牽制を行なう」
翔はライフルの射程外からトリガーを引いた。
威力は減衰するが、相手の出方を伺える。
ライフルは熱源に着弾、しかし目立った反応はなし。
「? 気のせいか……」
そして熱源の脇を通過しようとした瞬間……イーグリットに落雷した。
「おおっ!?」
綾乃の雷術である。彼女は、ライフルの初撃をあえて避けなかった。
ライフルが減衰すると見て、罠を張ったのだった。
翔はそれに引っ掛かった格好になる。
それに連動して、ビルに擬態していたこたつが、機関銃と6連ポッドを放つ。
「アリサ、離れるぞ! 損傷してるか?」
「それほどでもない。総合6%だ」
その場でブースターを全開にして上空に退避する辻永機。
落雷による衝撃はあったが、イコンに電撃はほぼ通じない。
再び姿を隠す綾乃とこたつ。こたつのほうはサーモグラフィでも見えない。
そこへ天貴機と小鳥遊が、撃ち合いをしながらなだれ込んできた。
ダメージはほぼ互角。徐々に続いた削り合いも、終盤に差し掛かっている。
「このあたりはまずい、」
と通信を開こうとするが、綾乃の張っている情報攪乱により通じない。
久世を追いかけた榛原機も現れ、乱戦模様となる。
完全に迷彩砲台と化したこたつが、榛原のコームラントを襲う。
「くらいなさいな!」
巨大な天板が回転しながら襲いかかってくる光景は、この世のものとは思えない。
(お兄ちゃん、ビル狙って!)
(お、おう!)
榛原は距離を取ってこたつの攻撃を避け、ビルを破壊して足場を消す作戦に出た。と同時に立ちこめる埃が視界を奪う。
辻永機は綾乃に対して、高速旋回からの射撃作戦に出る。熱で姿を見られる以上、留まっていては負けてしまう。
「――志方ない、ね」
綾乃は立ち上がり、魔法戦に切り替える。が、火、水、雷のいずれも、イコンにダメージが通らない。
「うそ、イコンって……」
さすがに虚をつかれる綾乃。そのとき、後方から1機のコームラントが近づいて来ていた。
沙羅機である。頭部センサを失ったが、乱戦と見て、目視でここまでやってきていたのだ。
照準を合わせられないため、ほぼゼロ距離からのキャノン発射。コームラントも無事では済まず、沙羅機と綾乃は同時に離脱した。
「さっきの仕返しだもんね!」
一時離脱していた久世が、乱戦で強みを発揮していた。まず生徒Cがあっさりブラインドナイブスの犠牲になる。その後、一度地上に降りた天貴姉妹のイーグリットと互角の白兵戦を繰り広げる。こたつは榛原兄妹と激しい騙し合いの最中で手が出ない。
辻永のイーグリットは基本のヒットアンドアウェイに徹するが、小鳥遊の切れ目ないマシンガン相手に、なかなか勝機を見いだせない。彼女の発射弾数は、すでに20万発を超えようとしていた。
――現実じゃなくて、助かったな――。
最後の瞬間、翔の胸に去来したのは、そんな感情だった。
◇
「最終試合。4対3、蒼空学園の勝利」
◇
勝負が確定し、喜びに沸くルーム内の蒼空陣営。
小鳥遊が、天御柱チームのもとへやってきた。
「いやー、手がすっかりぼわぼわしちゃったよ!」
ぼわぼわ、とはマシンガンを延々と撃ちっぱなしにしたときの感覚である。
「全然あたんないしさ! 強いね、イコンは。今度は一緒に鏖殺寺院と戦おうね!」
そういうと、1人1人と握手して回る。「じゃっ、またね!」
「なんて強い人なんだ……僕にもあんな日が来るだろうか」
感銘を受けたのは榛原勇。
――今日の訓練が彼らに何を残したのかは、まだ知れない。
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