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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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【カナン再生記】 降砂の大地に挑む勇者たち

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 砦が佇む森の中。
 マルドゥークの居城の様子を探るべく上空を行った祥子たちが『砦』からの弓撃を受けているのを見上げている生徒たちがいた。
 コミュニティ【冒険屋ギルド】の面々はルミナスヴァルキリーに乗船することなくカナン入国を果たしていた。
 天津 麻羅(あまつ・まら)の『ヒポグリフ』、そして火軻具土 命(ひのかぐつちの・みこと)の『小型飛空艇アルバトロス』にて上空から入国した一行は、手始めに『枯れかけの森』の探索を始めた。拠点となりうる場所を探しているうちに『砦』に出くわし、例の弓撃劇を目撃したというわけである。
「どうして攻撃されたのかしら」
 水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)が首を傾げた。「彼女たちが何かした? ……そうは見えなかったわよね?」
 がゆっくりと頷いた。いつも『ぽけ〜』としているだけに、どこまで理解しているのかは分からなかったが、ここは理解した上での頷きだと信じることにした。
「何もしていないのに攻撃されたとなれば、それはつまりあの砦が既に敵の手に墜ちているという事じゃと考えられるのう」
 麻羅もゆっくりと頷きながらに言った。ただしこちらは明らかに『意識的に』だった。
「ずいぶん回りくどい言い方をしたわね」
「森の中をただ歩くのも飽きてきたのでな。無駄に口を動かして気分転換を図ったのじゃ」
「成果はあった?」
「そうでもないのう。もっとグチグチと言えた気がして、余計にモヤモヤしておるよ」
 一見すれば緑あふれる森なのだが、根本は砂が厚く積もり重なっている。3年と保たずに森は『枯れ木の森』となることだろう。
 モンスターたちも『森の未来には果実は生らない』と気付いているのだろうか、これまでの道中でモンスターに出くわすことは一度も無かった。
「出会わないに越したことはないわ。危険な目に遭うのは御免だもの」
「何じゃ? 出会い系サイトへの注意喚起標語か?」
「そんなわけ……もういいわ」
 フィと顔を背けてしまった緋雨に、麻羅は笑みながらに謝った。
「とにかくじゃ、砦が敵方である可能性がある以上、近づくことなく気付かれる事なく、この場を去るのが得策というわけじゃ―――」
「お前たち、そこで何をしている」
 頭上から声がした、そんな気がした。単純に馬に乗っているからであったのだが、男たちの威圧的な口調も助長したのかもしれない。一瞬で、場が凍り付いた。
「何をしているのかと訊いている。答えよ!」
 槍先を向けられて緋雨が仰け反った。戦うことは出来るが、今はその時ではないだろう。
「あ、あの、私たち迷っちゃったみたいで。ジャタの森を歩いていたはずなのに、気付いたらここに居て……」
「ジャタの森? 貴様等、シャンバラの者か!!」
 男の後方にいた兵士たちまで槍を構えだした。これは……思った以上にヨロシクナイ。
「待って待って、ここはどこなの? ジャタの森でしょう?」
「ここは西カナンの地! ネルガル様が治める地であるぞ」
ネルガル様が治める?! 冗談じゃねぇ!! 「ネルガルが強奪した土地」だろうが!!
 クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)が、そして天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)がそう叫ぼうとしていた。それをが止めた。服の裾をしっかりと摘んで、2人の暴走を止めてみせた。
 そんなのファインプレーがあった事など露知らず、
「ここが西カナンですって? そんなっ……気付かないうちに国境を越えてしまっていたなんて……どうしましょう」
 こちらは『ワザトラシい』の極みだった。緋雨は明らかに楽しんでいたが、槍向ける兵士は明らかに苛立っていた。
「武器を捨てて両手を上げろ!!」
 一斉に。槍、剣、弓矢。様々な切っ先が突きつけられた。こうなっては大人しく従うしかない……と思うだろう、普通ならば。
「そうそう、普通はそう思うよなぁ」
「貴様! 早く武器を捨てて―――」
 兵士の視界の中で、ニヤリと笑んだ鬼羅の顔がブレてから消えた。
「おらよっ!!」
 左方の巨木が倒れてくる。兵士たちは慌てて退いてこれを避けた。
「今だぜっ!!」
 かけ声と共に一行は一斉に駆けだした。
「くそっ、待てっ!!」
 倒れた巨木が邪魔をして、初足を踏み出せなかった。この間に一行は距離を稼いでは逃げ駆けていった。
 幹の元まで『神速』で移動した鬼羅は、持ち前の怪力で太幹を一気にへし折った。風貌だけでなく、その発想も、そして腕力さえも常軌を逸しているようだ。
 そのおかげで、とも言えるのだろうか。突然の逃避行が突如始まった。
 一行は次なる災難に出会うべく、枯れかけの森を駆け抜いてゆくのであった。