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家庭科室の少女達

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家庭科室の少女達

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【三 室外戦】
 組長正子の号令のもと、鉄人組は第二家庭科室を飛び出し、羽衣会の篭もる用具室を目指した。
 鉄人組の一団は、B303号棟の吹き抜け部分を縦横に駆ける空中回廊へと進撃した。この空中回廊はその名の通り、吹き抜けの中をリング状に結んでおり、且つ、スロープ階段によって縦にも繋がれている。
 七階の第三美術室方面を目指すには、本棟の階段を使うより、空中回廊の斜面を走った方が早いのである。
 相変わらず、理王を人馬に使ったまま組長正子は悠然と腕を組み、幅の広い両肩で風を切りながら、空中回廊を突き進む。100キロを超える体重を抱えたままの理王だが、図らずも、組長正子の体重を、その身をもって思い知るという点では、十分に目的を達しているといえなくもない。
 そして第二家庭科室だが、こちらは留守居の守兵が僅かに残っているばかりであり、そんな中、椿とミナは何となく置いてけぼりを喰らったような気分で、畳敷きのスペースでお茶をすすっていた。
 轟音が第二家庭科室を盛大に震動させたのは、ミナが三枚目の煎餅を口に運んだ時であった。
「な、何、何? 何ですのぉ!?」
 ミナが口元から煎餅の食べかすを派手に散らかしながら、室外へと飛び出す。その後に、椿と守兵の鉄人組組員達が慌てて続いた。
「おい、何だよ、あいつら!」
 椿が思わず叫ぶ。
 少し離れた廊下に、パワードシリーズの武装を施した、相沢 洋(あいざわ・ひろし)乃木坂 みと(のぎさか・みと)の姿が見えた。
「第二家庭科室内部に存在するのは、全て敵性と判断。みと! オールマジックウェポンフリー、全魔法使用許可!」
「攻撃許可確認、全魔力装填! いっきま〜す!」
 ふたりにとっては、蒼空の学舎がどうなろうと知ったことではない。治安秩序回復の為には、多少の犠牲は止むを得ないという発想のもと、相手が誰であろうとお構い無しに、パワードレーザーを最大出力で叩き込む。
 それが、教導団の正義である。少なくとも、洋にとっては唯一無二の正義であった。
 しかし残念ながら、洋の掲げる正義は遂に執行されることなく、終わってしまった。

     * * *

「どわぁっ!」
 洋とみとのパワードレーザーが火を噴く前に、逆に背後から別の火が噴いてきた。
 第二家庭科室の奪取を目論む『さくらんぼの会』の面々、即ち藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)湯島 茜(ゆしま・あかね)エミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)の三人である。
 第二家庭科室に対する奇襲には成功した洋とみとだったが、逆にさくらんぼの会による痛恨の不意打ちを喰らう形となってしまった。
「はっははは! 料理研究部や服飾研究部の如きが家庭科室を占有出来るとは、お笑いぐさだな!」
 茜の挑発に乗ったのは、意外にも椿だった。
「んだとぉ!? てめぇらに、家庭科室を持たないパラ実の悲哀が分かってたまるかよ!」
「あら……パラ実の方々も、部室目当てでお揃いですの? 宜しいですわ。皆さんまとめて屠って差し上げましょう」
 優梨子が別段驚いた風も無く、どこか淡々とした調子で、小さな含み笑いを漏らした。
 彼女にしてみれば、蒼空学園に干し首カルチャーを広めに来たつもりが、意外にも教導団やパラ実の生徒達にも出くわしたのだ。ひとりでも多くの他校生に、愛すべき干し首の美点を伝えることが出来るのなら、これに勝る喜びは無い。
 突然、優梨子の背後から『最終レンアイ兵器』のインストラメンツが、大音量で流れ出してきた。何かと思えば、エミリーの用意した小型アンプが、その音源となっていた。
「どいつもこいつも、まとめてかかってこい! なのであります!」
 一体どこからそんな自信が湧き出てくるのか分からないのだが、エミリーはこの時確かに、本気で敵対する者全員をひとりで引き受けるつもりだった。
 だが、ここで更に、敵がもうひとり増えた。
 巨大なハンマーを掲げる紅いロングヘアーが、第二家庭科室の外壁に付近にふらりと現れていた。緋ノ神 紅凛(ひのかみ・こうりん)である。
 彼女はあからさまに、第二家庭科室を破壊する所作を見せ、且つにやりと笑って、半ば挑発するように大きく振りかぶった。
 次の瞬間、紅凛のハンマーによる第一撃は、第二家庭科室の外壁の一部を、えぐるように砕いていた。
「あらあら……あなたは、破壊派の方のようですわね」
 どことなく凄惨な色を含んだ優梨子の笑顔に、しかし紅凛は、飄々とした軽い態度で返す。
「いやぁ、ちょいと個人的にね、おっかないから抗争を止めてくれと頼まれた訳なんだけど……中々面白そうな展開になってきてるじゃない」
 この状況を面白い、といい切るところに、紅凛の凄みがある。
 増してや相手はパラ実の生徒に、さくらんぼの会のメンバーである。そういった面々を向こうにまわして尚、強気に出るというのは、そうそう簡単に出来ることではない。

     * * *

 その時突然、洋とみとが勢い良くがばっと起き上がり、紅凛の側についた。第二家庭科室もろとも破壊の嵐を吹き荒れさせようという意図があったふたりにしてみれば、まさに破壊の権化と化した紅凛の登場は、むしろ援軍を得たに等しい。
「みと、オールマジックウェポン・リスタート! 照準合わせ!」
「全魔力再装填開始! 完了まで180秒!」
 ところが、洋とみとの攻撃はまたも、背後から強制中断の憂き目に遭う。元凶は、紅凛の振るった巨大なハンマーによる一撃であった。
「どわっ!……な、何故だ!?」
 流石の洋も、動揺が隠せない。
 味方だとばかり思っていた紅凛が、まさに問答無用とばかりに背中から不意打ちに近い一発を叩き込んできたのであるから、それも仕方のないところであろう。
 更にそこへ、エミリーの鍋が上から覆いかぶさってきて、洋の視界を奪った。のみならず、優梨子の操る針と糸がパワードスーツをものの見事に解体してしまったではないか。
 一体、どのような秘術を使えば、こんな芸当が可能になるのであろうか。
 そこで得意げに胸を張ったのが優梨子当人ではなく、何故か茜だった。
「見たか! 我がさくらんぼの会の秘術を! この見事な針捌き、糸捌きを! これこそ、第二家庭科室が我らに相応しい証であるといえよう!」
 まぁ要するに、挑発専門員といったところであろう。
 ここで第二家庭科室前の戦いを簡単に整理すると、既に室内に居場所を与えられた椿とミナ、それを奪おうとするさくらんぼの会の優梨子と茜、エミリー、そして単に破壊だけを目的とする紅凛。
 現状は、この三者による三つ巴戦といったところであろうか。
 残念ながら、洋とみとは武装解除を施され、今や無力な外野と化した感がある。