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家庭科室の少女達

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家庭科室の少女達

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【七 第二家庭科室】
 本棟七階の階段踊り場では、再び羽衣会と鉄人組が激突しようとしていた。
 ところがその直前、間に割って入ってきた者が居る。長原 淳二(ながはら・じゅんじ)だった。
「ねぇちょっと、待ってくれませんか!」
 両腕を左右一杯に広げて、鉄人組の前に立ちはだかる淳二。流石に部外者を問答無用で傷つける訳にもいかないようで、両団体はすんでのところで踏みとどまり、両者睨み合う格好となった。
 辛うじて乱闘を未然に防ぐことに成功した淳二は、安堵の吐息を漏らした。
「どうか、待ってください。きっと何か、上手い解決方法がある筈です。何もこんな、力と力でぶつかり合うような真似などしなくても……」
 だが、淳二の言葉はそこで遮られた。
 美晴が伝令の女子組員から何事かを聞き取っていたのだが、その表情が緊張に強張り、慌てて組長正子の前に飛び出してきたのである。
「組長! 奴らが、出ました!」
「何! 来たか!」
 美晴に応じた直後、次に組長正子は意外にも、淳二の頭越しに羽衣会へと面を向けて、叫んだ。
「藤原! 長洲! かねてよりの計画通りだ! 我らは東から進む! うぬらは西側を頼むぞ!」
「心得ました!」
 まるで、最初から示し合わせていたかのように、羽衣会と鉄人組は連携した動きで、五階へと一斉に走り出した。
 困惑したのは、羽衣会に助っ人として参加していた面々である。
「これは、一体どういうことだ?」
 ジェイコブが敦美を捕まえて、やや詰問する口調で訊いた。すると敦美は、若干申し訳なさそうな表情で頭を掻きながら、曰く。
「御免なさい、実は、こういうことだったの。でも、当初からお願いしていた通りよ。ここからが本番。もしまだ協力してくれる意思があるのなら、今度こそ全力で助けてくれるかしら?」
 一瞬、ジェイコブは考える素振りを見せたが、フィリシアが苦笑しながら頷きかけてくると、もうその時点で腹が決まった。
「乗りかかった船だ。最後まで付き合おう」
 その一方で、あゆみと加夜は、若干戸惑い気味ではあったが、羽衣会と鉄人組が、実は最初から敵対などしていなかった事実を知り、むしろ安堵の気持ちが強かった。
「詳しい話は、後でじっくり聞かせてもらおうよ! 今はとにかく、皆を助けてあげなきゃ!」
「そう……ですね。それに今度は、あの正子さんが味方につくんですもの。是非、あの大きな背中を守ってあげなきゃ」
 かくして、羽衣会の助っ人達は、五階の第二会議室へと急行する。

     * * *

 NWF、とは何者か。
 翔が調べ上げたところによれば、蒼空学園の全ての家庭科室を、闇から牛耳ろうとする武装女性団体であり、部外者や男子生徒を、家庭科室から完全に駆逐することを目的としている連中であるらしい。
 これまで羽衣会や鉄人組には、決して少なくない人数の男子部員が居たのだが、その全てが、NWFのゲリラ攻撃に次々と襲われ、ひとり、またひとりと退部していったのだという。
 NWFのこのような暴挙に怒ったのが、羽衣会会頭の伊ノ木美津子であった。組長正子の幼馴染であり、一番の親友でもある美津子が、NWFに対して果敢に抵抗したのである。
 だが、蒼空財管の役員を父兄に持つNWFのメンバーを敵に回すのは、美津子ひとりでは余りに非力過ぎた。結局彼女はNWFによる制裁を受けた挙句、蒼空学園を退学させられたのである。
 この仕打ちに、誰よりも組長正子が激怒した。
 だが、日頃はなかなか表に出てこないNWFを、一体どうやって誘い出し、そして一気に叩きのめせば良いのだろうか。
 正子は一計を案じた。羽衣会と鉄人組の両団体が第二家庭科室を巡って抗争を始め、揃って疲弊する姿を見せれば、必ずNWFが現れるであろうと考えたのだ。
 こうして組長正子は、美津子の意思を受け継いだふたりの副会頭、藤原と長洲の両名と示し合わせ、わざと派手な抗争を繰り広げることにしたのだ。

     * * *

「何だよ! 結局ただの茶番だったって訳かよ!」
 呆れながらも、再び戦場に舞い戻ってきた透乃だったが、今度の相手は更に手強いらしい。陽子と揃って第二家庭科室に到着した時には、既に羽衣会・鉄人組の連合部隊が、NWF相手に苦戦を強いられているところであった。
 ここに、横審の面々が参戦してきた。のみならず、十六文の一撃を喰らって離脱した筈の黎明華も、組長正子をサポートする強力な援軍として、対NWF戦に参加していたのである。
 これで、戦力的にはNWFと拮抗する形となった。後は、気合の問題であった。
 そして気合ならば、組長正子を筆頭に、気合の塊のような連中が、鉄人組・羽衣会側にはごろごろと居る。結果は自ずと見えた。

     * * *

 長い一日が終わった。
 結局、NWFを殲滅するには至らなかったが、相当に痛めつけることには成功した。しばらくは、おとなしくしていることだろう。
「それにしても、よくぞ連中の攻撃を見抜いたものだな」
 第二家庭科室の畳敷きスペースにどっかりと腰を下ろした組長正子が、ルカルカに笑いかけた。
 山葉校長からNWFの存在と、伊ノ木会頭の退学処分の話を聞いた瞬間に、ルカルカの回転の速い頭脳は、ほとんど一瞬にして全てを理解したのだという。

     * * *

 第二家庭科室がその後どうなったのか。
 実は、使用を望む全ての者に対して、蒼空生徒であるか否かを問わず、使用権が与えられたという。
 鉄人組は、そもそも最初から第二家庭科室の覇権など、どうでも良かったのだ。組長正子にしてみれば、あくまでもNWFを誘い出す為の餌という考えでしかなかったのである。
 以後、さくらんぼの会が第二家庭科室の東側の三分の一の占有使用権を得た他、椿とミナが滞在と出入りの自由を約束された。
 そして意外にも、横審が第二家庭科室の顧問集団として、正式に就任することになったという。今後は羽衣会と合同で、イベントや興業などの立案を練っていくことになるだろう。
 そして――。
「お帰りなさいませ、お嬢様〜」
 後日。
 第二家庭科室の西側をカフェエリアとして使用する権限を与えられた理沙が、メイドカフェ『第二』をオープンした。
 そこには、何故か看板メイドとして売り出すことになった歩の、妙に活き活きした姿が日々見られたという。

『家庭科室の少女達』 了

担当マスターより

▼担当マスター

革酎

▼マスターコメント

 当シナリオ担当の革酎です。
 このたびはご参加頂きまして、まことにありがとうございました。

 また、本業の多忙により、最後はかなりばたばたした展開になってしまいましたことをお詫び致します。次はもうちょっと余裕のある時を見越して、シナリオガイドを公表することに致します。

 それでは皆様、ごきげんよう。