波羅蜜多実業高等学校へ

葦原明倫館

校長室

空京大学へ

レッツ罠合戦!

リアクション公開中!

レッツ罠合戦!

リアクション

「落とし穴、って言ってもたいしたこと無いね」
「そうですねえ……やっちゃん、大丈夫ですか?」
 落とし穴の底で呑気な会話を繰り広げて居るのは霧雨 透乃(きりさめ・とうの)とそのパートナーである緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)です。透乃の方は「龍鱗化」のスキルで皮膚が硬質化しているためダメージが少なく、陽子の方は「痛みを知らぬ我が躯」のスキルを発動しているため痛覚が鈍っています。そのため、結構な高さから落ちたというのに二人ともぴんぴんしています。その横で。
「こ、これくらいはどうってことない……」
 透乃のもう一人のパートナー、霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)がちょっぴり痛そうにしています。受け身は取った物の、落ちた時の衝撃は結構なものでした。
「無理しちゃダメだよ?」
 そう言いながら、透乃は身軽な動きで壁を蹴ってさっさと落とし穴から脱出します。残された陽子と泰宏は、陽子が空飛ぶ魔法↑↑を唱えて脱出しました。
 脱出直前、陽子は懐からエステ用ローションのボトルを取りだして中身をその中にぶちまけておきました。誰かが落ちたらヌルヌルです。綺麗なお姉さんが落っこちてくれることを祈らずにはいられません。
「……怪しい」
 陽子達が落とし穴から顔を出すと、そこでは透乃が行く手を睨んでいました。
「……怪しい、ですね」
 透乃が睨んでいたのは、あからさまに「火を吹くぞぉ!」と言わんばかりの石像……なのですが、問題はその足元。
 壁と像との隙間に、ちょこん、とぬいぐるみが置いてあります。
 あからさまに新しいもので、遺跡にもともとあったものとは考えにくく、恐らく先行する誰かが――先ほどここを通ったレキが、なのですが――設置したものでしょう。
「罠かな」
「罠でしょうねぇ……」
「……迂回した方がいいかな。どうせ炎は大丈夫だし。あ、陽子ちゃん、気をつけてね」
 「痛みを知らぬ我が躯」で炎に弱くなっている陽子を庇うように、「龍鱗化」で炎に強くなっている透乃が像の側に立ちます。ついでに泰宏がファイアプロテクトを掛け、三人は火を吹く石像の前を駆け抜けて行きました。


 さて、先ほどからあっちへこっちへ罠を仕掛けながら進んでいるのはアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)とそのパートナー、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)の二人……一人と一体?……です。
「そろそろ入り口の落とし穴、誰か落ちたかな?」
「あんな急ごしらえ、誰も引っかからないワヨ」
 ――へっくしょい、と洞窟のどこかでエヴァルトがくしゃみをしました。
「仕方ないだろ、本当は前日に作っておく計画だったんだから……さて、この辺にはこいつをっと……」
 言いながら、アキラは床にびしゃぁ、とエステ用ローションをぶちまけます。しかし洞窟内は暗いので、一見そこが濡れていることは判りません。おまけに、ローションを撒いた地面の中心にバナナの皮を設置します。「バナナを避ければ大丈夫」と油断させる作戦です。
「さて、次の部屋には……」
 扉を開けて小部屋へ侵入すると、まずは罠の有無を確認します。罠を仕掛けている最中に天井に潰されては本末転倒です。幸いこの部屋は大丈夫そうです。
 するとアキラは、何処からともなく大量の週刊少年シャンバラを取り出しました。シャンバラ中で大人気の少年漫画雑誌です。しかも、何処から手に入れたものか、数年前の、黄金世代とも呼ばれた人気作家が競演していた時代の、名作ばかりが掲載されているものです。それが一冊二冊ではありません。
「ふふふ……これで男子諸君の足止めは確実!」
「そんなので引っかかるのカシラ?」
 アキラの頭の上に乗っているアリスが疑問の声を上げます。しかしそんなこと気にも留めず、アキラは大量の週刊少年シャンバラを、出口の扉の前にわざと崩して詰んでおきました。これを片づけなければ扉を開けることが出来ません。片づけの最中、表紙につられて一ページでも捲ったら最後です。皆さんも経験があることでしょう。
「これでよし……そして、次の部屋には!」
 少年漫画部屋の設置を終えると、アキラは次の部屋に入ります。
 そして、これまた何処からともなく大量の――失礼、ちょっと誇張しました。数匹のわたげうさぎを解き放ちました!
 もふもふもふもふ、わたげうさぎ達は狭い部屋の中を自由に飛び回ります。これはもう、思わずもふもふしない者は居ないでしょう。
「これで俺の罠は完璧だ!」

「おぉう!」
 突然足元が崩れて短い悲鳴を上げたのは、ミリー・朱沈(みりー・ちゅーしぇん)です。
 ミリーが落とし穴に落ちきる直前、隣を歩いていたパートナーのフラット・クライベル(ふらっと・くらいべる)がさっとロープを投げます。それに掴まって、ミリーはなんとか落とし穴から出てきました。
「気をつけてよねぇ、遊べなくなっちゃうよぉ?」
 そう言うフラットにごめんごめん、と軽く謝り、ミリーは懐から地図を取り出します。
 二人の行く手には、別れ道。地図を見ると、左の道が正しいようです。
「そしたら……」
 ミリーはうふふ、と楽しそうに笑いながら用意してきた血糊を取り出します。そして、正しい方の道の床にぶちまけました。
 あっという間に、なんともグロテスクな、ねっちょりとした血だまりのできあがりです。こんな道、あんまり通りたくありませんね。
「ミリー、ミリー、こっちも使おう?」
 フラットがどこからともなく、クモやらカエルやらヘビやら、それから頭に「G」のつく例の生物やらの詰まった袋を取り出しました。
「そうだね! 楽しそう!」
 二人はそれは楽しそうに、洞窟の床にぴん、と糸を張り巡らせました。そして、その先に例の袋を結びつけます。うっかり足を引っかけたら悲劇です。
「誰が引っかかるかなぁ?」
「早く悲鳴が聞きたいねっ!」
 楽しそうに顔を見合わせて、二人はそのまま奥へ奥へと進んでいくのでした。

――ここに罠があります
 そう書かれた張り紙をさっきからあちらこちらに貼り付けているのは天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)です。
 実際は何のトラップも仕掛けられていない所ばかりに、です。
「ふふふ……これこそ史上最大のトラップ! 誰にも解くことなどできまいっ!」
 そうです。「罠があります」と貼り付けておきながら実は罠などない、無駄な緊張を強いる為の罠です。さらには、最後の最後には本当に罠を仕掛けるつもり満々です。
 その最後の罠に誰かが引っかかる事を考えると、ヒロユキの顔は自然とにんまり笑顔になります。
「さあ、奥へ急ぐぞ!」
 足取りも軽く、ヒロユキは洞窟の奥へと向かいます。