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レッツ罠合戦!

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レッツ罠合戦!

リアクション

 さて、ニクラス達よりも随分と先行しているのは、相沢 洋(あいざわ・ひろし)とそのパートナー、乃木坂 みと(のぎさか・みと)です。
 サンタのトナカイに乗ってここまで進んできたので、落とし穴はスルー。その他のトラップも、重量感知式のものが多い為、飛んでいればほぼスルーできました。
「さて、ここらへんでいいかな?」
 そう言うと、洋はよっこらせとソリから降りて、地面を検分し始めます。
「……」
 その横では、みとが怪しい石像をじっと見詰めています。
「あの石像怪しいですねえ……」
 みとが見詰めている石像、実にまさしく火を吹く石像なのですが、真正面に立たなければ反応することはありません。
「ふた、しておきますか」
 万が一洋が作業中に発動してしまっては危険です。そう判断したみとは、氷術でもって石像の口をカチコチに氷らせてしまいました。
「よし、設置完了だ」
 その間に、洋が罠の設置を終えて立ち上がります。
 足元に設置されているのは、感圧式散弾地雷……中身は所謂、トリモチです。
「行くぞ」
「はぁい」
 洋が再びソリに飛び乗ると、みとがそれ、と手綱を取って、二人を乗せたソリは洞窟の奥へ奥へと向かっていきます。

 その一方でクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)もまた、別の地点でせっせと罠を仕掛けています。
「頭に「ぺ」が付く類の天使であると噂の俺が、本物の罠ってヤツをご覧にいれましょう。」
 そう言いながらにんまりと笑い、用意してきた箱をちょっと奥まった位置へ、仰々しく設置しました。そしてその中に、古びた羊皮紙を丸めて入れます。羊皮紙には、「数々の罠を潜り抜け、ここまで辿り着いた。その経験は、貴方に自信を与えるでしょう。その経験と自信こそが宝です」と、何ともそれっぽい事が書かれています。
 奥へと続く扉には、「STAFF ONLY」と書かれたプレートを貼り付けます。
「これでよし、と」
 上出来上出来、と手を打ち合わせると奥へ続くドアを開け、非物質化させていたガーゴイルを物質化させ、先行させて奥へと向かっていきました。勿論、ちゃんと閉めていく事も忘れずに。

 どぉん……ず……ん……
 重たい足音を響かせながら進んでくるのは、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の連れている改造ゴーレムです。レキ本人はその後をぺたぺたとくっついて歩いています。
「こら、もう少し歩幅を狭くせんか! リーチの違いを考えんとは配慮が足りぬわ……」
 そのさらに後から、レキの足跡を辿るようにして着いてくるのはレキのパートナー、ミア・マハ(みあ・まは)です。レキの足跡を踏んで歩けば罠には掛からない、という判断からの行動ですが、コンパスの違いに難儀している様子。
「どうしたの、ミア?」
 パートナーからの苦情にレキが振り向いた、その時。
 がらっ……どぉおん……
 盛大な音を立てて、ゴーレムが床にめり込んでいきました。落とし穴です。
「おお。落ちたわねぇ……」
 しかしその落とし穴は、ゴーレムが全て埋まるほどの深さが無かったようで、頭だけが地面から突きだしています。
「今行くねー」
 レキはぱたぱたとゴーレムの元へ走り寄ると、よっこらせ、と這い上がろうとしているゴーレムに手を貸してやります。そうしているうちに、ミアも落とし穴の所までやってきます。
「っと、この穴は塞いでおかないとね」
 ゴーレムが穴から這い上がったのを確認すると、レキは用意してきた土色の紙を取り出します。
 レキがばさ、とそれを穴の上に広げるその一瞬の隙に、ミアは懐から取りだした何かを穴の中にぽとりと落としました。が、広がった紙に視界を奪われていたレキには見えません。
「これでヨシっと!」
 上機嫌のレキが、ぱんぱんと手を叩きます。すっかりカモフラージュされた落とし穴は、もう傍目には判りません。トラッパーのスキルがあればこその仕上がりです。
「あ……あれは噂の火を吹く像かな?」
 そうと知っていれば恐くありません。像と壁の間には人一人通れる程度の隙間があります。ゴーレムは燃えませんから強行突破させ、二人は像と壁の隙間を抜けます。
 おまけ、とばかりにレキは懐からぬいぐるみを取りだし、今通り抜けた隙間に設置します。
 別に何がある訳ではありませんが、あからさまに怪しいので後続の足止めくらいは出来るでしょう。
「さ、行こう、ミア」
「そうじゃな」
 そう言うと、二人と一体ははゴーレムを戦闘に、レキ、それからミアの順番で再び歩き出します。 立ち去り際にちら、と振り向いたミアが、落とし穴のある場所を見てニヤリと笑いました。
「誰が引っかかるか、見物じゃのう」


「この程度のダンジョンじゃ、歴戦の契約者にとっては簡単過ぎません?」
 そう言いながらせっせせっせと落とし穴を掘っているのは、蒼空学園の生徒である八神 誠一(やがみ・せいいち)です。
 落とし穴自体はそう深くありませんが、さっきから誠一はその底になにやら小瓶を仕込んでいます。さらにはトラッパーのスキルでもって、完璧なカモフラージュを施します。
 小瓶の正体は、強力瞬間接着剤。すぐに割れるよう、瓶も薄くしてある特別製です。 
 いくつかの落とし穴を作り終えると、ついでに足元にもロープを張り巡らせておく。ロープはダミーで、紛れた細い釣り糸を引っかけると接着剤が飛んでくる仕掛けです。
「さて……どうなるかな?」
 誠一はにんまりと笑うと、成り行きを見守る為物影に身を潜めたのでした。