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リアクション
よーい、どん! の合図で、律儀に走り出した一団が居ます。
「侍同好会」の同士達です。
彼等は自らの知力体力の向上のため、互いをライバルとして、誰がお宝に一番乗り出来るかを競うこととしているのでした。
「ここは槍が出るな!」
歴戦の防御術が冴え、先頭の無限 大吾(むげん・だいご)は壁から飛び出してくる槍からひらりと身をかわします。
「おっとぉ!」
続くパートナーの西表 アリカ(いりおもて・ありか)もまた、獣人特有の超感覚をさえ渡らせて回避します。
後に続く一団もそれぞれ、見切ったり耐えたり、味方を盾にしたりと各々のやり方で切り抜けます。差は開きません。
「うおぉぉぉぉぉぉ! このような罠などに拙者は負けぬ! 師匠見ていてくだされ!」
侍同好会の部長、杉原 龍漸(すぎはら・りゅうぜん)は根性で槍の壁を通過したようです。頬に傷が。
しかしこれしきのことで挫けていては部長の名が廃ります。龍漸は雄叫びを上げながら走っていきます。
「お……部長、頑張ってるな。負けてられないぞ!」
「だねっ!」
追い抜かれた大吾とアリカは顔を見合わせて頷き合うと、ぐんと走る足を加速させます。
「もー、龍兄、はりきりすぎー! 待ってよ、怪我したらボクが手当てするんだからねー!」
龍漸のパートナーである黒崎 椿(くろさき・つばき)もやれやれという表情で追いかけます。
「みんな頑張るなぁ。けど、俺達は慎重に行くぞ、幸村、家康。大抵この手のアドベンチャー映画ってのは一番手に進んだ奴はお約束みたいに痛い目に遭うからな……ん?」
柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)が走っていった連中を見送りながらパートナーたちに声を掛けます。が。
「この狸め! よくも拙者を盾にしたでござるな!」
「ふん! 棒きれの十本や百本捌けないで何が槍使いじゃ」
パートナーの真田 幸村(さなだ・ゆきむら)と徳川 家康(とくがわ・いえやす)は、言われるまでもなく槍の壁を越えた辺りでいがみ合って足を止めていました。
「二人とも、今回は協調性を身につけて貰おうと思って連れてきたんだからな……」
呆れ気味の氷藍の言葉に、幸村と家康はぷいっ、と互いに思いっきり反目します。
「それより氷藍殿、その手に持っているのはなんでござるか」
「ああ、俺も罠を仕掛けようと思ってな」
幸村の言葉に氷藍は手にしたタライやらブロックやら、「おしてね!」と書かれた見るからに適当な作りのスイッチやらを目で示します。
「氷藍殿、その罠はあまりにも雑……」
「ん、何だ?」
氷藍と幸村がそんな話をしている一方、すたすたと歩いていった家康には椿がちょっかいを掛けていました。
「にゅふ、君、家康って言うんだー。かっこいいねぇー」
「なんじゃおまえは」
「僕は龍兄の妹の椿だよぉー」
よろしくねぇ、と椿が家康に向かって手を差し出した、その瞬間。
前方から、龍漸の悲鳴が響きました。
「どうしたの、龍兄?」
慌てて椿がそちらへ向かうと、龍漸は手を床に着いたまま固まっていました。何となく全身が濡れています。
「……どうしたの?」
しかし大した外傷があるようには見えません。にもかかわらず慌てた顔をしている龍漸に、椿は怪しむような視線を向けます。
「う、動かないでござる!」
龍漸が動く方の手で、床に着いている方の手を指さします。
「なんで?」
椿は座りこむと、龍漸の手を掴んで引っ張ろうとします。すると。
べちょ。
嫌な音を立てて、椿の手のひらは龍漸の腕に固定されてしまいます。
龍漸が発動させてしまった罠とは、頭上から接着剤が降ってくるものでした。
「やだぁ! なにこれ!?」
「せ、接着剤のようでござるな」
「早く言ってよぉ!」
すっかり身動きが取れなくなってしまった龍漸と椿を置いて、他の侍同好会のメンバーはコレはチャンスとばかりに駆け抜けて行きます。
「お先に失礼するよ、部長」
花京院 秋羽(かきょういん・あきは)が龍漸に軽く手を振って行きます。
秋羽は皆を追って進みながら、落とし穴とロープを組み合わせたトラップを設置しました。万が一龍漸が復活してもさらに足止めができます。
「さ、急ごう」
罠の設置を終えると、秋羽は再び奥を目指して歩き始めました。
「あら、何かしらこのスイッチ。踏んじゃったわ」
「ッきゃぁあああ!」
文栄 瑠奈(ふみえ・るな)がおっとりと呟いた後で、その後を歩いていた冠 誼美(かんむり・よしみ)が悲鳴を上げました。目の前に槍が飛び出してきたのです、悲鳴くらい上げます。
「健闘様、危ないですわ!」
誼美の悲鳴を聞いたセレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)が、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)の腕をぐいっと掴んで引き寄せます。
「うおおぉっ?」
粘着剤を床に貼り付ける作業をしていた勇刃は、突然引っ張られたため思わずバランスを崩してセレアに思いっきりぶつかります。
「あらあら大変。大丈夫、誼美ちゃん、勇刃くん」
「う……うん、なんとか……」
怪我はしなかったものの、それでも驚きのあまり息があがった誼美は、すぅはぁとなんとか息を整えます。勇刃の方もセレアにぶつかったダメージのみです。
「じゃあ行きましょう」
そう言って瑠奈は歩みを再開します。
「うぅ、なんか疲れちゃったよー」
「大丈夫ですか?」
元気な瑠奈と対照的にがくりと肩を落としながら歩く誼美に、すぐ後を歩いているセレアが心配そうな声を掛けます。
「うん、大丈夫。あ、そうだバナナ食べようバナナ!」
持ってきていたおやつの存在を思い出し、誼美は取りだしたバナナの皮を剥くと元気にかぶりつきます。
ほどよい甘みと歯ごたえが、空腹感を満たしてくれるお陰で少し元気が出てきました。
「お、誼美ちゃん、ちょっとそれ貸してくれ!」
と、誼美が食べ終えたバナナの皮に、勇刃が手を伸ばします。
「いいけど、なんで?」
「罠と言えばバナナだろ!」
胸を張る勇刃に首を傾げながらも、誼美ははい、とバナナの皮を差し出しました。
「西瓜はないのか、西瓜は?」
「流石にスイカはないわねぇ……」
勇刃の言葉に、瑠奈が振り向いて苦笑しました。
「あ、あそこは危なそうですわね」
超感覚で何かを察したクリアンサ・エスパーニャン(くりあんさ・えすぱーにゃん)が、パートナーのレイチェル・スターリング(れいちぇる・すたーりんぐ)に告げます。するとレイチェルは、連れているガーゴイルを先行させて罠を探ります。
案の定壁に掘られている彫刻が火を吹きました。
すかさずレイチェルが氷術を唱えて彫刻の口を塞ぎます。
「よし、行こう」
氷が溶ける前に二人で急いで通り抜けます。
が。
「お?」
彫刻の前を通り過ぎて一安心、と思った瞬間、二人の足元が崩れました。
二人はもつれ合いながら落下していき、結局、クリアンサが仰向けに落ちた上にレイチェルが重なる形で落とし穴の底に叩きつけられます。
「いったぁい……ですわ……」
「油断しちゃったね。残念……」
クリアンサの上で上体を起こしながら、レイチェルが上を見上げて呟きます。
その拍子に、身体を支えていた手がクリアンサの胸を掴みます。
「うーん……こっちも残念」
「どういう意味ですの!」
クリアンサがきぃ、と食って掛かるのを尻目に、レイチェルはよっこらせ、と立ち上がります。
続いてクリアンサも起きあがります。すると、その背中の下からひらり、と女性ものの下着が落ちました。
「……何だろ、これ」
レイチェルがそれをつまみ上げて首を捻ります。……男子諸君に向けて誰かさん――ミア・マハですが――が設置していったものですが、落ちたのは彼女たちでした。
「おーい、大丈夫かい、お嬢さんたち」
と、そこへ穴の入り口から声がします。
声に続いてひょこりと覗き込んできたのは、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)です。お宝目当てに来てみたものの、人の多さに既にやる気を喪失気味、取り敢えず罠を回避しつつここまでやってきていたのでした。
「困ってる女の子はトライブさん頑張って助けちゃうよ」
ふふん、と得意げに笑いながら、トライブは手にしたワイヤークローを穴の底へと投擲します。
空飛ぶ箒を持っているのだけれど、とクリアンサとレイチェルは顔を見合わせますが、折角助けてくれると言っているのですから楽をさせてもらおうか、と二人は目だけで会話します。こくりと頷きあうと、投げ入れられたワイヤーに二人でぶら下がりました。
「あ、あの、出来たら一人ずつ……」
「よっ……と」
洞窟のだいぶ奥深いところまでやってきた桜葉 忍(さくらば・しのぶ)は、女王の加護にイナンナの加護、さらに歴戦の立ち回りを駆使して鮮やかに罠を避けていきます。
「忍よ、その調子で罠が設置されている箇所を見つけていくがよい」
すると、その様子を見ていたパートナーの織田 信長(おだ・のぶなが)が満足そうに言います。
「ああ、わかった。信長も罠の設置は任せた」
忍の答えに信長も頷くと、信長は忍が回避した落とし穴のカモフラージュを少しだけ崩し、その隙間から内部に酒の瓶を仕込みます。勿論、綺麗に塞いでおくことも忘れません。
これで、酒好きが中に落ちたら足止めは確実です。
「っと、そこ気をつけろ、何か埋まってるぞ」
忍が次の罠を見付けます。すると、もう一人のパートナーであるノア・アーク・アダムズ(のあ・あーくあだむず)が、すかさず破壊工作を働きます。
「忍が罠を見つけてくれるから、あたしは楽ができていいわね」
洞窟の構造にダメージを与えないように罠を破壊し、ノアはうーん、と伸びをします。
「ノアも少し罠を見つけるの手伝ってくれないか? 俺一人で罠を見つけるのは意外に大変なんだぞ」
その呑気な発言を聞きつけた忍が先頭を歩きながら声を掛けますが、ノアは何処吹く風。
「あたしだってあんたが見つけた罠を破壊する仕事があるんだから、別にいいでしょ」
そう言いながら、忍の後を着いていきます。
三人は順調に罠の発見と破壊、設置を繰り返しながら、どんどん洞窟の奥へと進みます。
そして、ついに。
「おお……ここか……」
最深部の扉の前に、たどり着いたのでした。
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